[小林啓倫のドローン最前線]Vol.04 ドローンが実現する「自己修復する都市」

2015-12-11 掲載

都市問題にドローンを活かす

世界はいま、「都市の時代」に突入しようとしている。国連の調査によれば、2014年度の世界全体での都市人口率は54%。既に2人に1人が都市に住むようになっているのだ。しかもこれは先進国だけの傾向ではない。2017年までに、ほとんどの国々で都市人口が農村人口を上回るようになるだろうと国連は予測している。

そうなると避けられないのが、過密する都市をどう維持していくのかという問題だ。たとえば道路に小さな穴が開いたからといって、主要な幹線道を封鎖して工事を行えば、たちまち渋滞が起きて経済に悪影響を及ぼす。かといって放置していては、さらに穴が大きくなり、もっとやっかいな問題になるかもしれない。都市の機能を動かしながらその保守を行うというのは、一筋縄ではいかない難問である。

kobayashi_DRN_04_01 ドローンにインフラ修復まで任せようというアイデアが研究段階に

最近は「スマートシティ」などの呼び名で、高度なICT技術を導入し、都市全体の状況をリアルタイムに把握可能にするという取り組みが行われている。都市という身体に、神経のネットワークを張り巡らせるようなものだ。確かにそうした情報収集の仕組みは、都市の時代に不可欠なインフラとなるだろう。ただいま何が起きつつあるかを把握できても、適切なタイミングで物理的な対応ができなければ意味がない。そこでいま、世界各地の研究機関が目を向けているのが、ドローンを始めとしたロボットの活用である。

そうした研究機関のひとつが、英国中部の都市リーズに拠点を置くリーズ大学だ。彼らは2015年10月、英国政府内の組織であるEPSRC(Engineering and Physical Sciences Research Council、工学・物理科学研究会議)から420万英ポンド(約7.8億円)の研究助成金を得た。この資金を元にリーズ大学が推進しようとしているのが、ロボットによって実現される「自らを修復する都市」の研究である。

計画によれば、リーズ大学はドローンや陸上の自走ロボットなど、さまざまな小型ロボットを開発。それらが都市の中を巡回して、道路や信号機、配水管など各種インフラに問題が発生していないかを確認する。そして何らかの問題があれば、必要な資材を現場に運び、自分たちで修復してしまうのである。さらにそうした作業が人々の社会活動や環境に悪影響を及ぼさないよう、負荷を最小限にする形で設計・計画が行われることを目指すとしている。

このプロジェクトを率いるリーズ大学のフィル・パーネル教授は、大学が発表したプレスリリースにおいて、「リーズを『道路工事による混乱がゼロになる世界初の都市』にすることを目指す」とコメントしている。既にリーズ市当局の関係者とも調整を行っており、安全性を確立した上で、実際に市内での実証実験を進める構えだ。車線の片側が規制され、発生した渋滞でイライラするドライバーを横目に、作業員たちが道路を掘り起こす――などという光景も、過去のものになるのだろうか。

後手から先手へ

kobayashi_DRN_04_02 荘厳なリーズ市庁舎の維持もドローンが担うようになる?

もう少し詳しく、リーズ大学が検討している研究内容を見てみよう。発表によれば、彼らは当初、次の3つの領域でそれぞれロボットを開発するとしている。

  • [着地と修復(Perch and Repair)]
    高所でも安定して着地することが可能で、さらにその場で修復作業を実施可能なドローンを開発する
  • [発見と応急処置(Perceive and Patch)]
    道路に開いた穴を自動で発見し、必要な応急処置を施せるドローンを開発する
  • [発進と放置(Fire and Forget)]
    下水道管や電線用の土管などの空間にいったん入れてしまえば、長期運用可能なロボットをつくり、彼らに内部の監視と報告・必要な応急処置を行わせる

既にインフラ点検は産業用ドローンの有効な用途のひとつとして、世界各国で研究が行われており、送電線やパイプライン、線路の確認を行うといった実例も生まれつつある。またドローンに何らかの荷物や機器を運ばせるという点についても、ドローン配送や災害対応(ドローンによる救命具や医薬品等の輸送)といった形で急速に研究が進んでいる。リーズ大学の研究は、これらを融合し、ドローン活用の究極の姿を目指すものと言えるだろう。

こうした都市の修復作業をロボットに任せることには、市民生活や経済活動を邪魔することなく工事が進められるという利点に加え、もうひとつメリットがあるとプロジェクトの関係者は指摘する。それは「後手に回るのではなく、先手を打って」都市機能の維持を行えるという点である。

人間による異常の検知には、どうしても肉体的な限界が存在する。いくら高性能なセンサーを使ったとしても、疲れから計器を見誤ったり、人員不足から点検が必要な箇所すべてを回れなかったりといった事態が発生し得るのだ。そのためどうしても、問題が目に見える形になってから(道路や土管などに大きなヒビが入ってから)大がかりな工事を行うことになってしまう。

しかしドローンやロボットが自ら都市の中を動き回り、頻繁にインフラをチェックできるようになれば、これまで検知不可能だったごく初期の異常を発見できるようになる。そうすれば修復作業が小規模で済むようになり、大規模な工事が必要な場合も、より長い時間をかけて計画的に対応可能になるだろうと研究者たちは期待しているのである。

もちろんこのプロジェクトで期待されているようなドローンを開発するには、現時点のものよりもずっと高度な技術が求められる。彼らのビジョンが実現するのはまだまだ先だが、近未来にはドローンが道路の穴を埋めたり、ゴミを回収したり、窓を拭いたりするなど、都市機能の維持に必要不可欠な存在になっているかもしれない。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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