[古賀心太郎のドローンカルチャー原論]Vol.03 ミュージックビデオの中のドローン(前編)

2020-06-30 掲載

僕はミュージックビデオが大好きで、毎夜寝る前には、YouTubeで新しいビデオをチェックしたり、好きな作品を見返したりするのが日課となっています。ドローン空撮の仕事の中でも、やはりミュージックビデオを撮るのが一番楽しかったりします。

もともと楽曲の販促的な意味合いが強かったため、プロモーションビデオと呼ばれることが多かったものの、最近は映像自体の重要性が大きく増し、作品性がとても高まってきていると感じます。新曲を最初に発表する場がYouTubeなどの動画共有サービスだというミュージシャンも多いですし、新進気鋭の映像作家が個性を注ぎ込み、ミュージックビデオが彼らのポートフォリオとして機能することも少なくありません。

そしてドローンは、ミュージックビデオの作品性を高めるひとつの手法として、欠かすことが出来ない要素のひとつとなっています。「ドローン×カルチャー」がテーマのこの連載。今回は、ミュージックビデオの中のドローンの役割について語っていきたいと思います。

ミュージックビデオにおけるドローンの意味

ミュージックビデオに限らず、映像制作の中でドローンを使いたいというお話を頂きますが、その作品の中で本当にドローンを使う必要性があるかを問うことは、とても重要なことだと思っています。手段である「ドローンを使うこと」が目的化してしまわないように、ドローンを使う意味をしっかり考えて、最大限活用しなくては良い作品になりません。

僕は個人的に、ミュージックビデオの中でのドローンの役割として、次の3つのいずれかを必ず表現できるように心がけています。

ドローンが表現すべきもの

  1. 空間
  2. 移動感
  3. 意外性

「空間」は、長さ、広さ、高さという三次元の量を意味します。広い風景や大きな構造物をカメラのフレームに収めるためには、十分に高い位置から撮影しなくてはならない場合があります。これは言うまでもなく、ドローンの最も基本的な役割です。上空からの広い画は客観性を持たせ、その世界感を説明したり、場面転換などにも多用されます。ミュージックビデオでは、ブレイクのタイミングやアウトロで使われるケースが多い気がします。

「移動感」は、映像の気持ちよさを決定づける重要なファクターです。楽曲と一体となるミュージックビデオにとって、この「移動感」がとても大事。曲調によって、例えばゆったりとした雄大さを表現したい場合と、疾走感を感じさせたい場合では、単純な移動速度だけでなく、場合によっては、地面などとの相対距離の取り方も変わります。何かに近づくのか、あるいは遠ざかるのかによっても、そのカットが表現するメッセージは全く異なります。

そして最後の「意外性」。これは、観る者に対していかに驚きを与えられるか、というチャレンジです。例えば、オーソドックスな手法としては、建物や地形を真俯瞰から捉えることによって、地上からは絶対に見えないグラフィカルな画を見せること。また、手持ちカメラと見せかけた低空なアングルから、高高度までをワンカットで繋ぐ方法。昨今では、マイクロドローンで被写体に接近したり、狭い間をすり抜ける手法が挙げられます。見慣れてしまうと、そこに驚きが無くなってしまうので、常に新しいアイディアが求められる難しいポイントだと言えます。

今回は、ドローンが効果的に使われているミュージックビデオをいくつか紹介していきたいと思います。どの作品のドローンカットも、上に挙げた3つのポイントのいずれかをしっかりと表現していて、作品の中でのドローンの重要性が感じられるのではないかと思います。

水曜日のカンパネラ「メロス」(2019)

毎回、趣向を凝らしたミュージックビデオを作り続けている水曜日のカンパネラ。コムアイは何かのインタビューで、「ミュージックビデオをつくりたいから音楽をやっている」というような発言をしていましたが、本当に、いつも人の心を惹きつける作品を世に送り出し続けていると思います。

この「メロス」は、2019年にJRA日本ダービーのタイアップ曲として発表されたミュージックビデオ。彼らの作品の中では割と多いコミカルな要素は一切なく、非常にストーリー性が高い内容で、その世界観に思わず引き込まれてしまいます。監督は、近年注目を浴びる山田智和氏。

