[小林啓倫のドローン最前線]Vol.036 危険生物を監視するAIドローン

2020-01-29 掲載

UMA(未確認生物)をドローンで捕まえる?

ネス湖のネッシー、ヒマラヤのイエティ、そして日本のツチノコなど、世界にはいわゆる「UMA(未確認生物、正式な英語ではCryptidと呼ばれる)」の噂があちこちに存在している。その実在をどこまで信じるかは別にして、いずれにしても「何かいるようだ」という謎があると、それを解き明かさずにはいられないというのが人間の性なのだろう。昔から各地のUMAに対して、当時の最新テクノロジーを活用した調査や研究活動が繰り返されている。

そしていま、ドローンを使って、北米大陸に生息するといわれる「ビッグフット(サスカッチ)」を見つけようという試みが進められている。

こちらがその映像で、30~50秒くらいに、画面中央に走る小道から右上の小島のような森に向かって走る小さな点が確認できる。とはいえ正直、それは小さすぎて人間なのかビッグフットなのか、あるいは他の生物なのか識別できない。

いま進められているドローンによるビッグフット探索は、これとは異なり、より科学的な形で行われる。米国の有料テレビチャンネルである「トラベル・チャンネル」が、番組の一環で各界の専門家を集め、さまざまなテクノロジーを駆使してビッグフットを見つけようとしているのである。

専門家たちはこれまで集められたビッグフット目撃情報のデータを分析し、「彼ら」がいつ・どこに現れそうかを予測するアルゴリズムを構築。それが示す場所に向かい、LiDARを搭載したドローンを飛ばして調査を行う。調査ではもちろんビッグフット(とされる生物)の発見が第一目標となるが、その生息域となる地域の正確な観測を行うことも目的とされている。そのためこのドローンには、Digital Aerolusが開発した自律飛行技術が活用されており、GPSに頼れない場所でも精密な飛行が可能だそうだ。

調査に何台のドローンが使用されているかは不明だが、複数のドローンを同時に使用することによって、より広い範囲を同時に探索することができるだろう。ドローンのプロペラ音に驚いて飛び出してきたビッグフット、あるいはその他の何かを別のドローンで撮影することもできるかもしれない。自律飛行が可能なドローンは、UMAだけでなく野生生物の調査に威力を発揮するはずだ。

AIが危険生物と危機に瀕している人間を見分ける

実際に、既存の野生生物については、ドローンを使った高度な監視システムが実現されつつある。これまで何度か、ドローンの映像を分析して人間の犯罪者・犯罪行為を把握するという取り組みについて紹介したが、まったく同じことを危険生物に対して行うという発想だ。

オーストラリアでドローンに関する各種サービスを展開しているRipper Groupは、ライフセーバーを支援するドローンを開発し、既にオーストラリアのビーチで利用されている。このドローンは海で溺れている人のところまで浮き具を運んでいき、それを頭上で投下することで、遭難者を救助することができる。またサイレンとスピーカーを搭載し、遭難者に呼び掛けや注意喚起を行うことも可能だ。

さらに同社では、シドニー工科大学と共同で特別なAIを開発。これはドローンに搭載されたカメラの映像を分析し、16種類もの海洋生物を識別できるというもの。AIは、AWS(アマゾンウェブサービス)上に構築されており、分析をリアルタイムで行うことができるそうだ。

同社ではこのAIを活用し、サメやワニといった危険生物を正確に探知し、さらにその周囲に人間がいないかを確認して90パーセントの精度でリスクを検知できるとしている。またAIが人間の動作から、その人物が危機に瀕しているかどうかを見極められるようにするトレーニングも行っているそうだ。たとえば対象となる人物が浮き沈みしていたり、手足を大きくばたつかせていたりしていた場合、何らかの緊急事態にあると認識するといった具合である。以前人間の問題行為(パンチする・武器を使う等)を映像から把握するドローンを紹介したが、まさにその生物版と言えるだろう。

Ripper Groupのライフセービングサービスで使用されるドローン“Little Ripper”

実はAIでサメを監視し、ビーチを利用する人々の安全を守るという取り組みは、CRMソフトウェア大手のSalesforceも進めている。彼らは自社のAIサービスである「Einstein(アインシュタイン)」を活用し、Ripper Groupと同様、ドローンの映像からサメを把握するというもの。面白いのは、このデータは海洋生物学者と共有され、サメの生息域の移動や行動に関するパターンの把握に役立てられる。それによってサメの生態に関する研究が進み、より人とサメの間に良い関係が構築できるようになるわけだ。

AIを応用したドローンであれば、より広い地域を対象としたデータ収集を、より正確かつリアルアイムで行うことができる。それは単に、「人間にとって注意すべき何かがいるかどうか」を把握するだけでなく、その対象についてより深く知ることにも大きく役立つだろう。対象となるのがUMAであれ、サメなどの危険生物であれ、彼らが安心して暮らせる環境を維持することにもドローンが貢献することを願いたい。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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