[古賀心太郎のドローンカルチャー原論]Vol.02 マクルーハンの視点でドローンを考える

2020-05-22 掲載

マクルーハンとドローン

マーシャル・マクルーハン、1911年カナダ生まれの英文学者。1960年代に、「メディアはメッセージ」や「グローバル・ビレッジ(地球村)」など多くのアフォリズムを残し、一大ブームを巻き起こしたメディア研究における重要人物。

広く知られている一方、彼の主張は難解で、論理的な説明や検証というアプローチを取らなかったため、彼を理解しない、あるいは批判する学者も多かったと言われていますが、現代のインターネット社会を予言するような鋭い考察も多く、近年、彼の著作や理論は再評価されています。

メディアというワードを聞いたときに、僕たちはふつう、テレビや新聞などを思い浮かべますが、マクルーハンは、テクノロジー全般をメディアと考えていました。彼の主張によれば、空を飛ぶ最先端のテクノロジーであるドローンも、メディアとして議論することができるということになります。

今から40年近く前に亡くなっているのですが、このメディア研究のグル、マクルーハンがもし今も生きていたら、彼はドローンをどんな風に考えたでしょうか。今回は、そんな感じのテーマで書いてみようと思います。

ドローンは何を「拡張」するか

情報を伝達する媒介や手段である、新聞やテレビ、インターネットなど、一般的に僕たちが考えているメディアだけでなく、マクルーハンは、メディアをもっと広い範囲で捉えていました。彼の定義によると、メディアとは「テクノロジー」であり、「人間の身体の拡張」であり、また「人間の感覚を拡張させるもの」です。

「メディア論 ―人間の拡張の諸相―」

著書「メディア論」の中では、テレビやラジオ、新聞と並び、自動車や住宅、言語や貨幣などもメディア(=テクノロジー)として紹介されています。そして、彼は、自動車は「人間の足の拡張」、住宅は「肉体の体温調整メカニズムの拡張」であると論じます。

ドローンは、最先端のテクノロジーの結晶です。ドローンも、何かを「拡張」させるものなのでしょうか。

ドローンが僕たちに与えてくれる最も大きな能力、それは、この空間を3次元に自由に移動できる力です。マクルーハン的に言い換えると、「人間の足の拡張」。僕たち自身が持つ移動能力を大きく超えて、遠い場所へ、高いところへ移動できる機能がドローンにはあります。

遠くに行けるようになると、人は、そこに何があるのか目を凝らして見てみたくなります。そこで、ドローンにカメラが搭載されました。つまり、ドローンは「人間の目の拡張」でもあるということです。

「テトラッド」でドローンを考える

マクルーハンとその息子の共著として発表された最後の著作「メディアの法則」で、彼らは「テトラッド」という、一種のフレームワークを提唱します。メディア(=テクノロジー)は、何かを「強化」しますが、一方で「反転」し、また「回復」と「衰退」を発生させるという考えです。ドローンというテクノロジーを、この「テトラッド」に当てはめてみたいと思います。

 
■強化

テクノロジーによって、何かを強化することを意味します。

上述の「足(行動範囲)の拡張」と、それに伴う「目の拡張」。これは、遠距離や高高度に移動して、より多くの事象を見るということを意味しますが、言い換えると、人間が持つ、情報入力の能力を強化しています。

例えば点検分野は、高解像度カメラや赤外線カメラを使って、劣化やクラック、外壁タイルの浮きなどを点検します。測量分野であれば、可視光カメラやレーザー機器。精密農業分野ではマルチスペクトルやハイパースペクトルカメラなどの入力装置を使用しますが、これらはいずれも、視覚的な情報の入力という人間の目の機能を強化しています。また、捜索や救助に使用する超高感度の暗視カメラや、高輝度LEDライトなども、夜間という環境下で物を視るための、情報入力機能の強化だと言えるでしょう。

