[小林啓倫のドローン最前線]Vol.14 「使い捨て段ボール・ドローン」の可能性

2017-01-19 掲載

ドローンを使い捨てにできたら?

一口に「ドローン」といっても千差万別だが、一般向けの商用ドローンは、ますます身近な存在になってきている。数万円も出せばカメラ付きの機体が手に入るし、オモチャ程度で良ければ、もっと安い機体がいくらでも見つかる。複数のドローンを持っている、というケースも珍しくない。

とはいえ、ある程度の性能を求めるのであれば、予算はすぐに10万円を超えてしまう。また、消耗品のコストも考えておかなければならない。それだけに機体を慎重に扱い、飛ばす場所や時間帯を含め、コンディションに神経をとがらせているという人が多いはずだ。

だが仮に、ドローンが非常に安価で入手可能になり、継続的な使用を前提としない「使い捨て」の存在になったらどうだろうか。かつて「使い捨てカメラ」が世に登場したとき、自宅から重いカメラを持って出かけるのではなく、旅先で購入するというスタイルが可能になったように(もはやカメラはデジタル化され、携帯電話と一体化してしまっているが)「使い捨てドローン」もドローンの活用法に新たな世界を開くはずだ。

すでに数年前から、米軍では使い捨てドローンの研究が始まっている。機体を非常に簡単な構造で、簡単に組み立てられるようにしておき、戦場において3Dプリンターで出力、回収を前提とせずに敵地を偵察させるといった具合だ。

また安価で簡単に製造できるのであれば、大量に戦場に投入できる。大量に投入できれば、敵軍に全機撃墜される可能性が低くなり、さらにドローンの利便性が広がる。すでに、こうしたコンセプトを具現化するものとして、米海軍が「CICADA(セミ)」「LOCUST(イナゴ)」というコードネームで研究に取り組んでいる。

米海軍研究所の「CICADA」

実はCICADAは「Close-in Covert Autonomous Disposable Aircraft(使い捨て式近接隠密型自律航空機)」を略したもの。非常に小型で、エンジンやモーターなど推進力を生み出す部品がなく、グライダーのように滑空して飛ぶ。高い高度までほかの航空機や気球などで運び、そこから地上に向け「ばら撒いて」、地表に到達するまで情報を収集させるという使い道が想定されている。非常に小型で、静かに飛行することができるため「大量にばら撒くので、すべて撃墜されない」という以前に、敵軍に気づかれにくいという効果もある。

米海軍研究事務所の「LOCUST」

一方のLOCUSTも「Low-Cost UAV Swarming Technology(低コストUAV群形成技術)」の略になっている。低コストのドローンを使う点は一緒だが、こちらは地上からミサイル発射用のランチャーで「打ち出し」、空中で翼を広げて飛行を開始するかたちになっている。また名前に「群」という言葉が入っていることからもわかるように、大量のドローン(現時点で30機程度)で群れを形成して飛行できるようになっていて、将来的には地上のオペレーターがこの群れを操作することも検討されている。

DARPAが支援する「段ボール製ドローン」

以上の例は軍事目的だったが、使い捨てドローンの可能性は、決して軍事領域に限定されるものではない。私たちの身近な世界では、どのような使い道が考えられるだろうか。先端的で、時には奇想天外にも思える技術研究を先導することで知られる、米国のDARPA(米国防高等研究計画局)が「段ボールで使い捨てドローンを作る」という計画への出資を決定したと、米国のテクノロジー系ニュースサイトRecodeが報じている

同サイトによれば、この研究を進めているのは米サンフランシスコに拠点を置くOtherlabという企業。スタンフォードやハーバード、MITといった著名大学や、GoogleやIDEOなどの有力企業とコラボレーションしながら、先端技術開発を担っている。また過去の研究においても、DARPAからの予算獲得に成功している。

今回報じられたのは、彼らが取り組んでいるSky Machinesというプロジェクト。段ボールのように、そのまま廃棄可能な紙素材で安価な機体(固定翼型)をつくり、使い捨てドローンを実現することを目指している。

その理由は、使い捨てにすることで、ドローン配送における機体の航続距離を延長できるからだ。通常のドローン配送では、目的地に最も近い配送ステーションから機体が飛び立ち、配送完了後に出発地に戻ることを想定している。しかしそのまま目的地で廃棄されるのであれば、単純計算で航続距離を2倍にできるわけだ。もしくは航続距離はそのままで、帰り道用のバッテリーを取り除き、その分積載物を増やすことができるだろう。

街中でこのような「段ボール製使い捨てドローンによる片道配送」が行われたら、アマゾンの過剰包装どころではない段ボール問題が生まれそうだが、例えば離島などに緊急の医薬品を届ける場合であればどうか。これまでより遠くまで、あるいはより多くの物資を、より安価に配送できることになる。また使い捨てによってメンテナンスや技術者が不要になれば、導入できる地域が増え、その点でも配送可能エリアを広げることができるだろう。

実はOtherLabで同プロジェクトを率いるスター・シンプソンは、サンフランシスコでタコスのドローン配送を実現しようというプロジェクト「タココプター(TacoCopter)」にも関与している人物で、無人機による配送の実現に向け、さまざまな角度から研究を進めている。使い捨てドローンが、ドローン配送の可能性を広げるかもしれないというわけだ。

ドローンは高価で、自家用車のように大切にメンテナンスしながら使う資産――そのような固定概念を捨て、一度しか使わない消費財としてドローンを捉えたとき、誰も気づいていなかった活用法が見えてくることだろう。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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