[小林啓倫のドローン最前線]Vol.029 ドローンの「着陸」を進化させるテクノロジー

2019-05-29 掲載

スムーズな着陸を可能にするディープラーニング

いまや至る所で見られるようになった、マルチローター型のドローン。そのため規制も進み、気軽には飛ばせないようになったが、特に本サイトをご覧の方々であれば、自分でも実際に飛ばしたことがあるという人が多いのではないだろうか。

そうした方であれば、ドローンの着陸がいかに難しいか実感されているだろう。機体が地面に近づいたときに、地面から押し返されるような感覚を受けたことがあるはずだ。いわゆる「地面効果(表面効果)」と呼ばれるもので、ドローンの翼と地面の間にある空気流が変化することで、揚力が大きくなってしまうのである。 また屋外でドローンを飛ばしている場合には、当然ながら機体は常に周囲の気流から影響を受ける。それとローターがつくりだす複雑な気流を見極めて、機体を傷つけることなく着陸させるためには、熟練のパイロットの経験と操縦技術が必要だ。

そんなスキルを機械に学ばせ、機体自らよりスムーズな着陸をするようにできないか。カリフォルニア工科大学でそんな研究が行われている。

研究を進めているのは、同校の自律システム・テクノロジーセンター(CAST、Center for Autonomous Systems and Technologies)。彼らの開発した「ニューラル・ランダー(Neural Lander)」は、ディープ・ニューラル・ネットワークと呼ばれる機械学習技術の一種を活用し、可能な限り滑らかな着陸(ランディング)を実現することを目指している。

■CAST Neural Lander

上はカリフォルニア工科大学が公式に公開しているデモ映像だ。短いが、ニューラル・ランダーなしの場合(Baseline Drone without AI)と比べて、地面や机などの表面に接近してもスムーズに飛行を続けていることがわかる。このように、単に地面に向かって降下した際だけでなく、飛行中に地面が平たんでない箇所に差し掛かっても、機体を安定させることができるのがこの技術だ。そのため研究者らは、これによってより効率的な飛行が可能になり、バッテリーの消耗を抑えることができるとしている。

ディープ・ニューラル・ネットワークの「ニューラル」とは、「神経細胞(ニューロン)の」という意味で、神経細胞のネットワークすなわち「人間の脳」の動きを模した仕組みとなっている。そしてこのディープ・ニューラル・ネットワークを使って、機械が自ら学習することを実現する技術が、最近流行の「ディープラーニング」と呼ばれる技術である。

ディープラーニングでは、機械に対して「突風が吹いたらローターの回転を変えろ」のような、細かい(そして実際には言語化することが現実的に不可能な)指示を与えなくても、機械が自ら「何が正解か」を導き出すことが可能になる。まさに今回の「地面効果を考慮して飛行を安定させる」のような、熟練の技を機械に学ばせるのにはうってつけの技術だ。CASTと同様に、ディープラーニングで細かなテクニックを機械に覚え込ませ、より効率的な飛行を実現しようという取り組みが今後増えてくるだろう。

「ピンポイント着陸」を実現させた準天頂衛星

ドローンの着陸というテーマでは、最近もうひとつ画期的な動きがあった。それが日本の打ち上げた準天頂衛星「みちびき」を使った、自律型ドローンのピンポイント着陸である。こちらも公式な実験映像が公開されているので、ご覧いただこう。

「みちびき」を活用したドローン実証実験(ピンポイント配送)

実験が行われたのは彩の国くまがやドームで、閉鎖空間ではあるものの、ご覧のようにドローンが1メートル四方の枠内にピタリと着陸している。ドローンは自律飛行を行っており、もちろん人間が操縦して着陸させたわけではない。この精度の自律飛行が実現されれば、建物が密集した市街地におけるドローン配送への道も開けるはずだ。

これは経産省ならびに新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、内閣府宇宙開発戦略推進事務局、そして楽天が共同で行った研究で、実験自体は今年3月に行われているが、その詳細が5月23日に発表されている(経産省によるニュースリリースへのリンク)。

準天頂衛星というのは、「日本とその周辺地域だけが使える、超高精度なGPSを実現してくれる衛星」と考えるとわかりやすい。準天頂軌道という、通常の人工衛星とは異なる軌道を通ることで、従来のGPSでは不可能だった性能を実現してくれるのである。

日本は「みちびき」という名で、この準天頂衛星の配備を進めている。2018年には衛星が4機体制となり、これを利用した位置確認が安定して行えるようになっている(2023年をめどに7機体制で運用される予定)。そこでさまざまな準天頂衛星の利用法が考えられているのだが、ドローンのピンポイント着陸もそのひとつというわけだ。 この技術では、基本的にはGPSと同じ仕組みで機体の位置を確認できるため、カメラなど他のセンサー類を搭載する必要がない。今回発表された実験でも、利用したのは「みちびき」の高精度測位情報のみで、ここまでの精度の着陸を成功させている。

もちろん準天頂衛星を使ったら、他のテクノロジーを搭載できないなどということはない。実際には積載量や利用目的などに合わせて、複数の手段が組み合わされることになるだろう。それにより、現実世界における実用性がより確かなものになると期待される。

通常の航空機にとっても、機体が飛行状態から地上で停止している状態へと移る「着陸」という瞬間は、非常に危険なものだ。こうしたテクノロジーが実用化され、人間ではなく機体が着陸を担うようになることで、より幅広い領域でドローンが活用されるようになるだろう。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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