[小林啓倫のドローン最前線]Vol.16 自ら壊れるドローンたち

2017-12-05 掲載

アマゾンの新たなドローン関連特許

2013年に、ドローンによる配送サービスを行うといち早く宣言し、実際にサービス実現に向けた実証実験を続けている米アマゾン。残念ながらまだ通常サービスとしてのドローン配送は開始されていないものの、街灯をドローンの充電スポットにするアイデアや、配送時に空から撮影した映像でサービス(屋根の修理など)を提案するアイデアなど、特許出願の形でドローンに関するさまざまなアイデアを発表している。  そして最近、アマゾンが新たなドローン関連特許を出願していることが明らかになった。そこに表されているのは、「自ら壊れるドローン」というアイデアである。

アマゾンが出願した「自壊するドローン」のイメージ(United States Patent and Trademark Office出願資料より

 アマゾンが出願書類に添付したイメージ画像を見ると、家やビルのそばを飛ぶドローンが、飛行中に荷物や部品などを落としながら飛行していく姿が描かれている。危ないことこの上ないのだが、なぜ自分から壊れるドローンなどが必要なのだろうか。

そのヒントは、ドローンが壊れている場所にある。イメージをよく見ると、建物の上で壊れるのではなく、木立や池の上など比較的危険の少ない場所で分解されていることがわかるだろう。そう、このドローンは無暗に崩壊しているのではなく、ちゃんと意図的に壊れていっているのである。

国土交通省の資料によれば、平成28年度に起きた、無人航空機に係る事故等は全55件。うちマルチコプターと思われるものは45件となっている。何回のフライトに対して45件の事故が起きているのかはわからないが、空を飛ぶものである以上、ドローンが墜落をまぬがれない存在であることは否定できないだろう。そこで墜落しても発火しにくいバッテリーを搭載する、パラシュートやエアバッグのような装備を搭載するなど、墜落の可能性を前提とした対策が検討されるようになっていることは、ご存知の通りだ。 「自壊するドローン」は、このテーマに対する新たなアプローチとなるものだ。何らかの理由で墜落する危険性が高くなったとき、ドローンが少しずつ荷物や部品を分離することで、大きくて重量のある状態で何かにぶつかってしまうことを避けるのである。

この自壊プロセスは、ドローンに搭載された「分解コントローラー」によって制御される。墜落の危険を察知すると、コントローラーが飛行ルートや周囲の地形、天候状態といった条件を判断。そして可能な限り安全に(前述のように木々や海・湖の上で分解するなど)、少しずつ荷物や部品を落としていく。もちろん体勢を立て直す努力はギリギリまで行われるという前提でのアイデアだろうが、戻れない一線を越えてしまった場合、できる限り被害の少ない墜落を目指すというのは理に適っているだろう。

土に還る部品

とはいえ、やはり意図的に崩壊し、部品をばらまくということには心理的な抵抗感があるかもしれない。ビルや民家を避けるために木々や海の上で分解するとなると、自然破壊も気になるところだろう。世界遺産に登録されるほどの絶景でなかったとしても、ドローンの落ちたゴミが山腹に落ちているというのはあまり気分が良いものではない。

 実はこの点について、先ほどとは違った意味で「自壊するドローン」という可能性が検討されている。それは「機体が自然に分解するドローン」である。何らかの理由で、このドローンがどこかに墜落したか、あるいは100マイル(約160キロメートル)を飛行する役目を終えて放置されたとしよう。日の光を浴びたドローンに、次第に変化が起きる。機体が解けて、分解していくのだ。太陽光に照らされて30分経過すると(あるいは飛行後に4時間放置されると)、機体は完全に溶け、あとかたもなくなってしまう…。

まるでSFのような話だが、これはおなじみDARPA(米国防高等研究計画局)が研究機関や企業に開発を要求した技術である。目的は軍事利用で、敵陣近くで味方に物資を届けた後で、敵に再利用されたり、技術を盗まれたりしないように、文字通り消えてなくなるドローンの開発を目指している。ちなみに、このプログラムに与えられたコードネームは「イカロス」。ギリシャ神話で、ロウで鳥の羽を固めた翼で空を飛ぶことに成功しながら、太陽に近づきすぎてロウが溶け、翼を失い墜落した人物だ。まさに溶けて無くなる技術にふさわしい名前だろう。

そして実際に、この要求に応えようという企業が登場した。MITの卒業生らが立ち上げた、MORSE CORPである。彼らは特殊なポリマーを開発し、太陽光によって溶解させることに成功。イカロス・プログラムのフェーズ1の契約を勝ち取っている。実際のドローンの開発はこれからだが、軍事における配送用ドローンは使い捨て・自壊型が標準になっていくかもしれない。


MORSE CORPが開発したポリマーが、太陽光で溶けていく様子(DARPAの発表資料より)

さらにこの技術は、アマゾンが構想したような、危険を避けるために自壊するドローンにも応用できるものだろう。ある程度の部品が残ってしまったとしても、墜落してもゴミにならず、土に還る部品が多ければ、人や都市に被害が及ぶのを避けるために自然の中で落とす、という選択が取りやすくなる。もちろんそのためには、溶けずに残る部品、あるいは溶けた後の成分が、動植物に害のないものという条件も必要になる。道のりは遠くとも、アマゾンやDARPAが掲げたアイデアは、「ドローンの機体はどのような物質でつくられるべきか」という議論を後押しするものになるかもしれない。

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