肝心のドローンカットですが、実はあまり多くはありません。まずは、イントロ(0:37)で大勢の騎馬が走るシーン。そして、サビ(1:33)に入った瞬間にパッと切り替わる、砂埃を上げながらダイナミックに駆ける光景がとても気持ちいい。どちらも、とてもシンプルなカットですが、こんなにたくさんの馬が砂漠を駆けている姿をドローンで空撮出来たら、さぞかし興奮するだろうなと思わずパイロット目線で観てしまいます。

山田監督らしく、全編を通して、客観性を持たせるような広い画よりも人物の目線に近いシーンが多いですが、曲が終わり最後のカットは、とても象徴的なドローン映像で締めくくられています。ドローンではおなじみのノーズインサークル(被写体をカメラで捉えながら、円を描いて飛行すること)と、砂漠を走る風の音。ゴビ砂漠の雄大さと、何とも言えない荒野の寂寥感を覚える、とても美しいカットです。

僕も、以前モンゴルのゴビ砂漠をジープで縦断したことがあるのですが、このカットを観て、あのときドローンを持っていたらこんなに素晴らしい景色が見られたのかと、少し悔しくなってしまいました。

Jamie XX「Gosh」(2015)

初めて観たときは、本当に衝撃を受けました。映画「インセプション」のような現実感の無い街並みに、生物感の薄い不思議な登場人物たち。まるで白昼夢のような世界観を体現するロケ地は、「広厦天都城」という中国・杭州にあるパリのコピータウンだそうです。

少し不気味な雰囲気漂うボーカルで始まる冒頭、ベランダでうつむく人物からまっすぐドローンは離れていき、無機質な2棟の高層マンションの間を抜け、これでもかと引いていきます。

ビハインド・ザ・シーンの映像で確認することが出来ますが、この撮影では、Freefly Systems社製ALTA 6という大型ドローンに、シネマカメラを搭載して空撮しています。このサイズのドローンを操縦したことのある方ならご存知だと思いますが、小型~中型ドローンとは違った、重量感のある操縦の手応えとそれに伴う緊張感があります。僕は基本的に小心者なので、本作のように大型ドローンを遠距離に飛ばしている映像を観ているだけで、ハラハラドキドキしてしまいます。

一番の魅せ場は、やはり最後のドローンカットでしょう。円形に回る少年たちのグラフィカルな陣形を真俯瞰で捉えたまま、エッフェル塔の間をすり抜け、「これくらいで勘弁して!」と、思わず心の中で叫んでしまうくらいの距離まで遠ざかっていきます。エッフェル塔の姿をすべて画面に収めるまでのダイナミックなワンカットは圧巻です。

Passion Pit「Take a Walk」(2013)

エレクトロ・ポップバンドPassion Pitの代表曲「Take a Walk」。2012年当時、まだ自分はドローンを始めていなかったのであまり意識して観ていなかったのですが、この作品の実写部分はほとんどドローンによって撮影されています。

鳥の目線のように使われることが多いドローンですが、この作品の中では、なんとボール目線として機能しています。上下に跳ねるカメラの動きを表現するというのがユニークで面白く、コマ送り的な動きはクレイアニメのようで、子供の頃によく観たファンタジー映画のような雰囲気が、個人的にとても好きです。面白いのは、3:12付近で道路に散らばった紙が舞い上がるシーン。これはおそらく、プロペラの吹き下ろしの風をそのまま利用しているのだと思われます。

また、この直後にビルに沿って上昇するのですが、ほんの一瞬、窓にクアッドコプターのアームらしきドローンの姿が映ります(何の機種なんでしょうか?)。屋上まで上昇したボール(ドローン)は、そこでゆらゆらと漂いますが、この揺れは演出であると同時に2013年当時のドローンのホバリング精度そのものなのかな、とも推測されます。

