機種名に「S」とつくとマイナーチェンジ機体なので、旧機種からの進化を少しご紹介するくらいでレビューも終わることが多いのですが、今回デビューした「DJI Air 3S」は、"AIR4"といってもよいくらいの機体です。一部の機能は上位機種のDJI Mavic 3 Proを超えているところもあるくらい。今回はこのDJI Air 3Sをじっくりとご紹介していきます。
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DJI Air 3Sの主な特徴
DJI Air 3Sの特徴は、フラッグシップ機に迫る(一部追い抜いた)撮影機能の充実です。サンプル映像を撮影して、いざ映像を確認したときの第一印象は忖度なしに「なんだ?この高画質映像は!?」というものでした。その理由は下記のとおりです。
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大型化されたメインカメラのセンサー
DJI Air 3Sでは1/1.3インチだったメインカメラのセンサーサイズが1インチにサイズアップしました。センサーサイズが大きいと、より大きなピクセルを持つことができ、それにより多くの光を取り込めます。これにより、映像のディテールが豊かになり、解像度が高まるだけでなく、ノイズが少ないクリアな映像が得られます。
デュアルカメラ&14ストップダイナミックレンジ
DJI Air 3Sから引き続きデュアルカメラを搭載し、約3倍の中望遠撮影もレンズ交換なしに楽しめます。加えて、2つのカメラはいずれも14ストップのダイナミックレンジに対応し、低照度条件でもできるだけ細部を捉え、よりノイズの少ない夕日や夜景を撮影することができます。
ダイナミックレンジとはセンサーが受け取ることができる明るさの範囲のことで、いちばん暗い黒からいちばん明るい白までどれくらいの光を受け取ることができるかを表しています。"ストップ"という単位でその範囲を表し、1ストップで2倍光の強さが違います。14ストップがどれくらいかというと、黒と白の比が16,384:1となります。それでもわかりにくいのでコンシューマーフラッグシップ機のDJI Mavic 3 Proがどれくらいかというと12.8ストップなので約13ストップとすると8192:1。
結論、フラッグシップ機の倍以上のコントラスト比を持ったカメラを搭載したミドルレンジ空撮ドローンということになります。
※各関係機関から許可を得てフライトしています
夜景撮影にも対応した全方向障害物検知
これまでの検知はビジュアルセンサー(カメラ)をメインに使っていたので、カメラが障害物を検知しにくくなる暗いところや、模様が一律な場所などではその精度は低くなってしまっていました。今回、DJI機で初めて暗所でも障害物を検知できる前方LiDARセンサーを搭載し、下方ビジョン用赤外線ToFセンサーとドローンの前部、後部、底部の3組のビジョンセンサーを組み合わせることで、夜間撮影にも対応した全方向障害物検知を実現しています。
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LiDARとは、レーザー光を使って物体までの距離を測定し、周囲の3D情報を高精度に取得する技術です。DJI Air 3Sでは、上下左右60°の範囲で暗闇でも25m先の障害物を検知することができます。LiDARにより、これまで15ルクス(家庭内の薄暗い照明程度)以上必要だった障害物検知機能が、1ルクス(都市部から離れた場所での星明かりのない曇った夜程度)から対応できるようになっています。
45分の飛行時間
大きなカメラセンサー、デュアルカメラ、超高画質撮影、前方LiDAR搭載の360°障害物検知などたくさんの高機能を搭載しても、なお45分フライトできる余裕の省電力性。バッテリーは高価、かつ重くかさばるちょっとやっかいなものです。せっかく軽量なDJI AIR 3Sなのに、重い予備バッテリーを大量に持っていっては意味がありません。充電ハブの集電機能もあいまって、バッテリー本数は最低限でOKです。もちろん、旧DJI AIR 3との互換性もありますので、すでにDJI AIR 3をお持ちの方は安心してDJI Air 3Sに乗り換えることもできます。
DJI Air 3Sの内容物
DJI Air 3Sが欲しくなってきたところで同梱物のチェックです。DJI AIR 3Sは3つのパッケージがあるのですが、今回のうれしい特徴は2種類あるComboセットいずれにも「NDフィルター(減光して映像を滑らかに撮るためのカメラレンズ用フィルター)」が付属となったところです。