しかしながら、ご存じの通り、ドローンの能力は入力だけではありません。農業における農薬散布、災害時における拡声スピーカーなどは、何かを出力する行為であり、前者は「手の拡張」、後者は「声の拡張」と考えることができ、物を撒く、情報を伝える、という能力を強化しています。

空を飛び、自分の能力を超えた遠方へ赴き、その場所で何かをしたい。そんな僕たちの欲求を叶えてくれるのがドローンですが、その「何か」のバリエーション、すなわち搭載する機器とその用途は、様々なアイディアや企業の開発努力によって発展しています。したがって、ドローンが強化してくれる僕たちの身体機能も、今後ますます拡がりを見せてくれるはずです。

■衰退

拡張の反作用によって、既存メディア(テクノロジー)の役割を弱めることを意味します。

空撮の分野では、従来、ヘリコプターを使わないと撮影できなかった空からの映像を、ドローンを使うことで、圧倒的に低コストで行うことが可能になりました。また、地上の撮影でも、ステディカムやクレーンカメラの代替としてドローンを使用することもあります。

従来の撮影機材には、稼働できる高さや範囲など、それぞれ活動可能な条件がありましたが、ドローンは複数の領域をそれひとつで自由に横断することができ、他の撮影ソリューションの活躍の場を脅かす存在となりました。

空撮以外でも、様々な産業分野でドローンの導入が期待されていますが、各専門分野でドローンを活用するには、相応の専門知識が必要です。例えば点検業務であれば、点検内容に適したカメラの選定と使用方法、対象物に適した飛行法などを正しく理解していなければ、いくら基本的な操縦ができても、業務に即した必要データを取得できません。つまり、ドローンパイロットにも、ある程度の専門化が求められるわけです。

近年、ドローンメーカーが、専門的な機能を持つ純正カメラを開発し市場に投入しています。また、ドローン向けのソフトウェアやモバイルアプリケーションも次々に開発され、専門的な業務のオペレーションに取り組みやすくなってきました。

従来は専門家しか行うことが出来なかった業務が、一般的に手に入りやすい製品を利用することで、比較的容易に行うことができるようになってきた事実、これが「パイロットの専門化」を後押ししている気がします。また同時に、ドローンパイロットたちの多くが、専門知識を身につけることの重要性に気付き、知識の習得に積極的な姿勢を見せているという流れも感じます。

クレーンカメラやステディカム、また各分野の専門家の存在を、ドローンが衰退させるなどと言ったらさすがに語弊があるかもしれませんが、ドローンとその周辺機材の発展は、彼らの専売特許であった領域に、少なからず影響を及ぼす働きをしていることは事実なのではないでしょうか。

■回復

テクノロジー(メディア)によって、失われていた何かを回復することを意味します。

19世紀の産業革命以降、工業化は作業の細分化によって発展してきました。科学技術や教育においても同様に徹底した細分化が進みましたが、結果として総合的な思考を妨げてきたと、多くの思想家たちが危惧してきました。

ドローンを安全に運用するためには、様々な知識が必要です。例えば、航空力学、気象、電波、法律、エンジニアリング全般、それに加えて、活用したい専門分野の知識も求められるようになりました。これは、幅広い分野を横断して総合的に理解するという、技術や知識の統合を促し、その姿勢を回復する働きをしているのではないでしょうか。レオナルド・ダ・ヴィンチやゲーテ、バックミンスター・フラーなどのように、学問や技術に境界を持たず、統合的に物事を見る機会を、ドローンが回復してくれるのではないかと期待しています。

■反転

テクノロジー(メディア)が生み出す弊害や副産物を意味します。社会に新しい技術が導入されることによって、予想しなかった状態が生じることがあります。

空撮の分野は、ドローンの活用がもっとも早い段階でビジネス化した業界のひとつです。それを可能にしたのは、DJIなどのドローンメーカーが、高性能で手頃な価格の撮影用ドローンを開発してくれたからですが、一方で、それによって数多くの空撮業者が急激に世の中に出現しました。もちろん、操縦技能、撮影の技術、安全知識のレベルは玉石混淆ですが、この状態は価格競争を招き、結果としてドローン空撮の価格は低下していきました。

