[小林啓倫のドローン最前線]Vol.31 ドローンの損傷検知もAIで

2019-08-19 掲載

専門家の「耳」を手に入れるAI

現在は「第3次AI(人工知能)ブーム」の最中にあると言われ、AI理論の進歩だけでなく、具体的な価値を生み出すアプリケーションが次々に生まれてきている。中でも有望な分野のひとつが、AIを活用した診断だ。人体や建築物など、対象はさまざまだが、従来は専門家しか行えなかった高度な判断を、機械によって自動的に行うことが可能になっている。

たとえばGoogleの親会社Alphabet傘下でAI研究に取り組むDeepMindは、ロンドンの臨床医らと共同で、網膜をスキャンした画像をAIで診断する装置を開発した。この装置はAIによる画像解析を活用して、糖尿病性網膜症や緑内障といった眼疾患の有無を、たった30秒で確認できるそうだ。

しかもその精度は、一流の眼科医にも劣らないとDeepMindは主張している。また中国のBaidu(百度)も、眼底検査にAIによる画像解析を応用し、各種の眼疾患の初期症状を94%の精度で把握できる技術を開発したと発表している。こちらのAIが診断を下すのに要する時間は、わずか10秒だそうだ。

また産業技術総合研究所(AIST)、東北大学、首都高技術は協働で、コンクリートのひび割れをAIで自動検出するシステムを開発している。こちらも画像解析により診断を行うもので、表面に汚れや傷がある状態でも、コンクリートのひび割れを80%以上という精度で自動検出できるそうだ。

このシステムを活用することで、ひび割れ点検にかかる時間を、従来の10分の1に削減できると見込まれている。これらは画像解析、つまり人間でいえば「目」を通じて診断を行うものだが、医師が聴診器を使って問診を行うように、人間の専門家は「耳」でも診断を行う。実はこうした音声を解析するAIについても、開発と実用化が進められている。

たとえば韓国の現代・起亜自動車は、自動車が発する音を「聞く」だけで、故障の有無や故障部位を特定するAIを開発している。自動車に何らかの異常が発生すると、それはさまざまなノイズとなって現れる。そのノイズをAIに学習させ、音から異常を自動的に検知させようというわけだ。

実際に彼らの開発したAIは、人間の専門家でも異常の発生を見抜けた確率が8.6%だったところ、87.6%もの精度で異常を検知できたそうである。このようにAIは、いまや専門家に並ぶ、あるいはそれ以上の目や耳を手に入れ、さまざまな問題点の診断や早期発見に役立てられるようになっている。

ドローンのブレードを音で診断する

さて、当然ながらこうしたAIをドローンに活用しない手はない。現代・起亜自動車が音で自動車の異常を検知できるのなら、ドローンの異常も検知できるはずだ。当然ながら、ドローンの機体に発生する異常は、事故をもたらす原因となっている。

国土交通省が発表した、平成30年度に発生した無人航空機に係る事故トラブル(国土交通省に届け出のあったもののみ)79件(うち原因把握済み55件)のうち、機体に関するトラブルが原因となったものは7件となっている。機体上の異常を効率的に把握する仕組みができれば、トラブルのおよそ1割を防止できることになる。

そしてイタリアにあるカンパニア大学の研究者らが取り組んでいるのが、まさに「現代・起亜自動車が開発したシステムのドローン版」と呼べるAIの開発だ。彼らが研究成果の一部として今年発表したのが、マルチローター型ドローンのプロペラに発生している異常を音を通じて検知する仕組みである。

彼らはまず、正常な状態にあるクワッドコプターのプロペラを回転させ、その音を収集。次にプロペラにテープをつけて不具合状態を模し、その状態で発生するさまざまなノイズを収集した。そして得られたデータをAIに与え、異常が発生している際のプロペラの音がどのようなものか、彼らに「学習」させた。

ここではディープラーニングと呼ばれるAI技術が使われているのだが、ディープラーニングの場合、人間が事前に「〇〇のような音が聞こえたら××の可能性に注意」のような条件を与える必要がない。そうした言語化が非常に難しい「兆候」であっても、データを通じて機械が把握してくれるのである(ちょうど職人が、長年の経験から言語化できないスキルを習得するのと一緒だ)。

その結果研究者らは、約98%という高い精度で、AIに異常を認識させることに成功した。これだけの精度があれば、従来の飛行前点検の一環として「AI診断」を組み込み、異常の早期検知に役立てることが可能だと彼らは考えている。そのために今後、実際に損傷が発生したプロペラを使ってノイズのデータを収集し、それでAIを学習させてより高度な診断が行えるようにすることを計画しているそうだ。

さまざまな点検を行うAIアプリケーションには、スマートフォン等を通じて画像や音声を記録し、それをクラウド上にあるAIに処理させて問題を把握するというものもある。今後はドローンのプロペラ音をスマホに聞かせ、異常をいち早く察知したり、飛行中にリアルタイムでわずかな損傷を把握したりといった世界も生まれてくるかもしれない。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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