前回のコラムで「チャイナリスク」に関して書き、その中で米国政府の対抗策を示したが、今回はアメリカのドローン戦略を掘り下げたい。
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アメリカでのドローンのポジショニング
アメリカでのドローンは無人機として、第2次世界大戦の前から、米軍の重要な戦略として、ドローン開発・運用の先進国であり続けている。米軍がすべてのドメインでどのように作戦するかについての、統合の連合ビジョンである統合用兵コンセプト(JWC:Joint Warfighting Concept)においても、自律機はいつでも重要なポジショニングを担っている。
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けれど、第2次大戦後の冷戦時代において、途中で挫折した計画も多く、技術の未成熟さもあり、自律機の関心は米軍の中でも薄れていた時期も長かった。
それを変えたのは、2001年9.11同時多発テロであった。そのテロに対する課題は、都市や構造物ではなく個人に近い小さい攻撃目標に関する情報を、いかに迅速かつ正確に攻撃実行者に伝えるのかというものであったが、その課題に対して、以前より大きな進化を遂げていたUAVプレデターは、その発見と攻撃を兼ねる形で、最も効率的な解決策であった。
当初、UAVプレデターは、米軍のものでなく、CIAが運用していた。それはCIAがアル・カイダとタリバンに関する情報収集を行っていたからだ。米空軍はプレデターより長時間の飛行が可能なジェット推進式のグローバル・ホークを実戦投入した。
その当時、様々な課題がある中で、一番の課題は通信であり、プレデター2機とグローバル・ホーク1機を同時運用するだけで通信容量の限界に達したという。
その後、UAVだけでなく、陸上のUGVも地雷探索・処理、偵察などの分野において、アフガン・イラクに実戦投入され成果を上げた。
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こういったドローンは確かに米軍の戦い方に変化をもたらしたが、アフガンやイラク戦争において、その行方を左右することはなかった。それは、その武装勢力やテロ組織との闘いでは、敵への攻撃よりも治安確保・住民保護が重要であり、そこでのドローンの果たす役割には限界があった。
2001年4月国防総省は、以後25年間の開発の方向性を示すUAVロードマップを初めて公表し、また、2007年には、陸海空すべての無人システムを対象とするロードマップも初めて策定された。このロードマップには、すべてのドローンに共通する4つの優先任務として、偵察、目標探知・指示、地雷・IED(Improvised Explosive Device)・機雷対応、化学・生物・放射線・核・爆発物偵察を挙げていた。
2012年のロードマップでは、自律システムに対する信頼性を確保し、安全かつ倫理的な方法でドローンに決定を委ねるための指針を策定する必要があるとの指摘もあり、2012年12月には有人・無人システムによる攻撃に人間の関与を義務付ける国防総省指令も発出された。2013年のロードマップでは、ドローンも接近阻止・領域拒否環境下で活動する能力の指摘もされ、有人機の護衛なしで使えないということもあり、その方向性はステルスUAVやスウォーム技術の開発の必要性につながった。
また、その頃から、中国が先端技術への投資を拡大していることや、国防産業ではない民間企業による技術革新が活発化したことから、米軍の技術的優越が失われつつあるとの危機感が強まっていた。それを受け、2014年には、国防イノベーション・イニシアティヴ(DII)が開始された。DIIは、民間部門発の技術革新を軍事に取り込み、それを利用した新たな作戦コンセプトを策定する試みとなっている。
2017年のロードマップでは、無人システムと有人システムが情報を共有し、ともに行動することの重要性が強調されている。
この2017年時点において、民間でのドローン状況-特にローエンドの領域では、多数の民生用ドローンが製品化されていた。そして、その中心にあったのは、DJIであった。
Drone1.0(空撮用機体の競争)~2016年