また、オペレーションが容易なドローンの登場により、従来のカメラマンもドローン空撮に参入し始め、現在では空撮だけを専門とするビジネスが成立しにくくなっています。ドローンの活用で最も期待される低コスト化が、皮肉にも非ビジネス化に反転するような現象を生んでしまったわけです。

ドローンは「プローブ」である

マクルーハンは、自分の思考法と研究法を「プローブ(Probe)」と呼んでいました。「プローブ」とは、未知の形態や状況を探査するために用いられる物体や装置のことで、宇宙に打ち上げられる天体の探査機や、歯科医が使う器具である探針もプローブと呼ばれます。

彼の言う「プローブ」という手法は、世の中の事実を探査機と見立て、新しい環境や影響などを発見することを意味するようですが、彼はその発見を体系的に理論化したり、検証するようなことはしませんでした。キャッチーでセンセーショナルな発言ばかりするくせに、それを証明しないというやり方は、生真面目な研究者から見るとイライラするものだったのかも知れません。

しかし、この「プローブ(探査機)」という言葉で、ふと、あることに気付きました。点検分野(異常部や劣化の発見)や、災害救助(遭難者の捜索)などの活用場面を思い浮かべると、ドローンは文字通り探査機としての役目を果たしています。これは、なかなか興味深いことです。

ドローンがいよいよ発展してきたから我が社も導入しよう、という企業が近年増えています。「ドローンであればこんなことが可能になる!」というニーズから始めるのではなく、「とにかくドローンを使って何かできないか?」という考えで出発すると行き詰ってしまうことが多いようですが、結果として、思いもよらなかったドローンの活用方法が世界中でぞくぞくと生まれてきていることは事実です。最近のコロナ禍では、警察がドローンを使って外出自粛を呼び掛けたり、通行人の熱やくしゃみを検知するなんていうアイディアやソリューションが飛び出てきました。

ドローンと言う存在そのものが、このような新しい用途の模索を促してくれている事実。ドローンは確実に、僕たちの社会を変えていく存在です。人間の能力を拡張し、より多くの情報を探査し、それを入力してくれるドローンは、僕たちの社会の新しい環境を発見するための「プローブ」として機能しているのではないかと感じます。

マクルーハンは難しいけれど…

Marshall Mcluhan Full lecture: The medium is the message – 1977 part 1 v 3

ここまで、自分の思ったことを好きなように書いてみましたが、正直なところ、僕はマクルーハンの理論についてちゃんと理解しているという自覚はありません。むしろ、メディアの専門家ではないので、著作を読んでもよく分からないことばかりです(すみません)。

でも、マクルーハンが残した数々のアフォリズムや考え方を自分なりに解釈すると、物事を今までとは違う角度で見ることができたり、今まで見えなかった流れに気付けたりします。それはちょうど、ドローンが様々な角度や高度から被写体を撮影できることや、上空からの映像の中に、地上からは絶対に見ることのできないおもしろいカタチを発見することに、似ているような気がするのです。

ドローンというテクノロジーは、人間の様々な身体機能を拡張してくれます。ドローンというメディアが、これからの僕たちの社会にどのように影響していくのか、とてもワクワクします。マクルーハンが生きていたら、相当におもしろいことを語っただろうなぁ、なんて、僕は想像してしまうのです。

WRITER PROFILE

古賀心太郎
株式会社アマナのドローンソリューションairvisionのディレクター、プロデューサー。大学で航空宇宙工学を専攻し、卒業後に自動車メーカーで設計業務に携わった後、ドローン空撮の世界に飛び込む。大型ドローンを使ったTVCMやMVなどを多数手がけ、大手企業との実証実験やドローン導入のコンサルティングも行う。JUIDA認定のドローンスクール講師としての活動や、ドローン関連の法令について講演や執筆にも精力的に取り組んでいる。

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