[古賀心太郎のドローンカルチャー原論]Vol.07 宇宙ビジネスとドローン

2020-10-23 掲載

New Spaceの時代

学生時代、航空宇宙工学の勉強をしていました。その頃は、宇宙ビジネスの可能性が語られ始めた時期でしたが、まだまだ国が宇宙開発を主導するという時代で、宇宙をビジネスの対象とした民間企業は、多くありませんでした。

しかしこの数年、民間主導の宇宙ビジネスがいよいよ本格化してきたように感じます。例えば、イーロン・マスクのスペースX社、ジェフ・ベゾスのブルー・オリジン社。その他、アメリカを中心に多くの宇宙関連スタートアップ企業が生まれています。

モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスによる予測では、2040年代には宇宙ビジネスの市場規模が1兆ドルに達し、重要産業に成長するとされていますが、事実、最近は活発な宇宙ビジネスのニュースをよく目にするので、産業が大きくなっていることを肌で感じます。

従来の政府主導の宇宙開発の時代を「Old Space」といい、民間主導の新しい宇宙開発を「New Space」と呼びますが、今、僕たちはこの「New Space」のフェーズに突入しています。

近年の宇宙ビジネスの動向を見ていると、ふとドローンの産業とよく似た点に気付くことがあります。上空を利用したビジネスが共に近しいことは当然かもしれませんが、発展のプロセスや課題が互いに類似しているのはとても興味深いことです。今回のテーマは、宇宙ビジネスとドローンビジネスの類似点を取り上げてみようと思います。

宇宙ビジネスの種類

アメリカの衛星関連ビジネスの業界団体サテライト・インダストリー・アソシエーション(SIA)は、世界の宇宙ビジネス市場を、主に「衛星サービス」「非・衛星サービス」「地上設備」などに区別しています。2019年のグローバルの市場規模は3,660億ドルですが、「衛星サービス」と「地上設備」などを併せた衛星産業は全体の約74%を占め、人工衛星を活用した産業は宇宙ビジネスの中の主役だと言えます。

一般的に人工衛星は、主に以下のように分類されます(※分類の方法はいくつかあります)。

  1. リモートセンシング衛星
  2. 通信衛星
  3. 測位衛星

この中で、リモートセンシング衛星に注目してみたいと思います。

日本のリモートセンシング衛星には、JAXAの「ALOS(だいち)」や、気象庁の気象衛星「ひまわり」、経済産業省が中心となって開発した「ASNARO」などがあります。リモートセンシング衛星に搭載されるセンサーは、光学とレーダーに大きく分類され、用途としては自然災害の状況を把握したり、国土の管理や資源管理、気象や雲、CO2濃度を計測する衛星もあります。

アメリカでは、NASAや米国海洋大気庁によって開発、運用されてきました。また欧米では、高分解能の衛星が開発され、例えばデジタルグローブ社の「ワールドビュー」は、数十cm単位の分解能がある衛星画像を商用販売しています。

リモートセンシング衛星の利用分野が、実はドローンの活躍するフィールドとオーバーラップしていることが分かると思います。精密農業や資源管理、自然災害の状況把握、測量。ドローンとリモートセンシング衛星は、互いに競合となる存在だとも言えるのです。

自分の経験でも、ある企業にドローンによるソリューションを提案したものの、人工衛星による画像情報を購入するという方法に負けてしまった、といったことがありました。では、ドローンと人工衛星には、どのような差があるのでしょうか。

ドローンに対して衛星が持つ優位性は、周期性と越境性だと言えます。衛星は、長期に渡って周期的にデータを取得することができるという大きな利点があります。またドローンのように飛行場所の許可を得る必要もなく、広範囲に渡って安全に撮影することが可能です。

一方、ドローンによるメリットは、分解能と即時性です。低高度で運用するドローンは、カメラ性能の向上も相まって、一般的に取得できるデータの分解能が高いことが大きな利点です。また、衛星は撮影したい場所の上空を通過するタイミングでしか撮影できないことに対して、ドローンは必要なときに都度対応することができます。

衛星による撮影においては、宇宙からの撮影だから天気に左右されないか、といえばそうではなく、雲の発生時にはデータを取得することができない場合もあります。逆にドローンであれば、曇天であっても低空を飛行するので雲の影響を受けません。

どちらが優れているか、ということではなく、それぞれメリット・デメリットがあるということです。必要なデータの内容と頻度などが、どちらのソリューションにより適しているか、ということを見極めて利用するのが大事なことです。

ブラジルの先住民スルイ部族は、アマゾンの森林保護区をGoogle Earthによる衛星画像を利用して森林の不法な伐採をモニタリグしています。不法伐採と疑われるエリアを特定したら、現地に赴き、ドローンを飛行させて詳細な調査を行います。両者の利点をよく理解して活用している例だと言えます。

中国の存在

奇しくも、宇宙とドローンの産業、開発、利活用において、重要なプレーヤーとなっているのは中国です。中国における宇宙開発目標は、国家主義的な意味合いが非常に強く、国家の復興および経済発展と明確に結び付いています。

また、中国の宇宙開発専門家のトップは、月や火星を、東シナ海や南シナ海などと同様に捉える事が重要だ、と強調しています。中国は、宇宙(活動領域や資源)をいかに独占できるかという視点で考えており、これは、宇宙空間の利用が全人類の共同の利益と考える宇宙条約などに反するものです。

