[小林啓倫のドローン最前線] Vol.17 進化する「惑星探査用ドローン」の世界

2018-02-05 掲載

ドローン、宇宙へ

 新しい年を迎え、各メディアでは2018年の予測記事が花盛りだ。そこで本コラムでも、いつもより未来的な話題に触れておこう。ドローンの新しいフロンティアのひとつ、宇宙開発である。地球の空を飛ぶために生まれたドローンだが、当然ながら、利用を地表近くに限定する理由はない。気体や液体があれば、プロペラ等を使い、どこでも推進力を得ることができる。実際、空中と水中を移動可能なドローンの研究も進んでおり、以前Drone.jpでもジョンズ・ホプキンズ大学が開発した「CRACUN」というドローンを紹介している:

▶︎APL新ドローンは、水の中から飛び立つ!(Drone.jp)

また推進力さえ得られれば、当然ながら重力のない場所、つまり宇宙でもドローンを利用することができる。実際に日本のJAXAは、宇宙ステーション内を自由に移動可能な“船内ドローン”、「JEM自律移動型船内カメラ(Int-Ball:イントボール)」を開発し、昨年7月に国際宇宙ステーション(ISS)内で使用される映像を公開している:

▶︎きぼう船内ドローン「Int-Ball」からの映像初公開!(宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター – JAXA)

Int-Ballには12個の小型ファンが取り付けられており、地上からの命令を受けると、これを使って推進力となる空気を噴出。さらに内蔵された超小型の三軸姿勢制御モジュールによって、無重力空間における姿勢・推進方向の制御を行い、命令を受けた場所に移動できるようになっている。また名前の通りカメラを内蔵しており、それを使って画像・映像の撮影が可能だ。将来、宇宙船の船内には、こんな小型のドローンが飛び回って宇宙飛行士たちをサポートしているかもしれない。

それでは別の惑星ではどうだろうか?既にドローンは、地球上でさまざまな探査任務についている。地形や動植物の調査、さらには上空からの遺跡調査に至るまで、ドローンという「空からの目」は欠かせない状態になっていると言えるだろう。地球上ですらそうなのだから、まったくの未知の世界である他の惑星であれば、ドローンの探査能力は何倍にも価値を持つものになるはずだ。

火星へ、そして土星へ

 

実は既に、米国のNASAが惑星探査でのドローン活用を模索している。その舞台のひとつとなるのが、地球のお隣の惑星、火星だ。 火星探査といえば、2012年に火星に到着し、現在も活動中の探査機「キュリオシティ」が頭に浮かぶかもしれない。既に多くの成果をあげているキュリオシティだが、同機を含め、これまで火星探査機といえば地表を移動するだけだった。もちろんそれだけでも難しい話なのだが、火星の地表は見渡す限りの荒野で、地面を走るのはリスクが高い。そこで「火星用ドローン」の出番というわけだ。

現在NASAでは、2020年中に次の火星探査機「マーズ2020」を打ち上げることを予定している。そこに火星の空を飛行する機械の搭載が検討されているのだ。既に2015年から、NASAはヘリコプター型と固定翼型、2種類の「火星用ドローン」のコンセプトを発表している。いずれも地球で開発されたドローン技術を応用したものだが、彼ら親戚との大きな違いは、プロペラや翼が非常に大きくなっている点。かつて火星には、地球と同じように厚い大気が存在していたのではないかと考えられているが、現在は地球に比べておよそ100分の1の大気圧しかない。この薄い空気の中で推進力を得るために、地球のものよりも大きなプロペラや翼がついているのである。

以下はコンセプトのひとつ、ヘリコプター型ドローンが登場する映像だ。この機体では、中央に太陽光パネルをそなえ、ここで発電して動力を得るようになっている。ただこの機体だけですべての探査を行うわけではなく、地表を走る探査機が危険な場所に立ち入ることを防ぐ、いわば斥候として周辺の地形データを集めるものとして位置付けられている。

 

さらにドローンの宇宙進出は、火星よりもずっと遠く、土星にまで到達しようとしている。といっても土星本体ではなく、土星最大の衛星タイタンの探索にドローンを使おうというアイデアが出ているのである。NASAは2020年代半ばに打ち上げる探査機の研究ミッションを検討しているのだが、その中で最終候補として残った2つの案の一つが、ドローンによるタイタン探索だ。”Dragonfly”(トンボの意味)と名付けられたこの探査機は、ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所(APL)が提案したもので、以下のコンセプト画像が示しているように、それ自体が大型の探査機としてタイタンにパラシュート降下するようになっている。

そして2枚組のローター×4と、ロボットカーでおなじみのLIDAR(レーザーを使用したレーダー)を使って地表の安全な場所に着陸し、パネル等を広げて調査を開始。その間に太陽光パネルで電力を得て、別の調査場所へと飛んでいく……という活用が計画されている。

土星の衛星タイタンを調査するドローン”Dragonfly”のイメージ NASA

この案は現在、NASAから400万ドルの予算を得て、1年かけて計画の最終化を行っている。そして2019年春に最終選考が行われ、ライバル案(チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に接近して標本採集を目指すというもの)に勝った場合、最大8億5000万ドルを得てタイタンを目指すことになる。

私たちが遊んだり、活用したりしているドローンの親戚が、遠い宇宙でも大活躍するーーそんな初夢も、新春にふさわしいだろう。実はこの「宇宙×ドローン」というテーマ、プロペラや翼を使わない、文字通り「宇宙空間を自在に飛び回るドローン」という話につながっていくのだが、それは次回整理してみたい。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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