[小林啓倫のドローン最前線]Vol.18 宇宙開発時代の救世主?「スペース・ドローン」

2018-03-12 掲載

「スペース・ドローン」の登場

前回紹介した「宇宙で活躍するドローン」は、正確には「宇宙ステーション内部」や「別の惑星上」を活動範囲とするドローンだった。しかし文字通りの「宇宙空間」や、それに近い空間を移動可能なドローンの検討も始まっている。たとえば米NASAの”Extreme Access Flyer”は、火星、さらには月面でも使用可能なドローンを目指して研究されているものだ。これはクアッドコプターのローターがある位置に、ロケットエンジンを付けたような形状をしており、このエンジンを噴射して推進力を得る。ロケットエンジンなので燃料をどうするかという問題はあるが、これなら大気の薄さを心配する必要はない。

さらに他の惑星探査機と同様、地球あるいは母船からの指示を待っていては目の前にある危機を回避できなくなってしまうため、搭載された各種センサーから得られた情報で自律的な飛行が可能になるよう設計されている。もはやSFに登場するような、小型の惑星調査ロボットに近い存在と言えるだろう。

Extreme Access Flyerの主な使用目的として、水などの資源探査が考えられているのだが、実際に先日、火星表面のすぐ下に「きれいな氷」が見つかったというニュースが流れた。また世界の主要国が、月にあると考えられている水資源をめぐり、調査を本格化させる動きを見せている。当然ながら有人での探査はコストも、失敗するリスクも飛躍的に高くなるため、ジェットエンジンをつけた自律型ドローンが、宇宙資源開発の最前線に立つ日も近いかもしれない。

ではこうした惑星や小惑星、衛星ではなく、本当の宇宙空間でドローンが登場するシーンは考えられるのだろうか?実は英国発のベンチャー企業が、ユニークな「ドローン」の使い方を提唱している。それは老朽化した人工衛星に小型衛星をドッキングさせ、衛星としての機能を復活させるというものだ。その企業、ロンドンに拠点を置くEffective-Space社は、この小型衛星を「スペース・ドローン」と称して、売り込みを始めている。これがいわゆる「ドローン」の範疇に入るかどうかはさておき、そもそもなぜ、老朽化した人工衛星に対処することが必要なのだろうか?

人工衛星の老朽化問題

世界初の人工衛星、ソ連のスプートニク1号が打ち上げられたのは1957年のこと。国際連合宇宙局のウェブサイトによれば、それから60年以上が経過した2018年1月の時点で、既に8000機を超える人工衛星が打ち上げられている。そのうち地球周回軌道上に存在しているものは約3500機。残りは地球以外の場所に向かうものだったり、利用を想定していた期間が過ぎて大気圏に突入・廃棄処分になったりしているが、崩壊して宇宙のゴミとなっているものも約1700機存在している。また軌道上にあるといっても、すべてが有益な人工衛星というではなく、中には機能を停止してこちらも「ゴミ」同然になっているものもある。

そしてこの宇宙ゴミ(スペースデブリ)が、今後の宇宙開発を考える上で、やっかいな存在となっている。2010年と少し古いデータだが、JAXAのウェブサイトによれば、大きさが10cm以上のものが約20,000個、10cm未満1cm以上のものは約50万個も存在するそうだ。ごく小さいように感じるかもしれないが、この程度のゴミでも他の宇宙船や人工衛星に激突して、大惨事を招く可能性がある。実際に2009年には、機能停止したロシアの人工衛星と米国の通信衛星が衝突するという事件も起きている。

この脅威を回避するため、各国が宇宙ゴミ対策に乗り出している。まずはゴミがどこにあるかを正確に知らなければならないということで、観測と状況のモデル化が主だが、実際にゴミの処分や回収まで乗り出している例もある。JAXAでも昨年5月、宇宙輸送船「こうのとり」を使って、ゴミにワイヤーをかけて軌道上から外し、大気圏に落とすという技術の実験を行っている。

このように最終的な宇宙ゴミの解決に向けては、ゴミを大気圏に落として燃やしてしまう、あるいは回収するという方法が検討されているが、Effective-Spaceの解決策のユニークな点は、「老朽化した衛星をゴミ化させてしまうのではなく、寿命を延長させる」という手法を提案している点だ。もちろん一定期間しか使用できなくて構わないという人工衛星もあるが、多くは気象観測衛星のように、それを使う目的が常に存在するものもある。その場合、老朽化した衛星を大気圏に落とすことができたとしても、新しい衛星を打ち上げることになるのは変わらない。

そこでスペース・ドローンの登場というわけだ。これはターゲットとする衛星にドッキングするための装置と、移動用のジェットエンジン、そして当然ながら太陽光パネルと制御用の演算装置が供えられた小型機で、以下のイメージ映像のように、老朽化した衛星に軌道上でドッキングを行う。

こうしてドッキングした後は、電力を供給したり、あるいは自身のジェットエンジンで衛星全体の姿勢制御を行ったりして、衛星の機能を復活させる。こうして衛星が宇宙ゴミ化することを防ぎ、それでも各種機器に寿命が来た際には、自ら大気圏に突入して燃え尽きるように姿勢制御を行う仕組みになっている。

もちろんすべての人工衛星がこの方式で復活できるわけではないし、スペース・ドローンを打ち上げるより、JAXA方式で処分する方が安上がりなケースもあるだろう。しかし宇宙ゴミ対策に新たな選択肢が生まれるというのは、すべて使い捨てにしてしまうより、対応の幅が広がるはずだ。

Effective-Spaceでは今後、衛星の機能維持や転用を行うサービスだけでなく、能動的な宇宙ゴミの除去(ADR: Active Debris Removal)にも乗り出す考えを示している。宇宙でゴミ掃除に励むドローン、その姿は宇宙版ルンバといったところだろうか。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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