DRONE

Vol.21 あるドローンパイロットの1日 [シュウ・コバヤシのDRONE MANIA]

Vol.21 あるドローンパイロットの1日 [シュウ・コバヤシのDRONE MANIA]

撮影当日のルーティーン

まだ夜明け前の午前4時、目覚ましが鳴る少し前に自然と目が覚める。撮影当日は緊張からなのか目覚めが良いことがある。妻を起こさぬようにそっとベットを抜け出し、手早く身支度を済ませる。昨夜のうちに着るものやカバンは用意しておく。サングラスなどを忘れるとコンビニやサービスエリアで買う羽目になるので事前の準備は怠らなくなった。

愛車に乗り込むと、暖気もそこそこに、早々に住宅街を抜け出す。車齢30年を超えている我が愛車をいたわってやりたいが、今どきオートマもパワステもパワーウィンドも、ABSやらなんやら最新装備がなにもない、最近の車に比べると、エンジン音がとてもうるさい。暖気などしてやれないのだ。1速から2速に上げる際も一旦ニュートラルに入れてやらないと、すり減ったシンクロが悲鳴を上げる。ドローンという最新のガジェットを扱っているくせに、とてもアナログなことをしている自覚はあるが、この一手間が機械との対話な気がして、手間と感じなくなっている。デジタルな機械が増えてきたが、その感覚はドローンにもあると感じている。

エンジンも温まってくる頃、順調に高速インターに近づいている。この時間帯は通勤の車もまだ少ない。高速湾岸線に乗っても、渋滞はまだ起きてないようだ。5時半までに高速に乗らないと、到着時間に大きな差が出る。6時をすぎると移動時間が30分ぐらい変わってしまうのだ。

事務所に着くと、車と機材車を入れ替える。機材車は最新のハイブリットカーである。理由は単純で、1500W-100V電源をメーカーオプションで選べたからだ。ハイブリット用のバッテリーから給電されるため、走行充電器や補助バッテリーを搭載する改造がいらない。趣味の車と業務の車は選考の基準が違う。

荷さばきに車をつけると、すでに同僚が機材を満載した台車を伴って待っていた。機材は前日までに準備してあるが、車には載せていない。万が一車ごと盗難にあった場合を想定しての予防策だ。

事務所を出発し、ロケ地までの移動も順調だ。30分ぐらい余裕をもったスケジュールなので、どこかでのんびり休憩をしよう。遅れるよりはマシなのだ。長い道中だと2時間ぐらいで運転を交代している。ドローンパイロットとして一番気をつけないといけないのは、車の運転だ。ドローンで人や物を傷つけてしまう確率や被害額より、車の交通事故のほうが、確率も金額も断然上だ。

ロケ場所につくとロケコーさんが出迎えて、車の駐車場所まで誘導してくれる。ロケコーとはロケーションコーディネーターのこと。ロケ場所の候補の選出から、手配、交渉、許可取りまでしてくれる職種だ。最近はドローンのことを熟知したロケコーさんもいて、警察署や付近住民への説明までもしてくれる場合がある。とても心強い。

ロケコーさんと挨拶していると、顔見知りのPM(プロダクションマネージャー)がやってくる。撮影部隊はいくつかのチームに分かれる。プロデューサーやPM、アシスタントなど、映像制作の手配や弁当の手配、演者のケアなどの雑用を引き受ける制作部、カメラ機材を扱う撮影部、照明部、などなどだ。その制作部をまとめ、撮影の全体を管理するのがPMである。規模によってはプロデューサーが兼ねていることもある。われわれのドローン撮影を持ちかけてくるのもPMかプロデューサーのことが多い。このチームは何度か一緒に仕事をしており、信頼もしている。

朝食のおにぎり弁当を頬張りながら、今日の香盤とコンテを見ながら、監督、カメラマン、PMと打ち合わせる。香盤とはスケジュールのことだ。朝食をここまで食べてこなかったのも、この制作部なら用意されていることがわかっているからだ。たまに食に無頓着な制作部もいる。香盤上どうしても昼食時間を取れない場合もあり、撮影優先になるのは致し方ないと思う。だが、全く考えてない場合は気が滅入る。わかっていれば事前に自分で用意する。そのため機材車にはお茶や、コーヒーなど一息セットが常備されている。いい仕事は腹が満たされてないとね。

結局、我々の出番はお昼過ぎのようだ。待機も仕事のうちである。とはいっても、充電電源の確保、撮影部と確認用モニターの接続とカメラ設定確認、機材準備、飛行テスト兼事前アングルハント、などなどをしているとPMからそろそろ出番だと告げられる。撮影が思ったより順調で巻いているようだ。ちなみに遅れていることを押しているという。巻いて嫌がる人はいない。

準備万端の機材を撮影ポイントに運び、コントローラーの映像出力を確認用モニターにつなぎ、映像確認をしつつ、監督と最終確認。フライト開始である。

撮影はあっけなく終わった。これは案件によって全く違う。同じ動きを何度もすることもあれば、心配になるほどあっけなく終わることも。待機時間のほうが遥かに長いこともある。当日の天候、飛行の難易度、撮影の密度等、理由は様々だ。早速機材を撤収していると、PMが走ってまた我々のもとに来た。もう1カットお願いできないかとのことだ。もちろん快諾する。必要とされることは嬉しいことだね。

特技は「撤収の速さ」と言えるくらい自信がある。もちろんその間に撮影データのバックアップも走らせてある。RAWデータだと恐ろしく時間がかかることもある。効率も考えて先に行っておくのだ。機材車に順序よくすべて収まる頃にはバックアップも終わっている。データをPMに渡して終了だ。この手離れの良さもドローン空撮の利点だ。監督、カメラマン、撮影部、PMなど関係者に軽く挨拶を済ませて現場を後にする。

「うちに帰るまでが撮影です」遠足の挨拶ではないが帰りの車の運転も要注意だ。眠くなる。だが、機材を戻し、車を乗り換えてと、まだまだやることがる。しかし、朝の緊張感はどこかに去り、心地よい疲労感が漂う。さあ次はどこの現場かな?

Writer : シュウ・コバヤシ

「雑機屋」ドローンの専門家。車好き、機械好きが縁で車をメインとするCG制作会社に入社後、2012年アマナの空撮部門airvision事業発足と同時に参加。操作だけでなく、機体の開発、改良などメカニックも担当。映画「魔女の宅急便」では国内で事例がほとんどない中、RED社のEPICを搭載して250回以上の全フライトを担当。2016年 NHK大河ドラマ「真田丸」タイトルバック、自動車会社、鉄道会社などのCMにも多く関わる。2020年4月よりアマナグループを退職後「雑機屋」を立ち上げる。

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