[小林啓倫のドローン最前線]Vol.025 ドローン審判の可能性

2018-12-19 掲載

2022年のサッカー・ワールドカップ

英国でスポーツ賭博(もちろん合法の)サービスを提供しているCoralが、「未来のスポーツテクノロジー(The Future Technology of Sport)」というレポートを発表している。この中でドローンに関する予想も登場するので、紹介しよう。

筆者が49歳になるころには、ドローン審判が実用化されているそうだ。

このレポートはCoralが未来学者のイアン・ピアソン博士と共につくり上げたもので、2040年までに実用化されると考えられるスポーツ関連のテクノロジーが8つ紹介されている。ちなみに冒頭で自分の年齢を入力されるように求められ(嘘をついても問題ない)、「あなたが〇〇歳の時に登場するテクノロジー」というように、未来がより身近に感じられる仕掛けが施されている。

その冒頭に登場するのが、「ドローン審判」という予想だ。2022年までに、サッカーにおいてAI(人工知能)がコントロールするドローンが登場し、審判役を務めるようになるという。もっとも人間の審判を完全に置き換えてしまうのではなく、ピッチサイドを飛び回ってさまざまな角度からプレー映像を撮影するとされている。その映像を主審や線審が確認し、ジャッジに役立てるというわけだ。

スポーツにおけるジャッジに映像を使うという発想は、既に珍しいものではなくなっている。サッカーにおいても、2018年のワールドカップにおいて、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の仕組みが導入されたのが記憶に新しい。

VARはビデオをジャッジに活用する副審判員、もしくはそのためのシステムを指す言葉で、ビデオ判定をどう実施するかは大会のルールによって異なる。たとえばワールドカップ史上初となる2018年大会のVAR制度の場合、VAR(ビデオを確認している副審)は主審に助言を行うものの、VARによる判定を行うか、さらにはそれに基づいてどのようなジャッジを行うかは主審に任されていた。試合を見ていた方は、主審に向かって、選手が指で四角を描くゼスチャーをしていたときがあったのを覚えているだろう。これは「VARで(いまの疑わしいプレーを)確認してくれ!」という意味のアピールだったが、主審が取り合わないことも多かった。VARはあくまで補助的な位置づけだったのである。

また同じくワールドカップでは、2014年大会からGLT(ゴールライン・テクノロジー)という仕組みも導入されている。これはボールがゴールラインを完全に超えたか(つまり得点が入ったと見なされるか)を判定する技術で、そのテクノロジーにはいくつかの種類があるが、そのひとつは複数のカメラで捉えた映像を解析するというものだ。GLTの場合、結果は即座に主審が身に付けている腕時計に送られ、主審がそれに基づいてゴール/ノーゴールの宣言を行う。したがって、より映像に基づいた判定が行われていると言えるだろう。

こうした現状を考えると、少なくとも2022年にカタールで開催される次のワールドカップにおいても、何らかの形で映像をジャッジに役立てる取り組みが続く可能性が高い。ただドローンが、あと4年で「空飛ぶ審判」として活躍できるほどの進化を遂げることは可能なのだろうか?

ドローン審判は実現するか?

既に映像撮影・編集の世界では、AIが人間の作業を代替するということが進んでいる。たとえばイスラエル発のベンチャー企業Pixellotは、人間のカメラマンがいなくても、スポーツの試合を自動で撮影・編集まで行ってくれるAIカメラを開発している。

ユニークな形状のPixellot社製AIカメラ

これは複数のカメラを積み重ねたような円柱状のカメラで、それぞれのカメラ部分で映像を撮影し、映像をクラウド上のAIに送る。するとAIが適切な映像を切り出して編集し、まるで人間が手を入れたかのような中継映像を生成してくれるのである。またプレー内容を自動で把握し、個々のプレーヤーやボールを追うといったことも可能なため、決定的なプレーを逃すこともない。さらにはプレーの中断(ボールがフィールド外に出るなど)を自動認識し、その間にCMを差し込んだり、あとから重要なプレーを抜き出してダイジェスト版を制作したりする機能まで付いているという優れものだ。

実際にPixellotのAIカメラで撮影・編集された、さまざまなスポーツのデモ映像が公開されているので、興味のある方は次の動画をご覧いただきたい:

このAIカメラは固定式だが、AIによってリアルタイムにプレー内容を把握するということが、ここまで可能になっている。また既に多くのドローンで、被写体を選択するとそれを自動追跡してくれる機能(DJI製ドローンのアクティブトラックなど)が実現されていることを考えると、重要なプレーもしくはプレーヤーを自動認識してそれを追跡するドローンを実現することは不可能ではないだろう。

また本連載の第21回で紹介したように、ドローンで撮影した空撮映像を解析し、犯罪が疑われる行動を自動認識する技術も研究されている。実際にはファールされていないにもかかわらず、まるでファールされたかのように振舞って有利な状況(ペナルティーキックをもらうなど)をつくりだす、いわゆる「シミュレーション」行為が2018年のワールドカップでも問題になった。重要なタイミングを絶対に逃すことがなく、また映像から正確な解析を行ってくれるAIであれば、むしろ人間の審判よりも正確にファールの判定が下せるようになるかもしれない。

ドローンもAIも、日進月歩で進化しつつあるテクノロジーだ。4年もあれば、ピアソン博士が予測するように、ドローン審判がサッカーに導入されるようになっていてもおかしくないだろう。とはいえ、サッカーに限らず、「誤審も試合(が生み出すドラマ)の醍醐味」と考える人も少なくない。「空飛ぶ審判」が技術的には可能になっても、しばらくはピッチ上から人間の審判が消えることはなさそうだ。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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