これまでの各機種Comboセットは、NDフィルターは別売りとなっていました。しかし、空撮を本格的に取り組もうとするとNDフィルターは必須のアイテムです。なのに、付属していない、そして、購入しようとしたら人気で品切れになっている…これが今までのパターンです。このNDフィルターが付属したComboセットは個人的にもとてもうれしいセットです。
DJI Air 3Sの各部チェック
では、機体各部をチェックしてみましょう。何より特徴的なのは大ぶりになったカメラと前方LiDARでしょう。
全体的な流線型フォルム、軽量ボディ、洗練されたプロペラなどは旧DJI Air 3を踏襲したデザインとなっています。
DJI Air 3Sの驚くべき高画質映像
ちょうど十勝岳に紅葉の撮影に行く予定があったので、DJI AIR 3Sでも撮影をしてみました。映像をご覧になっていかがでしょうか? 葉の一枚一枚、奥の山の切り立った火口付近、解像度、色、そして何より深みある"解像感"がたまりません。
撮影中、バッテリー1本あたりの飛行時間も余裕がありとても楽しく空撮を楽しめました。見てのとおりの絶景地だったので、あちらこちら、上から下から撮りたいところがたくさんあったのですが、バッテリー不足で撮れなかった…ということは一度もありませんでした。
バッテリー充電ハブもUSB-C対応しており、移動中の車で手軽に充電できたほか、集電機能で中途半端に残ったバッテリー残を1本に集めることもできたので残りバッテリー本数を気にすることなくあちこちの撮影ポイントを回ることができました。
そして、当日は仕事の中で動いていたので荷物が多かったのですが、小型軽量+バッテリーも最低限本数というDJI AIR 3SのComboセットはとても取り回しが便利でした。DJI Mavic 3 Proも持っていっていたのですが、以前は軽量コンパクトと思っていたDJI Mavic 3 Proが重く感じるほどです。
もはやマイナーチェンジを超えた進化でフラッグシップ機に迫る
モデル名 | DJI Air 3S | DJI Air 3 | DJI Mavic 3 Pro |
---|---|---|---|
重さ | 724g | 720g | DJI Mavic 3 Pro: 958g DJI Mavic 3 Pro Cine: 963g |
カメラ | 1インチ CMOS 広角カメラ 1/1.3インチ CMOS 中望遠カメラ |
1/1.3インチ CMOS 広角カメラ 1/1.3インチ CMOS 中望遠カメラ |
4/3型 CMOS Hasselbladカメラ 1/1.3インチ CMOS 中望遠カメラ 1/2インチ CMOS 望遠カメラ |
動画 | 広角/中望遠カメラ: 4K/60fps HDR 4K/120fps ※ダイナミックレンジ:14ストップ |
広角/中望遠カメラ: 4K/60fps HDR 4K/100fps ※ダイナミックレンジ:HDR/RAW 12.6ストップ、他 10.9ストップ |
Hasselbladカメラ: 5.1K/50fps DCI 4K/120fps 中望遠カメラ/望遠カメラ: 4K/60fps ※ダイナミックレンジ:12.8ストップ |
最大飛行時間 | 45分 | 46分 | 43分 |
飛行性能 | 最大水平速度 21m/s 最大上昇速度 10m/s 最大下降速度 10m/s 運用限界高度(海抜) 6000m |
最大水平速度 21m/s 最大上昇速度 10m/s 最大下降速度 10m/s 運用限界高度(海抜) 6000m |
最大水平速度 21m/s 最大上昇速度 8m/s 最大下降速度 6m/s 運用限界高度(海抜) 6000m |
映像伝送 | DJI O4:最大20km(日本:10km) 1080p/60fpsライブ映像 |
DJI O4:最大20km(日本:10km) 1080p/60fpsライブ映像 |
DJI O3+:最大15km(日本:8km) 1080p/60fpsライブ映像 |
障害物検知 | 1ルクス超で検知するLiDARセンサー+360°検知 | 15ルクス超で検知する360°検知 | 15ルクス超で検知する360°検知 |
画質や取り回しなどを考えると、バラエティ番組撮影やYouTube用動画撮影などのさまざまな仕事用途や趣味の空撮まで幅広く、かつ高レベルで対応できる優良機体であることは疑いの余地がありません。もはやマイナーチェンジではなく、新しいAIRシリーズが出たかのようです。スペック表を見てのとおり、フラッグシップ機であるDJI Mavic 3 Proをも凌駕するポイントがいくつもあります。
反面、AIRシリーズの弱点(?)でもあるカメラの絞り機能がないところが気になる方は、購入に躊躇するかもしれません。しかしなら、それを補って余りある高画質撮影機能は、よりあなたを迷わすことでしょう。ぜひ、この楽しい"迷いの時間"をご堪能ください。