[小林啓倫のドローン最前線]Vol.20 超小型ドローンの実用化を促す「脳」の進化

2018-06-01 掲載

注目される超小型ドローン

いまや人を乗せて運ぶという研究まで行われているマルチコプター型のドローンだが、そうした大型化とは逆に、超小型化の取り組みも進められている。これまで以上に小型化することで、従来であれば入れなかった場所にも入れるようになったり、目立たずに飛行させたりすることが可能になるためだ。

たとえば先日も、ハエ(Fly)のように羽ばたいて飛ぶドローン、その名も「RoboFly」がワシントン大学から発表されている。

残念ながらまだ滞空時間は短いが、確かに昆虫のような翅を羽ばたかせ、宙に浮かぶことに成功している。しかも大きさは鉛筆の先ほどしかなく、文字通り昆虫サイズと言えるだろう。そのため様々な場所に入り込むことができ、ワシントン大学の研究チームは、農場で作物の発育状況を調べたり(これならば葉の裏側まで確認が可能だ)、細部に入り込んでガス漏れを検知したりするといった用途を想定している。

またこれだけ小さければ、製造コストが安くなるという効果もあると研究チームは指摘している。小さくても大量に生産し、大量にばらまくことで、広い領域を一気にカバーできるというわけだ。こうした運用方法は、以前紹介した米軍の使い捨てドローンでも想定されており、「低コストで使い捨てを前提に大量投入する」という使い方が、超小型ドローンでは一般的に見られるようになるのだろう。

ただ、超小型化にはさまざまなハードルがある。羽を動かすための動力源をどうするか、という問題もそのひとつだ。

前述の米軍の使い捨てドローン「CICADA」(ちなみにCicadaは英語でセミの意味)は、航空機で運んで高高度からばら撒き、滑空して空を飛ばせるようになっている。そのためモーターなどを必要とせず、動力源も搭載していない。しかし今回のRoboFlyは電気仕掛けの翅で羽ばたいて飛ぶため、何とかして電力を供給してやる必要がある。同じ研究チームが以前開発した「RoboBee」(beeは英語でハチの意味)では、ロボにワイヤーをつなぎ、それを通じて送るという方式を採用していた。しかしこれでは、当然ながら活動範囲が制限されてしまう。

RoboFlyではこの問題を、レーザーを使用することで解決している。目に見えない波長のレーザーをRoboFlyに照射し、それを機体の側で太陽電池セルを通じて電力に変換させ、動力としているのだ。飛んでいるRoboFlyにレーザーを当て続ける仕組みを開発する必要があるものの、これならばバッテリーを搭載することも、機体をワイヤーでつなぐこともなく、軽量性と機動性を実現できる。

小さい「脳」をどう使う?

ただ、動力だけが超小型機の問題ではない。小さくなれば、その分だけ機体に載せられるものも小さく、軽くなる。しかし調査に使用するカメラやセンサー類を省いてしまっては、そもそも超小型機を飛ばす意味が無くなってしまうため、これを降ろすことはできない。そうなると割を食うのは、CPUなどの情報処理に関わる部分である。要は「脳」を小さくするわけだ。

ところが脳を小さくしてしまえば、当然ながら超小型ドローンに可能な行動は限られてくる。通信機能をつけ、脳をネットワーク上に置いてしまうという手もあるが、その場合は通信機器を搭載するスペースや、それを載せて飛ぶだけの力、そしてその力を得るための動力源が必要になる。昆虫サイズの超小型ドローンで実現するにはハードルが高い。

そこでいま、小さい脳でも複雑な行動を可能にするアルゴリズムの研究が行われている。たとえば蘭デルフト工科大学の研究者らが発表した論文で検討されているのは、超小型ドローンを出発地点まで自動で帰投させるアルゴリズムだ。

このアルゴリズムはもともと、英サセックス大学の研究者らが発表したもので、カメラで撮影した映像を利用している。といっても通常のドローンでの搭載が研究されているような、飛びながら周囲を撮影し、同時に周辺地図を作成してしまうといったアプローチではない。ニューラルネットワークと呼ばれる手法を活用し、周囲の風景の画像ではなく「見覚え」を記憶。そして帰還する際には、カメラに映った映像に「見覚えがあるかどうか」を判断させるのである。周囲の風景に見覚えがあるということは、以前にその場所に来た可能性があることを意味する。そうして見覚えのある場所に沿って飛行を続けることで、出発した場所に帰って来られるという寸法だ。

デルフト工科大学の研究者らは、このアルゴリズムを使い、より現実に近い環境でのシミュレーションを実施。その結果、「見覚えがあるかどうかを判断させる」というアプローチの有効性が証明されたと結論付けている。さらに彼らによれば、このアルゴリズムによって、あらゆる超小型ドローンで帰投機能を実現できる可能性があるということだ。

実際には帰投機能以外にも、さまざまな機能がなければ実用的な超小型ドローンは完成しない。しかしこれだけでも、たとえば特定の対象物を追って情報収集を続け、一定時間が経過したのちに自分で帰ってくるドローンなどが実現できるだろう。そうしたドローンは野生生物の調査や、犯罪捜査などに活用できるかもしれない。

機体だけでなく、脳も進化することで、実用性を増す超小型ドローン。将来的には、思いもよらない使い方をされるようになるはずだ。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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