[小林啓倫のドローン最前線]Vol.40 権威主義に対抗するドローン

2020-05-15 掲載

発熱者の監視もドローンで

前回も新型コロナウイルス(COVID-19)対策におけるドローン活用について触れたが、それに関連して注目されているドローン活用法が、本連載でも何度か触れている「監視」への応用である。

たとえばドローンに赤外線カメラを搭載し、広場や市街地などを飛行させ、発熱している人(つまり新型コロナウイルス発症の疑いがある人)を把握しようという動きがある。実際にインドでは、首都デリーとその近郊の都市グルグラムにおいて、そのようなドローンのテストが行われていることが報じられている。

その名も「コロナ・コンバット・ドローン」というこのUAVは、搭載された赤外線カメラで約20メートル離れた場所(これだけ離れればソーシャルディスタンスとしては十分だ)から発熱している人を把握でき、ドローンのオペレーターは感染の心配なく危険を把握できる。

また、同じ名前を持つもう1種類のドローンには、消毒液が10リットル入ったタンクと4つのノズルが搭載されていて、こちらも遠隔操作で消毒液の散布ができる。散布活動を行いながら、約1.6キロメートルの飛行が可能だそうだ。

このコロナ・コンバット・ドローンはテスト段階とのことだが、既に15を超えるスラム街で消毒活動を実施している。新型コロナウイルスの感染防止と効率的な消毒活動を同時に達成するこのドローンは、確かに医療従事者にとって大きな助けとなるだろう。実際に、インドの5つの州政府が同ドローンの配備を求めているそうである。

ただ赤外線カメラによる確認では、当然ながら誤った判断が行われることは否定できない。たとえば運動して体が熱くなっている人と新型コロナウイルス感染による発熱者をどう区別するのか、といった指摘が行われている。また新型コロナウイルス 対策とはいえ、一方的に撮影を行うというのも、プライバシーの観点から懸念が残る。実験が一般の都市部ではなく、スラム街で先に行われたのは、そうした否定的な意見への配慮があったことを否定できないだろう。

こうしたドローンによる監視の動きの広がりは、先進国も例外ではない。たとえば以下の映像は、コネチカット州の事例だ。警察によるドローン活用で、こちらも機体に赤外線カメラを搭載し、上空約12メートルから発熱者の把握が可能としている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによるドローン活用

いまドローンを始めとした先進的なデジタル技術が、パンデミック対策の名のもとに、世界各地において人々の監視や行動の把握に活用されるようになっている。確かにそれは必要なことかもしれないが、支配層が被支配層を強制的に従わせようとする「権威主義」(独裁制や専制君主制などもその一部だ)をテクノロジーで補強するものだとして、「デジタル権威主義」と批判的に呼ばれている。

果たしてドローンは、こうしたデジタル権威主義を支える道具のひとつとして定着するのだろうか。最近の事例はその予想を肯定するものが多いが、逆に人道的な目的のためにドローンを活用するという動きも生まれている。

そのひとつが、ドローンメーカー大手のパロットによる取り組みだ。彼は国際的な人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(彼らは新型コロナウイルス対策を口実としたデジタル権威主義の拡大に反対している組織のひとつでもある)に協力し、彼らの活動を支えるドローンとその関連ソフトウェア、並びに技術サポートを提供している。

その成果のひとつが、最近レポートとして発表された。それが“Into the Abyss: The al-Hota Mass Grave in Northern Syria”(奈落の底へ:シリア北部アル・ホタの共同墓地)である。これはイスラム過激派組織のISISによる大量虐殺事件を扱ったもので、Mass Graveは日本語では「共同墓地」と訳されるのだが、このケースでは「虐殺された人々の遺体が投棄された場所」という方が正確だろう。

その場所というのがアル・ホタで、ここは渓谷となっており、ISISがこの地域を支配していた際に遺体を投げ捨てていたのである。ヒューマン・ライツ・ウォッチはISISが撤退した後の2017年から虐殺に関する調査を行っていたが、渓谷は地形上の制約から調査を行うのが難しく、ドローンを活用することになったわけだ。

使用されたのはパロット製ドローン「ANAFI」で、搭載されている高精細カメラで谷底(深さは約50メートルとのこと)を撮影し、実際に少なくとも6名分の遺体が存在していることが確認された。また写真測量ソフトウェアのPix4Dも提供され、渓谷の地形の3Dモデル化を実施し、調査に役立てられたそうである。

この地域はISISが撤退したとはいえ、まだ完全に治安が回復されたわけではない。そのためできる限り迅速に、必要最低限の人数で調査を完了させる必要があり、その点でもドローンによる調査が大きく役立ったと評価されている。

過去にもさまざまな政府や支配層による虐殺事件が繰り返されてきたが、巧妙に隠されることから、事件が発生して長い時間が経過してから明るみに出ることが多い。今回も数年経過しているとはいえ、まだ遺体が目視で確認できる段階でこれだけ把握できたことは、ドローンによる支援があってこそと言えるだろう。

前述の通り、残念ながら最近は権威主義的な目的のためにテクノロジーが活用される事例が目立っている。しかしテクノロジー自体は中立な存在であり、逆に権威主義的な組織による悪事を暴くためにも活用できることを、こうした事例を通じて再度認識されることを願うばかりだ。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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