DJI Phantom vs Parrot Bebop、3DR SOLOが典型的な競争となっている時代で、Parrotのコンスーマー機の撤退や3DR SOLOの撤退によって、Drone1.0は終わり、圧倒的なDJIの勝利のフェーズとなった。
Drone2.0(ドローンソリューションの勃興)2017年~2020年
DJIの一強時代の中、DJIのSDKを使って、様々なドローンソリューションが出てきたのが、このフェーズだ。ドローン測量用のPix4D、Metashapeなどやリモートセンシング解析用のDrone Deployなど、工事進捗用のSiteScanなど多くのソリューションプロダクトが生まれてきており、ドローンの産業向けの活用が進み始めたフェーズであった。
ここで米国での民間の動きをみてみよう。
2014年においては、米国において、ドローン市場規模の可能性として大きかったのは、ビデオ・画像撮影だけでなく、精密農業(農地のリモートセンシング)という予測があった。
(記念すべき私のこのコラムの第1回となり、この予測を鑑みて、ドローン・ジャパンを起業した。)
しかし、米国において、広大な農地面積の中、自律自動技術やそれに連動するカメラ技術が確定しておらず、目視外飛行のルールも未成熟な中で、必ずしもそこでのビジネスは立ち上がっていかなかった。(しかし、現在においては、衛星画像とのコンビネーションで米国において精密農業は定着してきている。)
米国においても、当初からその効果として見込まれていたし、注目を浴びていたのはやはり物流の分野であった。特に目立ったのはAmazonのドローン配送の動きであり、それが日本にも波及し、現在のレベル3、レベル4の法規制につながっている。
そのAmazonも途中、撤退の動きもありつつ、ようやく昨年2023年になって少しずつ、ドローン配送が動き始めている。
この物流といったコンセプトによって、米国においても、ドローンの法律がFAA(連邦航空局)の管轄となり、日本においても国土交通省の管轄となり、今に至っている。
(ただし、FAAは個人用途のものや商用であっても250g(0.55ポンド)未満のものは厳格なルールを定めていない。)
2015年時点、米国においても、ドローンの実際の活用として目立っていたのは不動産空撮であった。(米国では一軒家の建売りの物件も多く、その案内の映像として広がった。)
Drone1.0(空撮用機体の競争)において、圧倒的な勝利を収めたDJIがその機体の中心になった。
また、そのDrone1.0で敗れた側の3DRのクリス・アンダーソンが書いた」「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2018年1月号)」に掲載した「ドローン・エコノミー:データ取得の革命がビジネスを変える」が新たな起点となり、米国においてドローン活用の市場規模として、一番手に踊りでたのが、工事進捗-工事現場の日々の空撮でのデータ化としての活用になった。
ドローンはもともと、軍事利用を念頭に開発された武器である。それがいまや、誰でもどこでも買える玩具として流通したり、ビジネスの道具としても積極的に活用され始めたりしている。ドローンが最も力を発揮するのは、「モノの配達」ではなく「データの取得」である。そして、ドローンの自動運転技術が確立され、地球の完全なるデータ化が実現するという革命が起きた時、そこには巨大な市場が生まれる。
(「ドローン・エコノミー:データ取得の革命がビジネスを変える」より)
米国において、ドローンの活用の中心にある機体はずっとDJIであり、DJIの機体を使っての活用が様々な形で広がってきていた。
特にPublic Safetyといわれる警察や消防といった分野でも、その監視・状況観察・探索・追跡などといった活用において、DJIの機体性能や価格、携帯性など他に比べて凌駕しており、その浸透が進んだ。
そのDJIの浸透はアメリカ政府を揺るがし、特に軍事領域において、ローエンド機体を中心に民生用と軍事用のデュアルユースが進む中で中国機体(DJI)との差を感じさせるものであった。
そんな中、DIIの組織である国防イノベーション・ユニット(DIU)がBlue UASという民生用ドローン(特に最初にターゲットしたのはDJIのMavicをターゲットにした短距離偵察機であった)を米軍が採用するための手続きを迅速化するプロジェクトを2020年に開始した。
このプロジェクトを発動させるときに使ったフレームワークがオープンプラットフォームの戦略であった。
