[小林啓倫のドローン最前線]Vol.32 救急車のスピードを上回る「ドローン救急配送」の試み

2019-09-13 掲載

実用化が進む医療分野でのドローン活用

高性能な小型UAVが実用化されるようになったとき、早くから利用先として期待されていた分野のひとつが医療だ。たとえばデルフト工科大学が2014年に公開したこの映像は、ドローンによるAED配送の可能性を示すものとして、大きな注目を集めている。

これはAED自体をドローンにしてしまい、「空飛ぶAED」としていち早く患者のもとに駆け付け、さらにカメラとスピーカーで人間の医療関係者が現場とコミュニケーションするのを可能にするというものだった。 その後、医療分野でのドローン活用にはさまざまなアイデアが登場している。

ニューヨーク州立大学の研究者らが2018年に発表した論文によれば、文献調査を通じてドローンの医療分野での活用を調べたところ、大きく分けて「公衆衛生・災害救助」(災害時のデータ収集、救急医療等)、「遠隔医療」(遠隔地にいる患者へのコミュニケーション手段の提供等)、「輸送」(医薬品や医療機器、あるいは血液や臓器などの輸送)の3つが存在していると結論付けている。

もちろんこれらの用途は排他的なものではなく、複数の用途を兼ねるドローンも登場している。デルフト工科大学のAEDドローンも、この3つの要素を兼ね備えた存在と言えるだろう。

また将来的に実用化が期待される用途として、「ドローン救急車」というアイデアも登場している。これは文字通り、ドローンを救急車の代わりとして、患者や負傷者の輸送を行おうというもの。空飛ぶ自動車のようにドライバー(パイロット)が同乗しているわけではなく、そこに乗る人間はあくまでも「輸送対象」としての患者・負傷者であり、飛行はAIなどを活用して自動で行われる。

こうしたドローンの実用化を目指している企業のひとつがイスラエルのTactical Robotics社で、戦場において負傷した兵士を、全自動で輸送するドローンを研究している。以下は2018年に行われたデモの映像で、2名の負傷者を輸送できるそうだ。

空という空間を一種の「抜け道」として、輸送や移動にかかる時間を短縮することができるドローンは、まさに1分1秒を争う医療の世界に適したものと言えるだろう。実際に2017年に発表された研究では、スウェーデンのストックホルムでAEDをドローン輸送する実験を行ったところ、救急車よりも平均で16分39秒早く現場に到着できたそうである。このメリットを向上させるために、今後さらに研究が進むはずだ。

センサー+ドローンで短時間での救急対応を可能にする

実際に、ドローンによる救急対応の時間をさらに短縮する試みが行われている。南オーストラリア大学とバグダッドのミドル・テクニカル大学の研究者チームらが研究しているのは、ドローンとセンサーを組み合わせたシステムだ。

これは高齢者にウェアラブルデバイスをつけてもらい、それを通じて心拍数や体温の異常を遠隔監視して、高齢者が転倒していないかを確認、転倒が検知された場合にはドローンを使って緊急の応急処置を行えるようにするというもの。

彼らが発表した論文によれば、ドローンの発進は自動で行われるわけではなく、センサーを通じて検知された異常(ここまではアルゴリズムによって自動化されている)を人間のオペレーターが確認し、必要な応急処置キットをドローンに装着して発進させるという形式になるようになっている。

高齢者が装着するウェアラブルデバイスには、生体情報をモニタリングするための2種類のセンサー、加速度計、GPS等が備えられており、装着者の転倒を99.2パーセントの精度で検出可能とのこと。一方で応急処置キットを運ぶドローンは特殊なものではなく、DJI実証実験の際にはPhantom 3 Professionalが使われている。

そしてイラクの都市部で実施された実験では、前述のストックホルムの実験と同様に救急車との比較が行われ、ドローンを使用した場合には平均で31.8パーセントの時間短縮を行うことに成功したそうである。

研究チームはシステムの改善を続けており、特にウェアラブルデバイスのバッテリー寿命の延長と、ドローン起動の自動化に力を入れているそうだ。後者の自動化については、ロボットを使ってドローンを飛行可能な状態にすることを検討しており、これによって離陸までの時間が5~10秒ほど短縮されることが期待されている。

また今回はDJI製の既製ドローンが使用されたが、当然ながらより高速の機体を使うことでも、現場に到着する時間を短縮できるとのこと。こうした改善を行うことで、救急車の3倍程度の速さになる可能性があると研究者らは予想している。

2016年度のデータでは、日本国内で60歳以上の高齢者の転倒・転落事故による死亡者数は、人口10万人あたり約227人となっている。当然ながらこの数は、高齢になればなるほど多くなっており、また死亡までには至らなくても、転倒がきっかけで要介護の状態になってしまうというケースも多い。転倒に限った話ではないが、事故が発生してから手当てを受ける時間が短ければ短いほど、ダメージを抑えることが可能になる。

ドローンによる救急対応の仕組みをさらに向上させることは、日本においても期待される取り組みと言えるだろう。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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