[小林啓倫のドローン最前線]Vol.11 「クラウドAI」時代に突入するドローン

2016-09-21 掲載

玩具を変えるクラウドAI

「おしゃべりする人形」と言われて、どのような玩具を思い浮かべるだろうか。そんなものがあるのか、と驚く人は少ないだろう。こうしたコンセプトで売り出されている商品は以前から存在し、しかもその大部分が、あらかじめ登録されている言葉や文章をランダムに発するというものである。そのような玩具の走りとも言えるTiger Electronics社の「ファービー」は、1998年に発売を開始しており、決して目新しいものではない。

しかし米国のスタートアップであるCogniToys社が開発しているのは「おしゃべりする人形」の概念を一新する製品だ。彼らは文字通りの意味で「おしゃべりする」玩具をつくろうとしているのである。

映像に登場している恐竜型の人形が、彼らが開発中の玩具「Dino」である。Dinoは子供の発言内容を正確に把握し、それに適切な回答を返している。たとえば「月までの距離はどのくらい?」と問われて「だいたい25万マイル(約40万キロメートル)です」と答える、といった具合だ。しかも映像では表現されていないが、Dinoはこれまでの会話を蓄積し、個々の子供に合わせてカスタマイズされた対応ができるようになっている。

もちろんDinoの内部に、あらかじめこうした回答データや、高度な学習能力が内蔵されているわけではない。実はDinoは通信機能を備えており、マイクで拾った音声データをクラウドへと送信。そこに控えているAI(人工知能)でデータを解析し、内容を把握したうえで、さらにAIで適切な答えを導き出し、それをDino本体に返して発言させているのである。つまりDinoの「頭脳」はクラウド上にあって、恐竜の姿をした人形は、それとのやり取りを仲介するインターフェースに過ぎないというわけだ。もちろんそれで遊ぶ子供たちの目には、あたかもDino本体が賢い頭脳を持ち、返事をしてくれているように見えていることだろう。

Dinoが接続しているクラウド上のAIは、IBMが開発した「Watson」である(IBMはWastonをAIではなく「コグニティブ・コンピューティング・システム」と称しているが)。Watsonは2011年2月に、人間用のクイズ番組に出演し、そこで人間のクイズ王に勝利する(しかも人間と同じ「早押し問題」というルールに従った上で!)という離れ業を演じたことで知られる。

最近では、医療や金融業の世界で活用されるようになっており、人間に代わって様々な業務を行ったり、人間の業務をサポートしたりしている。それほどの力を持つ「頭脳」を、Dinoという単なる玩具ですら活用できる時代になったというわけだ。

こうした「クラウド上にAIソリューションを準備して、ネットワーク経由で接続可能にし、さまざまなモノが賢い動きをする」という発想は、近年「クラウドAI」と呼ばれており、多種多様な製品がその恩恵を受けるようになっている。そしてもちろん、ドローンもその例外ではない。

ドローン分野に参入するWatson

先ほどのDinoを実現しているIBMのWatsonが、ドローン分野への参入を始めている。その先駆けのひとつが、Aerialtronics社との提携だ。 Aerialtronics社はオランダのドローンメーカーで、ドローンの機体と各種の関連ソフトウェア、衝突回避システムなどを開発している。ドローン製造に3Dプリンターを導入したり、政府によるドローン活用に機体を提供したりするなど、先進的な取り組みを進める企業だ。

今回の提携では、携帯電話の基地局や風力発電のタービン、オイルリグといったインフラ関連施設の点検にWatsonを活用することが検討されている。ドローンがカメラでとらえた映像をAPI経由でWatsonに送り、そこで画像解析を実施。何らかの異常が発生していないかどうかを確認する。

またクラウド側では、ドローンから送られてくる各種データを基にAIが「学習」し、分析精度が向上していく。それにより、単に異常を認識するだけでなく、たとえば「部品の修理を行うべきか、行うとしたらいつ行うべきか」というアドバイスまで行えるようになるとのことだ。

それだけのシステムを自社で開発するとなれば、巨額の費用が必要になるだろう。実際にIBMでは、開発されたWatsonをさまざまな分野で事業展開するためだけでも、10億ドル(約1000億円)の予算と2000人規模の開発人員を投じていると報じられている。2012年に立ち上げられたばかりで、社員も100名に満たないAerialtronics社では、とても無理な開発規模だ。しかし今回の提携では、AerialtronicsはIBMに対し、「データ処理を行った分だけ支払う」という従量制の料金体系でWatsonを使えるようになっている。まさにクラウドサービスを利用するのと同じ感覚で、高度なAIを活用できるというわけだ。

AerialtronicsとIBMの提携では、Watsonの持つ画像解析能力の活用が念頭に置かれている。しかし他分野でのクラウドAIに目を向けると、異常の予測(観察対象のだけでなく、クラウドAIを利用する機器類自体を含む)や機器類の自動化といった領域にまで、サービス展開が拡大されようとしている。

さらにクラウドAIを利用する業者が増え、集められるデータが増えれば増えるほど、AIが学習するスピードも上がり、それだけ機能の高度化が急速に進むと期待できる。情報処理をクラウドに任せることができれば、その分機体の側は小型化・軽量化を進められるはずだ。

子供が遊ぶ玩具ですら、クラウド上にある極めて高度なAIに接続し、一昔前までは不可能だった機能を気軽に活用できる世界が到来している。都市部や市街地のような、通信環境が確保されている場所では、クラウド上にある1つの巨大な「頭脳」が何千機ものドローンを支援するという時代も、目の前まで来ているのかもしれない。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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