DIUはシリコンバレーなどにオフィスを構えてドローン企業に多いスタートアップなどの民間企業が有する技術と軍のニーズのマッチング等を行う国防総省の組織であり、アメリカがこのデュアルユースということを真剣に捉えている表れとなっている。
日本においても、ようやく「令和5年(2023年)版防衛白書」では「中国の軍民融合政策は技術分野において顕著であり、中国は、軍用技術を国民経済建設に役立てつつ、民生技術を国防建設に吸収するという双方向の技術交流を促すとともに、軍民両用の分野を通じて外国の技術を吸収することにも関心を有しているとみられる。技術分野における軍民融合は、特に海洋、宇宙、サイバー、人工知能(AI)といった中国にとっての「新興領域」とされる分野における取組を重視しているとされる」というような中国を意識した形で記され、2023年8月に軍民利用を後押しする防衛省、研究機関と定例協議を開始した。
このDIUが実践しているような研究にも取り組む方針だという。
しかし、個々の技術も重要であるが、現在の技術はネットワーキング化しており、個別技術の研究だけでなく、米国DIUが示したような「繋がる」ためのプラットフォームの構築も重要になってきている。
Blue UASは当初、Cleared Listという完成品ベースのリストだけであったが、最近では、Blue UAS Frameworkという「相互運用可能な NDAA 準拠の UAS コンポーネントとソフトウェア」を充実させてきている。このフレームワークには、DoD アプリケーションで使用するための重要なコンポーネント、サブコンポーネント、モジュール、ソフトウェアが含まれる形となっており、UAS 開発者に高度な機能を提供し、政府顧客のリスクを軽減するものとなっている。
また、今年2024年8月にもDIU and NSIN Present: Blue UAS Refresh Challengeといった形で、このリストやフレームワークをより充実していくためのコンテストを開催している。
これは「この分野に恒久的なソリューションは存在しないことを認識しており、現代の激しい戦場で求められるスピードでソリューションを提供するために、ソフトウェアの俊敏性と組み合わせた基本的なハードウェア機能を提供することを目指している」といった形で最新技術の導入や技術アップデートを推進するものとなっており、これもプラットフォームを定めて初めて可能となってくる取り組みである。
ウクライナやガザでの紛争は確実に軍事戦術の局面を変えており、その中で無人機は重要な位置を示している。
今日、我々は、技術によってふたたび大きく推進され、戦争の性質がまた大きく変化するのを目の当たりにしている。次の紛争は、大量のデータ収集と処理能力を備えた偏在するセンサーによって特徴づけられるだろう。低コストの自律型プラットフォームは、人工知能(AI)や分析ツールによって増強された商業的な画像や行動追跡データと相まって、環境を感知し、理解する能力を加速させるだろう。安価なドローン、徘徊型弾薬(loitering munitions)、速度・射程距離・精度が向上した精密誘導弾は、キル・ウェブを閉じるまでの時間をさらに短縮する。ロボット工学と積層造形技術(additive manufacturing)は、軍隊が彼らの兵力に補給し維持する方法を変えるだろう。広汎なセンサー、人工知能(AI)駆動の兵器システム、長距離精密火力は、最速のプラットフォームを遅く見せ、最も隠れた編成(formations)を露呈させる。
最後に、キネティック、ノン・キネティックを問わず、宇宙とサイバーのプラットフォームと能力の開発が進んでいるため、次の戦争の決定的な地形は地表に限定されない。要するに、見る(see)、撃つ(shoot)、動く(move)、伝える(communicate)、守る(protect)、維持する(maintain)という戦場の基本が根本的に変わりつつあるのだ。組織の属性は、必然的に、小規模で、広範囲に分散し、ほぼ自律的(autonomous)かつ自立的(self-sustaining)で、絶えず動き続けることができ、決定的行動のために定期的に大規模な効果を上げることができるものとなる。この作戦環境では、分権的なミッション・コマンド(mission command)が重視される。中央集権化された上層部からのマイクロマネジメントのリーダーシップは、効果を生まない。
