[空飛ぶマシンに魅せられて]Vol.07 横浜スタジアムのフライト〜ドローンにワイヤーをつけての飛行

2016-12-08 掲載

航空法的に厳しい

今年の夏、ぼくらのチームでいくつかのライブイベントでの撮影を引き受けました。そのうちの一つに、ポルノグラフィティさんの「横浜ロマンスポルノ’16~THE WAY~」というのがありまして、内容的には次のようなものです。

オーディエンス全員に配られたシンクロライトが、ライブ本編の曲で文字を示すパターンで光るので、その景色を150mの上空から真俯瞰に近い状態で撮影してほしい。

そのドローン映像は、サービス用のLEDモニターに映し出されてライブはクライマックスを迎える。というもの。場所は横浜スタジアム。スタジアムのある関内は完全にDID地域で、動員されるお客さんは約3万人。近くには高速道路に根岸線、さらに夜間での運用。これはキツイ。

皆さんご存知だと思いますが、2015年12月に改正航空法により、人口密集地域でのフライトは禁止、物件または人から30mではフライト禁止、幹線道路や鉄道、イベントの近傍はフライト禁止。目視外も、夜間のフライトも禁止になりました。もちろん、個別申請や包括申請を出して細かく許可を取れば飛行可能ですが、今回の場合、ほとんどすべてにわたって該当してしまいます。特にDID地域でのイベント、夜間飛行に関しては許可を取るのが難しい上に、お客さんの頭上、それも3万人の真俯瞰に近いところでホバリングさせるようなオーダーでは、簡単に許可が出ないことが予想されます。

なんとかトライして成功させたい

もともと僕は某タレントのサポートギタリストとして全国ツアーを回っていた事もあって、ライブには強い思い入れもありますし、今回のシンクロライトはライゾマティクスさんの担当。現在ドローンを生業にしている以上、何としてもやりきりたい案件です。

僕のチームはDID、物件または人から30mの全国包括と目視外、夜間飛行の許可を持っていますが、イベントでの飛行に関しては個別に許可を取らないといけません。人が多い事、高速道路と鉄道が近い事、その条件下にプラスして高度150mでの夜間飛行が必要。そんな催し物会場近傍プラス夜間の飛行申請で、国土交通省が提示してくる条件はある程度分かっていました。それは「ドローンに飛び去り防止のワイヤーを装着」です。国土交通省からの回答を要約するとこんな感じです。

観客の頭の上はもちろん禁止ですが、安全対策を取った上で、近傍であれば許可は出せます。ただし、観客エリアからは十分な距離を取ってください。DIDで首都高速と根岸線から150mしか離れていない場所において、高度150mを希望とのことですが、それは許可を出せません。論外です。飛び去り防止のワイヤーが無いならば高度は50mに制限してください。その高度であれば許可は可能。

高度50mでは全く画角が足りないので、なんとか150mまで上昇したいけれど、ステージバックヤードの複雑なロケーションで正直ワイヤーは付けたくない…。そもそもワイヤー付きで150mなんて逆に危ない気がします。以前、国土交通省とはワイヤーを装着した方が危ない場合があるという話で激論になったことがありますが、ここでその話を持ち出すと「では、50mで我慢してください」となってしまうので我慢。となると、ドローン専用のワイヤーシステムで運用するしか方法がありません。

endo07_6960 協力:株式会社ミヤマエ(ミヤ・リードロン)

ドローン専用のワイヤーシステムというのは、なるべくドローンに負担をかけないようにワイヤーを繰り出しつつ、且つワイヤーが弛まないようにテンションを自動で調節してくれるシステムです。

ワイヤーシステムを作っている会社は国内に複数存在しますが、今回は株式会社ミヤマエの「ミヤリードロン」を使わせていただきました。機体の種類や重量、繰り出しているワイヤーの長さに合わせてテンションなどを細かく設定出来ますが、照明トラスの支柱やワイヤーなどが入り組む現場であるため、専用のワイヤーマンをつけての作業になります。

ワイヤーシステムはまだまだ万能ではありませんし、ワイヤーをつけたドローンの動きには癖があります。安全に運用するには高度な知識とスキルが必要で、ドローンが飛行する理屈と、ワイヤーを付ける事での外的影響を知り尽くしていなければいけません。

ポルノグラフィティは雨バンド

endo07_hukan スタジアム俯瞰

ライブは2日間。初日は雨。なんとポルノグラフィティは雨バンドとして有名らしく、今までの野外ライヴで雨が降ったことも多々あるのだとか。国交相の許可も頂いて、いろいろと対策を講じて、リハーサルから何度もテストしていても、本降りの雨でドローンは飛ばせませんよね…。ライブ本編の最後の曲の大事なキッカケとなっている演出がないとライブが成立しないので、 本当にハラハラしましたが、その演出のタイミング時間帯のみ雨雲が切れるといいう奇跡が起きて、見事にミッションを達成できました。もちろん2日目も。画像はそのシーンです。ライブ自体も素晴らしく、ご心配かけたスタッフチームにもお礼を言いたいです。そして、上空から眺めるシンクロライトの光はとても美しかった。

endo07_6948 協力:株式会社ミヤマエ(ミヤ・リードロン)

落ちないドローンへの進化の期待

Mavic ProやPhantom4 Pro。INSPIRE2などの高性能のセンシング技術を搭載したドローンが続々と登場しています。すべてがインテリジェントになってきて、安全性も高いレベルに来ていますが、山奥や海上、人のいない場所、安全が確保できる場所は別として、イベントやその近傍、都会の幹線道路上や鉄道の近くなどでのフライトの場合、道路や人、車や鉄道に向かって落ちていくというリスクを完全に払拭できません。

仕事上の年間フライト数も多くて、危機的なトラブルとか墜落させた経験が皆無ならば、実際に落ちるという感覚は希薄だと思いますし「もしもの時はどう対処する?」という考えもイメージしにくいというか、そんなに簡単には落ちないし、まあ大丈夫でしょう的なポジティブな感覚でいることの方が多い筈です。前回前々回ではロストしたり落としたりしないためには、どんな知識やスキルがあったら良いのかという内容でしたが、悲しいことに、落ちる時は問答無用で落ちますし、運が悪すぎるというか、納得のいかない壊れかたをする場合も多々あります。

知識やスキルでリスクをヘッジすることは可能ですが、意図しないとか、腑に落ちないとか、ありえない状況でフライアウェイしたり墜落するとしたら、なんとも防止のしようがありませんよね…。クアッドでもホバリングを維持できるシステムの登場が待ち遠しいです。

WRITER PROFILE

遠藤 祐紀
ギタリスト、Webプログラマー、BAR店主、ラーメン店経営など、Catch Allで様々な顔を持つ。 現在は株式会社ヘキサメディアに属し、並行して自身の空撮チーム【AIR FLEET】率いている。

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