[小林啓倫のドローン最前線]Vol.15 ドローンと市民サイエンティストの力を組み合わせる「Aerobotany」プログラム

2017-02-20 掲載

ドローン活用が進む学術研究の分野

さまざまな世界での導入が進むドローンだが、学術研究の分野でも多様な使い方が現れている。野生生物の観察や保護、海洋生物の追跡、植生の把握といった具合だ。最近も、ドローンを使った調査により、南米アマゾンで450以上の地上絵が新たに見つかったというニュースがあった。

これはサンパウロ大学の研究者、ジェニファー・ワトリング博士が行った調査によるもので、作られた時代は2000年以上前に遡るとのこと。有名なナスカの地上絵同様、何を目的に作成されたのかは、はっきりしていない。しかしこれらを詳しく調査することで、南米の原住民がヨーロッパから来た人々と接触する以前、どのような暮らしをしていたのかを解明する手がかりを与えてくれるとして期待されているそうだ。

このように人間による地上からの目線、衛星による宇宙からの目線だけでなく、ドローンによる中空からの目線が加わることは、科学的研究を大きく後押しするものになるだろう。しかし、新しい情報が得られるようになることが、即座に新しい情報を活用できるようになることを意味するわけではない。防犯カメラを増やしただけで、万引きを見逃さないようにできるわけではないのと一緒だ。映像という新しいデータをチェックし、そこに記録されている情報を引き出せなければ、データが存在しないのと同じである。

最近では防犯カメラのデータをAI(人工知能)に処理させ、人間が何時間もかけて映像をチェックしなくても、重要な情報を抽出させるという研究も進んでいる。しかし今のところ「どのような情報を抽出したいのか」を、事前に機械に教えることができなければ、全自動で情報を抽出するのは難しい。たとえば冒頭の研究でAIを使ったとして、ワトリング博士が探していたような地上絵を発見させることはできたかもしれないが、まったく別の発見、たとえばアマゾンの奥地に潜む巨大トカゲ(そんなものがいるとしての話だが)を見つけるというのは難しいだろう。

それではどうするか。一番簡単なのは「誰かにチェックをお願いする」ことだ。たとえ研究者ではない素人だったとしても、「ドローンが撮影したアマゾンの画像に何か見慣れないものが写っていないか」を確認することはできるだろう。何か写っていたらそれを研究者に伝えて、引き継げば良いのである。これならば、最初のスクリーニングをする素人を大勢集めることで、画像のチェックを短時間で済ませることができる。

実はこの発想、学術研究の分野ですでに取り入れられている。有名なのは「Galaxy Zoo」プロジェクトで、これはハッブル望遠鏡が撮影した何十万枚もの銀河の写真をWeb上に公開し、その分類を一般の人々に手伝ってもらうというもの。実際にこのプロジェクトを通じて、研究者もそれまで気づいていなかった、緑色をした球形の銀河が複数存在することが確認され「グリーンピース」と名付けられている。こうした実績から、研究活動に参加する一般の人々を「市民サイエンティスト(citizen scientist)」と呼ぶ動きもある。

自宅でドローンによるアマゾンの映像が確認できる「Aerobotany」

つまり「確認」という一見地味な作業でも、大量のデータと大量の作業者を用意できれば、新たな発見につながるかもしれないというわけだ。それをアマゾンの熱帯雨林研究で行おうとしているのが、「Aerobotany」プロジェクトである。

これはペルーのタンボパタ国立保護区で行われているプロジェクトで、Galaxy Zooのように、市民参加型でさまざまな画像の確認をネット上で行うことを可能にするプラットフォーム「Zooniverse」を利用して設置されている。

Galaxy Zooで確認するのが銀河の画像だったのに対して、こちらで確認するのは熱帯雨林の写真。といってもジャングルの中で撮影されたものではなく、ドローンを使い、熱帯雨林を上空から撮影した画像となっている。航空写真ではなくドローンの画像のため、上空と言っても木々の一本一本、葉や花などまで確認できるレベルの解像度となっている。

これを使って市民サイエンティストたちに求められるのが、写真の中にヤシ(Huasaiという種類で、ジャングルに住むさまざまな生物の食料となる実をつけるとのこと)や、花が存在するかどうかの確認だ。画面には次々とドローンが撮影した画像が表示され、確認された場合、画像に丸をつけて示すことになる。

ドローンが撮影した画像からヤシや花を探す

正確に分類した画像に対しては、1ドル分のポイントがユーザーに対して付与され、最大300ドル分のポイントを貯めることができる。貯まったポイントは、タンボパタ国立保護区内の研究施設が一般向けに公開される際、宿泊費として使用することができるそうである。

昨年12月にサイトが公開されてから、すでに1500人を超える市民サイエンティストがAerobotanyプロジェクトに参加しており、確認が行われた画像は6万枚以上になるとのこと。Galaxy Zooのように、研究者たちも知らなかった、熱帯雨林に関する新たな発見が生まれてくるかもしれない。

ドローンによる空撮の市場は、今後ますます拡大すると予想されている。それに伴って、ドローンが撮影する画像や映像の数も増加し、解析のニーズも高まる。そうなれば、市民サイエンティストが求められ、活躍する場面も、さらに増えていくに違いない。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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