[小林啓倫のドローン最前線]Vol.035 「スマホながら運転」の取り締まりもドローンで?

2019-12-24 掲載

取り締まりが強化される「スマホながら運転」

2019年12月1日、自動車を運転する人々にとっては少し気になる法改正が実施された。運転席で何か別のことを「しながら」運転する行為、いわゆる「ながら運転」の厳罰化である。もちろん「ながら運転」はこれまでも禁止されていた行為だが、より厳しく処罰するという姿勢が示された格好だ。

なかでも重要なポイントのひとつが、スマートフォン等の携帯情報端末を運転中に使用するという「スマホながら運転」に関する改正である。運転中の携帯電話での通話や、画面を注視する違反「携帯電話使用等(保持)」について、違反点数も罰則もより厳しいものになっている。

またこれを受けて、警察の取り締まりも強化され、スマホで通話していなくても、運転中に画面を「2秒ほど注視していれば違反になる」とされている。ただこの点については、「どうやって2秒を把握するのか」など、実行性に対する疑問の声もあげられている。

こうした「スマホながら運転」の取り締まりが強化される傾向は、日本だけの話ではない。スマートフォンは全世界で普及しつつあり、思わず運転席で使ってしまうという人も増えている。そうなればそれに起因する事故も増えるため、各国において対策が進んでいる。

たとえばオーストラリアのニューサウスウェールズ州では、「スマホながら運転を取り締まる監視カメラ」を設置する計画が立ち上がり、実際にそうしたカメラの設置が始まっている。これは同州の運輸局が進めているもので、ちょうどスピード違反を取り締まる監視カメラと同じ発想だ。

ただスピード違反と違い、走る車のスピードを測るだけでは違反をしているかどうかわからない。そこでご想像の通り、AIの出番となる。

同運輸局によれば、監視カメラが集めた映像をAIが分析し、スマホながら運転が疑われる場面をピックアップする。それを人間が確認して、違反だと認められれば、運転手に書面で通知するという仕組みだ。ニューサウスウェールズ州のマイケル・コーボイ警視副総監は、「これは文化を変えるシステムだ」と述べ、これにより2年間で路上での交通事故死者数が3分の1に減少するとの見通しを示している。

ただ物理的に行うことが可能な場所・行われそうな場所の特定が可能なスピード違反に比べて、スマホながら運転はどこでも発生し得る。だからといって、あらゆる道路に監視カメラを設置するわけにもいかない。そこで検討されているのが、ドローンによる道路の監視だ。

高度化する「ドローンによる危険行為検知」

ドローンを違法行為の摘発に使うというアイデアは、もちろん目新しいものではない。例えば2019年7月にも、ロンドン警視庁がドローンを利用して危険運転をする車を摘発する検証を行っている。この際は単にスピードを出し過ぎている車を発見するのではなく(それなら通常のスピードメーター等を利用したシステムで十分だ)、公道上でレースしているなどの危険行為に対象が絞られ、そのような行為が認められた場合には地上にいる警官に連絡が入るという仕組みだった。

また本連載のVol.21において、英ケンブリッジ大学の研究者らが、「リアルタイムドローン監視システム(DSS)」と名付けられた仕組みの開発を進めていることを紹介した。これは大勢の人間が写っている上空映像の中から、犯罪が疑われる行為をAIに自動的に検出させるというものだ。AIには事前に「疑わしい体の動き(目の前の人間に向かって高速で手を突きだすなど)」を学習させておき、それによって瞬時に問題行動を把握する仕組みである。

この研究成果は現在、米国とインドに拠点を置くスタートアップ、Skylark Labsの提供するドローン監視システムに応用されている。「ASANA(Realtime Aerial Suspicious Analysis、上空からのリアルタイム問題行動分析)」と名付けられたこのシステムは、群衆を撮影した映像の中から「殴る」「蹴る」「武器を使う」といった行為が疑われるアクションを抽出し、一方で「ハイタッチする」「ダンスする」といった、「危険行為に見える可能性があるが実際には危険ではない」行為をきちんと除外できるようになっている。

また同社はさまざまな個体認識技術(顔から個人を特定するなと)を保有しているため、特定の人物をピックアップした後でその人物の動きを追ったり、またいったんその人物が画面外に出た場合でも、再び画面に戻ってきた際に追跡を再開したりすることができるとしている。またAIの教育次第で、上記のような「殴る」「蹴る」以外にも、さまざまな人間のアクションを把握可能になるそうだ。

おそらく「走行中の車の運転席に座っている人物が、2秒以上何かを握ってそちらを注視している」のようなアクションを抽出する学習も可能になるだろう。その点では、ルールをきちんと適用して、それを守る意識を人々の間に育てるという意味において、日本でも有意義な技術であると言える。

ただこうした犯罪行為を学習させる過程においては、現状の犯罪傾向という「バイアス」がかかりやすくなることが指摘されている。たとえばいま、車を暴走させる人物の大部分が黒人だったとすると、AIが黒人ドライバーをピックアップする傾向が強まるといった具合だ。実際に米国では、AIによる顔認識によって、有色人種の方が誤って犯罪者と判断される確率が高いという研究結果が出ている。

こうしたリスクを抑える一方で、ドローンとAIという可能性をどこまで現実のものにしていくか。来年2020年は、この問いへの答えを迫られるような実験や実用化のニュースが、さらに舞い込んでくるようになるだろう。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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