[小林啓倫のドローン最前線]Vol.21 「ドローン警備員」の可能性はどこまできたのか

2018-08-02 掲載

2020年を目指すドローン警備員

開催までいよいよ2年を切った、2020年の東京オリンピック。さまざまな準備作業が急ピッチで進められているが、イベントの成功に必要なのは、お金や施設だけではない。競技の開催から訪日観光客への対応に至るまで、さまざまな分野で多くの人材が必要になると予測されており、深刻な人手不足が懸念されている。

なかでも大きな問題になっているのが、警備の分野だ。オリンピックは世界が注目するイベントということで、大量の観客が世界中から押し寄せるだけでなく、それを狙った犯罪者たちもやって来る。膨れ上がった人々に対応するためには、警察官だけでなく民間の警備員の力も欠かせないが、警備業界からは人手不足で人員の確保が難しいとの声が上がっているのである。

実際に、警視庁が民間の警備業者を対象に行った調査によれば、90パーセント以上の業者が人手不足と感じているとの結果が出ている。警備業務の内容を「巡回」に絞った場合でも、「大変不足している」が32.5パーセント、「やや不足している」が45パーセントとの回答結果であり、犯罪を防止するために警備員が現場を巡回するという行為が難しくなる可能性がある。

そこで期待されているのが、もちろんドローンである。ドローンによる空中からの警備は、比較的早期から検討されてきた活用法であり、有力企業が実用化に向けた取り組みを行ってきた。その最新の研究成果のひとつが、今年4月に公開されている。KDDI、セコム、スマートドローンなど複数企業の共同による実証実験「スマートドローン広域警備実験」だ。

これは敷地面積45万坪(東京ドーム30個分以上)という、遊園地「さがみ湖リゾートプレジャーフォレスト」を警備対象範囲と仮定し、LTE網を通信手段とする複数のドローンを飛ばして不審者を発見するというもの。ドローンは高高度で広い範囲を監視する「俯瞰ドローン」と、低高度で巡回監視を行う「巡回ドローン」の2種類があり、それぞれの特徴を活かして情報を収集する仕組みだ。これらのドローンが捉えた映像を運航管理システムに集め、警備会社(この場合はセコム)がそれを確認し、異常が確認されれば現場にいる警備員に出動指示が下されるようになっている。

実際の映像がKDDIから発表されているので、以下にリンクしておこう。映像からは、昼間だけでなく夜間に不審者を発見する試みなどが行われたことも確認できる。

賢いドローン警備員をトレーニングできるか

こうしたドローン警備員はもちろん人手不足に対する大きな武器になると考えられるが、1つだけまだ欠けている要素がある。それは、先ほどのKDDIによる公式映像の最後にも登場しているが、「画像認識による不審者の自動認識」という点だ。

いくらドローンによって広域が監視できるようになったとしても、その映像を人間が確認し、不審者を発見しなければならないのであれば、その分のマンパワーを削減することはできない。ましてやオリンピック期間中の会場や周辺地域は、実証実験のようにほとんど人がいない環境ではなく、逆に大勢の人々でごった返している場所になる。その中でさまざまな犯罪者、たとえばスリや痴漢、暴行犯、最悪の場合にはテロリストといった人々を確実に発見するには、多くの監視役が必要になってしまうだろう。

そこでせっかくマシンが画像を撮ってきてくれるようになったのだから、その内容確認までマシンにさせてしまおうという発想が生まれてくるわけだが、こちらの試みはどこまでのレベルに達しているのだろうか。

今年6月、英ケンブリッジ大学の研究者らが、そのものずばり「リアルタイムドローン監視システム(DSS)」と名付けられた仕組みの実験映像を公開している。こちらも映像をリンクしておこう。

このシステムでは、ドローンが捉えた人々の集団の映像から、犯罪が疑われる行動を自動で認識することが試みられている。特に今回の実験で対象になっているのは、人間による人間に対する暴力行為だ。AIを使い、映像内の人間の姿勢などから、暴力行為が疑われるものを認識している。精度は88パーセントと、まずまずの結果と言って良いだろう。

ただこの仕組みをすぐに展開できるかというと、それほど話は簡単ではない。今回使用されたAIには、機械学習といって、マシンに参考となるデータ(この場合は人間が暴力をふるっているシーンを低高度の上空から撮影した映像)を与えて必要な知識を取得させるという手法が使われている。要はドローンをトレーニングしているわけだ。そのために研究者らは、25人のインターンを動員して、集団の中での暴力行為を演じてもらったそうである。また高度による見え方の違いを考慮して、ドローンの高度を地上2メートル~8メートルに変化させて撮影を行ったそうだ。

したがって、このシステムで雑踏におけるあらゆる犯罪(前述のようにスリからテロまで)を検出可能にするためには、多種多様なトレーニング用のデータを用意するしかない。そんな無茶な、と思われたかもしれない。しかし分野は違うが、実際にこうしたデータを地道に用意している企業もある。以下の映像をご覧いただこう。

何をしている映像か、想像できただろうか。実はこれ、メトロマイルという米国の損害保険会社の取り組みなのだが、彼らは自動車に装着した専用の装置から集められるデータを使い、そのクルマに何が起きたのかをAIに自動的に把握させるという技術を開発している。この技術を使うことで、保険の契約者から「誰かの野球ボールがドアにぶつかって凹みができた」などという保険金請求の申し出があった際、それが信じられるかどうかを瞬時に判断している(そして人間の査定員がいちいち出かける手間と時間を削減している)のである。

しかしこの仕組みを実現するためには、野球ボールがぶつかったときのデータ、何かが擦ったときのデータなど、さまざまなデータを取得してAIをトレーニングするしかない。そのデータをつくっている場面が、先ほどの映像というわけだ。

低高度から高高度までを飛び回り、上空から大勢の人々の映像を撮影・解析して、自分で犯罪行為を発見できるドローン。そんな賢いドローン警備員を実現するには、高度なAI技術を開発すると同時に、彼ら用のトレーニングも実現する必要がある。

もちろんトレーニング用の映像は、誰かが演じたものだけでなく、実際に起きた事件や事故の映像でも構わない。またトレーニングに必要な情報量を減らすアルゴリズムの開発も、日夜続けられている。しかし2020年まで2年弱というタイミングを考えると、ドローン警備員で警備員不足を一気に解決するというのは、かなり厳しい状況だと言わざるを得ない。それを打開する技術や仕組み、革新的なアイデアが生まれてくることを期待しよう。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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