[小林啓倫のドローン最前線]Vol.026 AIで進化する「太陽光パネル点検ドローン」

2019-02-27 掲載

太陽光発電に立ちはだかるメンテナンス問題

2018年7月、今後の日本におけるエネルギー政策の方向性を示す「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定された。この中で初めて明記されたのが、再生可能エネルギーの「主力電源化」を目指すとの方針である。これまで日本政府は、再生可能エネルギーへの取り組みは重要なものの、ベースロード電源(一定量の電力を安定的に供給できる電源)として原子力発電を位置付けるという方針を掲げていた。

しかし今回のエネルギー基本計画において、再生可能エネルギーも「主力電源」にするのを目指すと宣言されたことで、改めて再生可能エネルギー開発の取り組みが進むのではないかと期待されている。

日本における再生可能エネルギーの発電比率のうち、水力に次いで大きいのが太陽光発電だ。前述の第5次エネルギー基本計画においても、太陽光および風力について「長期安定的な電源として成熟していくことが期待される」と評している。ただそのためには多くの課題をクリアすることが必要とされ、そのひとつとして挙げられているのが「太陽光パネルの廃棄問題」である。

どんなものもいつかは壊れる。太陽光パネルの場合、耐用年数は20~30年程度とされているそうだ。それは仕方のないことだが、太陽光パネルには有害な鉛が使われているため、むやみに廃棄されるわけにはいかない。しかし太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)が2012年にスタートしてから、太陽光パネルが急増しており、2020年代からその廃棄量が増加を始めると予測されている。それにより、適切な維持管理や廃棄が行われない太陽光パネルも急増するのではないかと懸念されている。

第5次エネルギー計画でも、この問題について「使用済みパネルの適正な廃棄・処理が確実に実施されるよう対応するとともに、小規模な事業用太陽光発電の適切なメンテナンスを確保し、再投資を促す」としている。具体的には、2018年末に環境省から太陽光パネルの処分についての指針が発表されており、製品中の有害物質についてメーカーに情報開示を求める、埋め立て処分の方法を示すといった対応がなされている。

一方でメンテナンス面についても、太陽光パネルをこまめに点検することで寿命が延び、廃棄量を抑制することができるという指摘がある。捨てる方法だけを考えるのではなく「捨てられることを先延ばしにする」取り組みも必要というわけであり、実際に2017年に施行された改正FIT法では、保守点検・維持管理の計画・実行が太陽光パネルの設置業者に求められるようになっている。

ドローン+AIで「どのパネルから修理すべきか」も把握可能に

前フリが長くなったが、ここでドローンの登場だ。太陽光発電施設はある程度の面積の敷地に設置されるため、いちいち人間が点検していては長い時間がかかってしまう。そこでドローンで上空から点検しよう、という発想が早い段階から検討されており、サービス化された事例も既に多数存在する。

上の映像はそうしたサービスのひとつ、エナジー・ソリューションズ株式会社(ESI)の「ドローンアイ」である。これは2016年9月に開始されたサービスで、ドローンに赤外線カメラを搭載して太陽光発電施設の上空を飛ばし、異常が発生している箇所(温度差が生じるために赤外線で感知できる)を把握するというもの。撮影データはクラウド上で蓄積され、検査報告書の作成といった作業も行ってくれる。

このようにドローンによる太陽光パネル点検では、赤外線画像のような非構造化データが大量に発生する。そのため関連サービスを提供する企業やスタートアップの間では、AIやアルゴリズムといった最新の手法を用いて、各種の解析をいかに効率化・高速化できるか、また人間では把握・算出できないような情報まで割り出せるかの競争となっている。

先ほどのドローンアイでも、ESIはソフトバンク・テクノロジー、M-SOLUTIONSと共同で、AIを活用した自動解析ツールを開発している。このツールはディープラーニング技術を応用して、短時間で高精度の分析を行うことが可能になっており、これまで数時間かかっていた出力2メガワットの太陽光発電施設の検査を、わずか3分間にまで短縮したとしている。

海外では、さらにビジネスに直結する知見まで割り出そうという動きが生まれている。

上記の映像は、Raptor Mapsという米国のスタートアップが公開したものだ。こちらもディープラーニング技術を活用し、赤外線画像をAIに分析させることで、点検時間を大幅に短縮したとしている。面白いのは、単なる異常個所の把握にとどまらず、「その異常がどのくらいのコストを発生させるか」まで算出している点だ。太陽光発電の事業者はこのデータを使うことで、どこから優先的に対処すべきかを判断できる、とRaptor Mapsはアピールしている。

Raptor Mapsの創業者であるNikhil Vadhavkar(左)とEddie Obropta(右)

このRaptor Mapsは、マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンオフで生まれた企業で、同校の博士課程に在籍していた学生たちが創業者となっている。また同社は2018年、世界中の太陽光発電事業者が生み出すデータの、1パーセントに相当する量のデータを処理したそうだ。

これは太陽光パネル何百万枚分ものデータに相当し、データがあればあるほど機械が学習して賢くなる「機械学習」技術(ディープラーニングもその関連技術)の分野では、このデータ量は彼らに大きな強みをもたらしている。事実彼らは、6つの異なる大陸から顧客を獲得しており、2019年中に5倍の成長を目指しているそうだ。

太陽光パネルの「大量廃棄」時代を目前に控えた日本にとっても、こうした技術には大きな需要が見込まれるだろう。そして実際にサービスが展開されることで、さらに多くのデータが集まり、ますます高度な「ドローン+AI」の事例が生まれてくるはずだ。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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