アメリカのドローンセキュリティ対策
ドローンの軍民のデュアルユースが進む中で、特に軍での使用が進む中で、その技術として進んできているのは、カウンタードローンやアンチドローンといったドローンを無害化する技術だ。
カウンタードローンやアンチドローンは、基本的には以下のステップを踏んでいる。
- 検知:領空内に何かが入ってきたことを検知(小型で低空で飛ぶドローンはまずこの検知が難しい)
- 識別:検知したものが、鳥などでなくドローンであること。また、それが害を与える(敵)ドローンであることの識別(これも正常なドローンが飛び交うところではその識別が難しい)
- 排除:識別したドローンの無害化(停止・撃墜・捕獲など)
こういったカウンタードローンやアンチドローンの技術が進むにつれて、ドローンのセキュリティ(攻撃や墜落など)のリスクも高まっている。
上に示したBlue UAS Refresh Challengeにおいては、こういったドローンのセキュリティ対策も求めている。そこでのPlaybookとして示されているのが、「DARK WOLF SOLUTIONS」だ。これはDARK WOLF SOLUTIONS社のシステム脆弱性に関するテストフレームワークと方法論となっている。
無人航空システム(UAS)の利用はさまざまな分野で前例のないほど急増しており、その結果、潜在的な攻撃ベクトルが拡大し、システムの脆弱性が露呈しています。
この変化する脅威の状況に対応するため、当社は堅牢でユーザーフレンドリーなテストフレームワークと方法論を開発しました。このフレームワークは、侵入テスト担当者が自律システムを評価するのに役立つように調整されていますが、一般ユーザーにとってもアクセスしやすく、役立つように設計されています。
この包括的なフレームワークにより、無人航空システムの効率的かつ正確なテストが容易になり、プロの侵入テスト担当者と一般ユーザーの両方がこれらのシステムのセキュリティの堅牢性を効果的に評価できるようになります。このツールは、潜在的なセキュリティ リスクを特定して軽減するのに役立ち、クライアントをサポートし、悪用される可能性のある脆弱性を最小限に抑えます。
仕組みとしては、ハードウェア・プロトコル・ソフトウェアに分かれている。
- ハードウェア:フライトコントローラー、コンパニオンコンピュータ、通信システム、グランドコントロールステーション(GCS)、ペイロード
- プロトコル:MAVLINK、CAN Bus、ZigBee、Bluetooth、Wi-Fi、5G/4G/LTE
- ソフトウェア:ファームウェア(Ardupilot、PX4、プロプライエタリ)、アプリケーション(Qground Control、Mission Planner、プロプライエタリ)
Playbookとしては、Recon、Mapping、Discovery、Exploitationとなる。
- Recon:機体メーカーとベンダーの情報を収集するプロセス
- Mapping:ドローン システムのすべての機能、サービス、および潜在的な侵入ポイントを特定するプロセス
- Discovery:マッピング フェーズで収集した情報を活用して、対象システムの脆弱性と弱点を特定する。このフェーズでは、自動化ツールと手動テスト手法を組み合わせて、潜在的なセキュリティ問題を明らかにする
- Exploitation:特定されたセキュリティ上の欠陥を利用して不正アクセス、権限の昇格、または不正なアクションの実行を試みる。主な目標は、脆弱性の実際の影響と重大性、およびテスト対象のシステムまたはアプリケーションに対する脆弱性の潜在的な影響を評価すること。
こういったPlaybookを実施するための侵入テスト用のツールなどもこのサイトにはある。
いわば、機体メーカーやデバイスメーカー、ソフトウェアメーカー、場合によってユーザーはこのサイトを活用してセキュリティリスクを改善していくものになっている。
日本においても、ドローンの実用が進んでいく中において、ドローンシステム全体においての、セキュリティリスクの検証および対策が求められている。
こういった形で着実に無人機の運用環境をアメリカは整えてきており、また、なお推進させている。その動きは日本にとっても非常に参考になり、学ぶべきところは多い。