[小林啓倫のドローン最前線]Vol.44 AIが進める「ロボットの役割分担」

2020-10-19 掲載

進化が進む「陸上ドローン」の分野

本サイト「Drone.jp」は、その名の通りドローンをテーマとした専門サイトだ。そのため取り上げられるニュースはドローン、つまり空を飛ぶ小型無人機に関するものであることが多いが、最近は水上や水中、あるいは陸上で自律行動が可能な小型の移動型機器も高度化しており、それらにも時折「ドローン」の名称が使われるようになっている。

特に近年「陸上ドローン」、つまり地上を移動するロボットの進化がめざましい。空中や水上・水中の場合、もちろんさまざまなリスクが存在しているものの、障害物という点では比較的制約は少ない。一方で陸上を移動するとなると、街中のちょっとした段差や設置物、そして当然ながら人やクルマといった他の移動物体が大きな障害となる。

街中を避けたとしても、自然の山道やぬかるんだ未舗装の道、積雪した地面を移動するのは簡単な話ではない。しかし最近のAI技術の発展によって、障害物を素早く検知したり、路面に合わせてバランスを取ったりすることが可能になり、陸上ドローンの活躍の場面が増えているのである。

たとえば配送の分野では、最終目的地である消費者の自宅まで荷物を届ける「ラストワンマイル」を担当するロボットとして、「空中ドローン」と同じくらい陸上ドローンに注目が集まっている。市街地の場合、空を飛ばせるよりも地上を移動させる方が、むしろリスクが少ない場合があるためだ。そこでさまざまな企業が、陸上ドローンによる配送実験を行っている。

イタリアで配送実験が行われた陸上用ドローン「YAPE」

たとえばイタリアの企業によって開発された「YAPE(Your Autonomous Pony Express)」は、人間の腰まで届かないほど小さな陸上ドローンで、まさに名前の一部となっている「ポニー」さながらだ(ちなみに「ポニー・エクスプレス」とは、19世紀に米国で実際に運営されていた、馬による郵便配達サービスである)。

しかし小さいながらも積載重量は70キログラムと、一般的な荷物であれば問題なく運ぶことができる。このドローンには顔認証システムも搭載されており、荷物を特定の場所に届けるだけでなく、個人を認識してその人物から荷物を受け取ることができる。つまり集配にも使えるわけだ。

YAPEのようなロボットが実用化されつつあることで、ある程度の距離を空中ドローンで配送し、そこから先のラストワンマイルを陸上ドローンに任せる、というハイブリッド型の自動配送も検討されるようになっている。さらに現在、コンテナを運ぶ大型船や輸送機もロボット化が進められており、ロジスティクスのあらゆる側面をさまざまなドローンが支援する世界が到来しようとしている。

建設現場を空と地上から守る

こうした役割分担は、物流以外の世界でも生まれるようになっている。そのひとつが、ドローン管理・データ収集支援用クラウドを提供しているDroneDeploy社の取り組みだ。

同社は2020年10月に開催された自社イベント“DroneDeploy Conference”において、自走型ロボット開発で有名なBoston Dynamics社と協力し、新たな建設現場支援サービスを開始すると発表した。これはドローンが撮影した空撮映像と、Boston Dynamicsが開発した地上を移動するロボットから撮影された映像を組み合わせて、建設現場を外側と内側の両方から把握するというものだ。

ここで使われている陸上ドローンが、Boston Dynamicsが開発した犬のようなロボット「Spot」である。犬のような、といっても、ソニーのAIBOのような愛玩用ロボットではない。悪路を走破したり、障害物が散乱している屋内を移動したりすることが可能な四つ足を持つロボットだ。

さまざまな地面や屋内を「歩く」ことが可能なSpot

上記の映像からもわかるように、Spotは工場や工事現場といった場所でも自律走行できる。そこでこのロボットに360度カメラを搭載して建物内をくまなく(自動で)歩かせ、屋内のあらゆる個所のデータを収集(ちょうどGoogle Mapsの「ストリートビュー」を作成するようなイメージだ)。それにドローンが集めたデータを組み合わせ、3Dモデルを作成できるというのが今回のサービスである。

現場の関係者はこのデータを活用して、作業の進捗状況を把握したり、危険な個所がないかをチェックしたりすることができる。従来もこうした現状把握サービスが、ドローンを使って外部からデータを取るという形式で行われていたが、当然ながらその場合には外側から把握できるデータしか収集できない。

現場を移動してデータを収集するSpot

しかし内部の把握も行いたいという声が多く、これまで屋内も飛行可能なドローンを使用する実験が行われてきた。ただ工事現場の場合、完成した建物の内部とは違い、さまざまな資材や配線がむき出しになっており、ドローンを飛行させるのにはリスクが大きい。そこで建物内を「歩いて」、安全に移動できるSpotに白羽の矢が立ったというわけだ。

こうした全自動で特定個所のあらゆるデータを収集するサービスについては、新型コロナウイルス流行でソーシャルディスタンスの確保が求められる環境において、ますます需要が高まると予想されている。さまざまなドローンが、空と地上からタッグを組んで任務に当たる、という状況も珍しいものではなくなるだろう。

WRITER PROFILE

小林啓倫
経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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