こうやって、ドローン黎明期に作られたミュージックビデオを通して、ドローン技術発展の歴史に思いを馳せてみるのも面白いものです。

Kid Fresino「Coincidence」(2018)

「凄いものを観てしまったな」という感想を抱かせる作品です。監督は、先に紹介した水曜日のカンパネラの「メロス」と同じ、山田智和氏。何かが起こりそうな予感をさせる印象的なイントロ。雪の降り積もる新宿を歩き、そして走るKid Fresinoを、カメラはワンカットでひたすら捉え続けます。

当日の朝に決めてゲリラ撮影を敢行したとインタビューで語っていましたが、この雪景色だけでなく、冒頭から真後ろをゆっくりと追うタクシーのライト、駆けだす瞬間に呼応するかのように点滅を始める歩行者信号のタイミングなど、様々な偶然性がこの作品を形作っているように感じます。

2:40まで続く街中のKid Fresinoの姿から突然、ドローンによる真俯瞰の雪原が差し込まれます。広大な雪の大地で遠ざかるスピード感、そして、ゆっくりと上昇するラストカット。初めて観たとき、最後のこの圧倒的な画の力に「マジか・・・」と思わず呟いてしまいました。ドローンによる真俯瞰でしか表現できない構図のパワー。ここに至るまでにたくさんの困難があったとしても、この数秒のため、こんな映像を空撮する瞬間のために、みんなドローンパイロットをやっているのだと思います。

Four Tet「Baby」(2020)

全編を通して、ドローンの映像のみで構成されるミュージックビデオは稀に存在しますが、大抵のものは変化の乏しい映像に終始してしまいます。しかし、このFour Tetの「Baby」は、次々と流れていくロケーションの圧倒的な美しさと疾走感で、観る者を飽きさせない作品に仕上がっています。

空撮を担当したのは、FPVドローンレーザーのAndrés Aguilera Morillas(@AndriuFPV)。彼が今までに、世界各地で撮影した映像の集大成のような作品だそうです。イントロの風の音、心臓の鼓動のようにも感じられるビート。恍惚感あるハウストラックと相まって、まるで自分が鳥になった気分で、美しい景色の中、地面スレスレを猛スピードで飛んでいる気分になります(深夜に部屋を暗くして観るのがオススメ)。

また、編集もなかなか乙で、空や穴の中が次のカットへとシームレスに繋がっていく様は、四つ打ち好きならきっとハマる演出ですし、1:21付近でノイズ音に合わせて2度クルっと画面が回転するところなんかも、とてもニクいです。しかし、何と言っても最高なのは、2:42からのブレイクで、ビートが消えた瞬間に優雅に羽ばたくタカのシーン。聞こえるのは鳥の鳴き声と水の音。自分が一緒に空を舞っているような浮遊感は、言葉で形容するのが難しいほど、本当に素晴らしいです。

ちなみに、最後のオチは必要か?と突っ込んでしまうと思いますが、このミュージックビデオは「Teenage Birdsong」という曲の続きという位置づけのようですので、ぜひ併せてご覧になってみてください。

語りきれないドローンの魅力

個人的に、ミュージックビデオ作品を解説するというのは野暮なことだとは思っているのですが、今回はドローンにフォーカスするという観点で語ってみました。ご紹介したどのミュージックビデオも、ドローンの必要性と存在感が際立っている作品だったのではないでしょうか。

冒頭で挙げた3つのポイントのうちの「意外性」について、今回はあまり語りきれなかったので、次回はミュージックビデオの歴史と、トリッキーなドローンの手法を使った作品をご紹介したいと思います(後編へ続く)。

WRITER PROFILE

古賀心太郎
株式会社アマナのドローンソリューションairvisionのディレクター、プロデューサー。大学で航空宇宙工学を専攻し、卒業後に自動車メーカーで設計業務に携わった後、ドローン空撮の世界に飛び込む。大型ドローンを使ったTVCMやMVなどを多数手がけ、大手企業との実証実験やドローン導入のコンサルティングも行う。JUIDA認定のドローンスクール講師としての活動や、ドローン関連の法令について講演や執筆にも精力的に取り組んでいる。

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