[小林啓倫のドローン最前線]Vol.34 ドローンを使って環境問題を防ぐ〜ドローン+AIによるごみ廃棄状況のマッピング

2019-11-28 掲載

懸念が高まるマイクロプラスチック問題

プラスチック、すなわち合成樹脂は19世紀に研究が始まり、20世紀初期に製品化が進んだ。史上初めて人工的に誕生したプラスチックであるフェノール樹脂は、1907年に工業化され、瞬く間にさまざまな製品で使われるようになった。つまり私たちは、もう100年以上もプラスチックを使い続けているのである。

それだけプラスチックは、人類にとって理想的な素材だと言えるだろう。軽くて丈夫、腐りにくく、しかも整形がしやすいといった特徴から、現在では年間生産量が4億トンを超えるまでに至っている。しかしその分ごみとして処分されるプラスチックも増え、WWFによれば、その量は年間800万トンに達すると推定されている。これはジャンボジェット機5万機分に相当する量だそうだ。こうしたプラスチックはその性質上、自然に分解されることはなく、地球環境の中に蓄積されることになる。同じくWWFによれば、その量は海にあるものだけでも、既に1億5000万トンを超えると推定されている。

これだけの量が私たちの周囲に放置されていれば、問題が発生することは避けられない。特に近年注目されているのが、マイクロプラスチックの問題だ。マイクロプラスチックとは環境に放置され、波や土石等の力で粉々になり、大きさが1mm~5mm程度の微粒子になったプラスチックを指す。

微細だが自然に分解されることはないため、生物の体内に入るとさまざまな悪影響を引き起こし、さらにマイクロプラスチックに付着する有害物質も問題となる。またいわゆる「生物濃縮」(ある物質を食べた生物を、食物連鎖で上位に位置する生物が食べていくうちに、その物質の濃度が高まること)により、魚などを通じてマイクロプラスチックが人体にも入り込む恐れが指摘されている。

とはいえここまで微細な粒子になってしまうと、自然界から回収するというのは難しい。そこで現在、対策として進められているのが「環境に放置されているプラスチックごみを回収すること」である。何の不思議もない、ごく当たり前の対策だが、微粒子になってしまう前に、河川や海岸などに違法廃棄されているペットボトルやポリ袋等を回収しようというわけだ。

とはいえ広大な地域のどこにどのくらいの量のプラスチックごみが廃棄されているのか、それを把握するのですら簡単な話ではない。しかし人海戦術で闇雲にゴミ回収を行うというのも、特に小さな地方自治体にとっては、費やせるリソースの点で無理がある。この問題に対してサンフランシスコでは、ドローンを使って情報収集を行うことが検討されている。

ドローン+AIによるごみ廃棄状況のマッピング

アイデアは単純だ。ドローンにカメラを搭載し、河川周辺を撮影して画像を収集・分析することで、海に流れ込みそうなプラスチックごみがどの程度存在するかを割り出そうというのである。そうした情報が得られれば、人員を派遣して効率的に回収を行ったり、水路に網を設置して海への流入を防いだりすることができる。

この試みを進めているのは、サンフランシスコ沿岸研究所(San Francisco Estuary Institute, SFEI)という非営利団体で、彼らはこれまでも人力によるプラスチックごみ廃棄状況の調査を行ってきた。1回につき10名の専門家でチームを組み、彼らが小さな水路まで踏破して、発見したごみの内容を把握して分類するというものである。しかし予算と人員の関係で、そうした調査の行える領域は限られ、回数も年に1~2回程度だった。しかしドローンであれば、はるかに広い領域を短時間で把握でき、さらに従来以上に頻繁に調査できるというわけだ。

ドローンは指定された地域を飛行し、搭載されたカメラで撮影を行う。集められた画像データはAIを使って分析され、そこから自動的に、ごみの有無やその内容が把握される。分析にはサンフランシスコに拠点を置くAI企業Kineticaが協力しており、彼らの開発した機械学習のアルゴリズムによって、最初の試みで撮影された約3万5000枚の画像データの解析は、たった数時間で完了したそうである。

こうして得られたごみの位置、種類、量に関するデータは、自治体や関係機関と共有され、清掃活動の計画・生態系への影響の把握・水路のろ過方法の検討・政策への反映(ごみの収集方法や特定製品の禁止など)等に役立てられることが想定されている。もちろんこれらの対策は、これまでも検討・実施されてきた。しかしプラスチックごみに関する正確な情報を反映することで、より効果的で効率的なものにすることができる。

当然ながらプラスチックごみが蓄積されているのは、サンフランシスコの水路だけではない。あのエベレストでも登山家が持ち込むごみが問題になっており、たとえば今年5月に行われた「清掃活動」では、3トンものゴミがエベレストから回収された。その結果ネパール政府は、2019年8月、エベレストで使い捨てプラスチック製品を使用することを禁止する措置に踏み切っている。こうした極地では特に、ドローンによるごみ廃棄状況の把握は威力を発揮するだろう。

日本でも鹿児島大学の加古真一郎助教授が、ドローン空撮による海洋プラスチックごみのモニタリング技術の開発に取り組んでいる。こちらもドローンで得られた画像を分析し、プラスチックごみの体積を把握するというものだ。21世紀の最新技術によって、20世紀の技術の「負の遺産」が解決に近づくかもしれない。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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