様々な国が協力して運用している国際宇宙ステーションが象徴するように、冷戦以降、各国が協調して発展してきた宇宙開発ですが、残念ながらそのような概念を中国は持っていないようなのです。

中国は、このような独自の考えを持って宇宙開発を進めていますが、確かな技術力を持って発展しているのは事実です。そして、ドローンの世界でも、やはり最先端の技術力と、猛烈な開発スピードを見せつけていることは、周知の通りでしょう。

ドローン市場では、DJIがコンシューマー機については圧倒的なシェアを持っていますが、セキュリティ上の懸念により、アメリカ国内では、中国製ドローンの使用は内務省や軍で禁止されています。DJIは、セキュリティ上問題のない機体を実証していますが、残念ながら認められておらず、日本においても海上保安庁が中国製ドローンの使用や調達を見送っています。

中国のドローンメーカーの台頭が、宇宙開発における中国の国家戦略と同じだとは個人的に決して思っていませんが、空を制するということが、国のセキュリティ問題上どれだけ大きな影響を与えるのかという可能性を考えると、アメリカの懸念もある程度は理解できます。

例えばNASAは、過去複数回にわたって、中国系ハッカーから繰り返しハッキングを受けています。あるいは、サイバー攻撃によるGPS誤作動により、アメリカ船籍の船が誤ってイラン領海に侵入し、拘束されるという事件も起きています。

とは言え、メーカーをハッカーと同一視することはナンセンスですし、僕自身、使用するドローンは今ではほぼすべてDJIです。一人のユーザーとして、彼らの逆風には非常に憂いを抱いています。

宇宙ビジネスの発展プロセス

アメリカが宇宙開発にかける政府予算は年間約5兆円です。一方、日本は約3000億円。17倍近い差があるにもかかわらず、今までの宇宙開発における日本の存在感は素晴らしいもので、これはひとえに日本の技術力の高さに基づいていると言えます。

国際宇宙ステーションの実験棟である「きぼう」や、宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」の開発と運用。「H-ⅡAロケット」の高い打ち上げ成功率。日本は、官主導の「Old Space」の時代に、これらの大きな成果を積み上げてきました。

しかし近年、日本国内では、以前のように大きな宇宙技術を開発する可能性が薄くなり、ハードからソフトへの舵取りを変更する機運が高まっているといいます。一方、ドローンの分野でも、機体やフライトコントローラーの開発が世界に遅れをとり、センサーなどの機器開発で市場を狙う日本企業の姿に似た状況を感じます。

「新・宇宙戦略概論」の著者である坂本規博氏(自民党総合政策研究所)は、日本の宇宙ビジネスは欧米に比較して幼児期である指摘していますが、この数年、日本国内でも、これまで宇宙とは縁の無かったプレーヤーが宇宙ビジネスにぞくぞくと参入し始めている状況は確かです。例えば、衛星データを利用できるプラットフォーム「Tellus(テルース)」利用者の50%以上が、非・宇宙関連企業であると聞きます。

そしてドローンの世界でも、まったく同様の動きを肌で感じています。僕は、ドローンスクールの講師をさせてもらっているのですが、この2、3年はあらゆる業種・業界の方が受講し始め、ドローン利活用の広がりを非常に強く感じていますし、いろいろな産業の方からお話を聞くことで、自分自身とても勉強になっています。

宇宙開発は半世紀以上の歴史があり、商用利用はドローンに先行してきたわけですが、宇宙とドローンの両者は、ビジネスの面では、どうやら同じようなプロセスを今後辿っていく必要があるようです。

衛星データの利活用を進める上で課題と言われているのが、データへのアクセス、処理、解析などが特殊であり、衛星画像のエキスパートでないと取り扱いが困難であったり、他のアプリケーションとの統合が容易に行えなかったりすることだと言います。

そして、これはドローンのビジネスにおいても、まったく同じことが言えると思います。空撮データを提供するだけのパイロット代行という業種形態ではなく、必要なデータを取得するためのデバイスや飛行方法に精通し、データを解析、レポート化した後、顧客にソリューションを提供するという、一気通貫したビジネスモデルが必要とされています。顧客に与える付加価値の高度化を、目指していく必要があるということです。

宇宙もドローンも、当たり前の社会に

宇宙ビジネスなんて自分の生活からは遠い話、と思っているかもしれませんが、本当はとても身近な存在なんです。天気予報、スマホのGPS受信、クレジットカード決済も、実は宇宙を周回する人工衛星の恩恵を受けています。そしてドローンも同じように、生活の一部として当たり前に溶け込む社会がもうすぐ来るはずです。

宇宙ビジネスは国際協調が必要です。ドローンの社会実装も、社会の理解と協力が不可欠ですが、新しい技術やビジネスの前には様々な課題が立ちふさがるのが常だと思います。そしてきっと、これらの課題は少しずつ解決していけると信じています。

いま、僕たちは、ものすごく面白い時代に生きていると思っています。

WRITER PROFILE

古賀心太郎
株式会社アマナのドローンソリューションairvisionのディレクター、プロデューサー。大学で航空宇宙工学を専攻し、卒業後に自動車メーカーで設計業務に携わった後、ドローン空撮の世界に飛び込む。大型ドローンを使ったTVCMやMVなどを多数手がけ、大手企業との実証実験やドローン導入のコンサルティングも行う。JUIDA認定のドローンスクール講師としての活動や、ドローン関連の法令について講演や執筆にも精力的に取り組んでいる。

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