[小林啓倫のドローン最前線]Vol.39 パンデミックが促す医療用ドローンの「逆輸入」

2020-04-07 掲載

パンデミックと戦うドローン

残念ながら、依然として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を振るっている。本原稿の執筆時点(4月6日)では、まだ日本に緊急事態宣言は出されていないが、いつ出されてもおかしくない状況であると認識されている。

このパンデミックへの対策として多くの国々で行われているのが、ソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing、社会的距離)、つまり感染を予防するために他人と一定の距離を置くという手法だ。一定数以上の人々が集まる密閉された空間には入らない、入る必要がある場合には他人と数メートルの距離を取るといった行動が具体策となるが、より徹底するために、人々の外出を禁止している国も少なくない。

しかし様々な理由から、どうしても外出せざるを得ない状況が生まれる。その際のリスクを少しでも減らそうと、いま新しいテクノロジーの活用が始まっているが、当然ながらその中にはドローンも含まれている。

たとえば外出禁止令を出した国々の一部で、許可なく外を出歩いている人々を監視するためにドローンが活用されている。中にはドローンにスピーカーをつけ、違反者を発見すると、その場で警告を発する例もある。

これにいち早く取り組んだのが中国で、当初はその物珍しさもあってか数多くのメディアで取り上げられたが、現在ではイタリアやスペインといった欧州諸国、あるいはイスラエルやヨルダンといった中東諸国でも行われるようになっている。

ただ中国の場合、上掲のWSJの映像でも解説されているように、撮影された映像の中から人間の顔を認識し、それをビッグデータと照合することで、瞬時に「誰がどこに移動したか」を把握できる監視インフラの存在も大きい。それがあることで、監視の精度や効率性、さらには威嚇効果も上昇するわけだ。

一方で、本連載でも何度か実例を取り上げているように、ドローンで撮影した映像をAIに解析させて、「何が写っているのか」を正確に把握するシステムが各地で研究されている。今回のパンデミックで、監視行為にドローンを取り入れる試みが進んだことをきっかけに、それとAIによる自動解析を組み合わせようという動きが中国以外でも進むかもしれない。

「母国」での活動を目指すZipline

一方、こうした監視行為と同じくらい注目されているのが、ドローンによる物資の輸送だ。ご存知の通り、ドローン配送は以前から研究と実証実験が行われていたが、新型コロナウイルスをめぐる騒動によって「実戦配備」を求める声が日増しに強くなっている。

中でも期待されているのが、医療物資の輸送だ。医療品が届かないために、患者や医師の方が移動するなどということになれば、彼らがウイルスに感染するリスクを高めたり、ウイルスが離れた地域にまで拡散されたりする結果になりかねない。そこでドローンに輸送を任せようというわけである。

ドローンによる医療品配送のフロントランナーで、既にアフリカ各地で実サービスを展開しているのが、米国のZipline社だ。

Ziplineは固定翼のドローンを使うことで、ある程度の重量がある物資を、遠方まで届けるネットワークを実現している。2016年から順次アフリカの国々に進出し、成果を残しており、たとえばルワンダでは、都市部以外に届けられる輸血用血液の約25パーセントを既にZiplineが輸送していると言われる。

こうしたアフリカ諸国での成功を背景に、Ziplineは「母国」である米国でのサービス展開を目指しており、既にカリフォルニア州に試験場を設け、FAA(米連邦航空局)から認可を得ることを目指している。2019年には米国防総省と共同で実験を行い、戦場や災害発生時に物資輸送を行う能力の検証を行った。そして2020年秋をめどに、米ノースカロライナ州で実証実験を行うことを計画していたのだが、そこに起きたのが今回のパンデミックというわけである。

米国は先進国であるとはいえ、広大な国土を持ち、そのすべてに効率的な医療システムが構築されているわけではない。実際にZiplineのCEOであるKeller Rinaudoは、ロジスティクスの問題で無駄にされてしまう血液の量は、ルワンダよりも米国の方が多いと指摘している。もちろん国土も人口も、社会の成熟度も違う両国を単純には比較できないが、効率化の余地は多く残されているということだろう。

前述の通り、Ziplineはちょうど米国内での実験を開始しようと準備を整えていたところであるため、新型コロナウイルスの流行を受けて、それに対応した医療品(関係する薬品やマスク、遠隔医療用の機器に至るまで)輸送の体制を迅速に整えられるとしている。理論上では、18か月以内に米国全土をカバーできるドローン配送ネットワークを構築できるそうだ。同社はFAAに対して早期に認可を出すよう求めており、米国の新型コロナウイルス感染者数が30万人を超え、震源地である中国での数を大きく上回っている状況では、実際に認可が早められる可能性もあると見られている。

新型コロナウイルスによるパンデミックは悲しむべき事態であり、一刻も早く収束させなければならない。ただ、パンデミックに立ち向かおうとした努力によって、今回のような社会システムの再構築が進むだろう。それは中国のような監視システムの強化という可能性がある一方で、将来新たな事件や災害発生した際に、多くの人命を救う結果にもつながると信じたい。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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