[小林啓倫のドローン最前線]Vol.42 ドローンとAIの目で進む野鳥保護

2020-07-27 掲載

地表面の鳥の巣を検知する

現在、地球上で生息している鳥類の数は約9000種類とも、1万種類とも言われている。しかし地球環境の変動や人間による環境破壊によって、鳥類が生息できる場所は減少しつつある。特に人間の生活圏に生息地域が近い野鳥の中には、近年その数を急速に減らしている種類もある。今回はそんな鳥類を、ドローンとAIの「目」で守るという取り組みを紹介しよう。

河川や湿地などに生息する、タゲリという鳥がいる。日本には越冬のために本州に飛来する冬鳥で、水田などで見られることから、「田んぼの貴婦人」などと呼ばれることもあるそうだ。そもそもタゲリという名前も、漢字で書くと「田鳧」や「田計里」となり、人間に近い場所で繁殖してきた鳥であることがわかる。

しかしそれだけに、近年タゲリの数は減少傾向にあり、欧州の中には生息地保護に乗り出した国もある。各地でさまざまな保護プログラムが検討されている状況だが、そんな中でヘルシンキ大学が考案したのが、ドローンとAIで空からタゲリの巣を検知するというものだ。

実はタゲリは、地表に簡単な巣をつくり、そこにはツバメの巣のような分かりやすい巣材は使われていない。巣を目立たせないようにするためだが、逆に人間がその存在に気付かず、農地をつくる際に破壊してしまうということが起きている。

タゲリが地表につくった巣(出典:Geograph Britain and Ireland

ヘルシンキ大学が今年7月に発表した研究で使用されているのが、温度を感知するサーマルカメラと、自律飛行するドローンを組み合わせて検知するシステムである。同研究によると、タゲリの巣は周囲の地表よりも温度が高い。そのためサーマルカメラで対象地域の温度を把握できれば、そこから巣の可能性がある場所を特定できるというわけだ。

しかし当然ながら、耕作(候補)地の面積は広く、人間がサーマルカメラを持って歩き回るわけにはいかない。また広範囲の温度データを取得できたとしても、それをいちいちチェックするのにも時間がかかる。地表面の温度は一律ではなく、不規則に変化する温度パターンの中から、正確に巣を認識するのも人間にはハードルが高い。

そこでドローンとAIの出番だ。既に精密農業の世界では、特定の農地を指定し、その上空を自動的に飛行して各種データを収集するドローン・システムが開発されている。またAIを実現する機械学習技術は、大量のデータをシステムに与えるだけで、そのデータから特定の判断を可能にするモデルをシステムが自動で構築する。これらを組み合わせることで、タゲリの巣を自動的に検知するシステムの開発を目指したのが、今回の研究となる。

自動的に巣を守る農機の可能性

先ほどの研究論文によれば、実験の結果、巣を検知するのに一定の効果が得られたそうだ。しかしその精度は、天候や耕作地の種類、ドローンを飛ばす高さ等の条件によって左右された。機械学習では、前述の通り、大量のデータに基づいて機械が自ら「モデル」、つまり判断を行うロジックを形成する。したがってその根拠となる大量データの内容がどのようなものかによって、機械がどのような判断を行うか、またどこまでの判断が可能か変化する。

一例を挙げると、機械学習を使って実現されたアプリケーションのひとつに、顔認識と呼ばれる技術がある。文字通り、画像や映像の中から顔を検知したり、その顔が特定の人物と一致したりするかを判断する技術だ。これを実現するためには、大量の顔写真をAIに与えるわけだが、そこでどれだけ多様な画像を用意できたかが結果の精度に影響する。実際に現時点では、白人の顔を対象にした方が、他の人種よりも精度が上がるそうだ。

それは白人の顔写真データが比較的大量に存在している(先進国の多くが欧米諸国であるといった理由による)ためであり、たとえば中国企業などは、この穴を埋めるために各国でさまざまな人種の顔写真データを集めるという活動を行っている。

特定の条件における検出精度の低下は、こうした学習用データのばらつきによるものだろう。したがって今後、さまざまな条件下でのデータが集められることで、どのような環境でも一定の精度を得られるようになると期待できる。またタゲリだけでなく、他の野鳥や野生生物にも応用できるようになるだろう。

自動的にタゲリの巣を守るトラクターのイメージ(出典:Nature.com

一方でヘルシンキ大学の研究者らは、今回の仕組みを、農機に統合することを検討している。たとえばAIが検知した野鳥の巣の位置情報を、同じくAIが自動制御する農機に送り、そもそもその場所に立ち入らないようにしたり、その場所だけ耕さないようにしたりするといった具合だ。それによって、誤って地表の巣を破壊してしまうという事態を回避できる可能性がさらに高まる。

ドローンで自然環境や、環境破壊の実態を把握する取り組みについては本連載でも取り上げてきたが、そこでいくら正確なデータが得られたとしても、具体的な行動に結びついていかなければ意味がない。その意味で今回の研究のように、ドローンを使ったシステムが、その後のアクションを担うシステムと統合され、高度な自動化が実現されるようになることを期待したい。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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