トクヤマ、屋内専用ドローン「IBIS」導入。セメント製造設備内の点検業務スマート化へ

導入背景

トクヤマでは、数年前から設備管理業務のスマート化への取り組みの一環として、屋外にある設備の外面の点検を設備保全課の課員が自らドローンを操縦して点検を行っている。同時に設備内部の点検もドローンを活用したいと考えていたが、一般的なドローンが飛行するには機体の大きさや性能上の問題があり、墜落する危険性が高く実施には至らなかったという。

セメント製造で使用する装置「ロータリーキルン（回転窯）」は、3系列で24時間連続稼働しており、設備点検を定期的に行っている。セメント製造ではまず、原料となる石灰石を粉砕し、粉砕した原料を約1450℃に熱したロータリーキルンの中で焼成しクリンカーと呼ばれるものに加工する。このクリンカーを再び粉砕し、石膏を加えることでセメントが出来上がる。

クリンカーを投入する前にニューサスペンションプレヒーター（予熱装置）で予熱を行うが、この装置は複数のサイクロン（固気分離装置）で構成されている。サイクロン内部はガスとセメント原料が混ざった気体が移動するため、内筒と呼ばれる筒が徐々に摩耗していく。

サイクロン内部はすり鉢状になっているため、工期と費用が多く掛かる特殊な足場を設置する必要があり、課題になっていた。また、サイクロン内部はとても狭いうえに、粉塵が舞っているため、人が点検作業をするには厳しく危険性が高い環境だという。このような中で、足場の設置が不要でコスト削減につながることや、人では危険な環境下でも点検を問題なく行える点が評価され、IBISによる点検サービスの導入に至った。

導入後の成果

実際の現場で2回テスト飛行を実施し、IBISが狭小空間や粉塵が舞っている環境下でも問題なく飛行できることを確認後、2022年度からサイクロン内部の点検を中心に、LiberawareがIBISを操縦し点検を行っている。

費用削減・工期縮小を実現

従来の点検方法では、サイクロンは1基のニューサスペンションプレヒーターに約10基近くあり、それがさらに3系列あるため、足場の設置には多額の費用と時間がかかっていた。しかし、IBISを使った点検では、この足場の設置が不要のため、大幅な費用削減と工期の短縮を実現した。

動画や三次元・オルソ画像等の高精度な点検データを取得

点検後はIBISが撮影した動画データを提供する他、画像処理を行い、三次元モデル、オルソ画像、点群化データへの加工も行っている。これにより、これまでの目視点検ではできなかった精度でデータを可視化し、設備の状況を正確に従業員全員で把握することが可能になった。

より計画的な保全が可能に

トクヤマではこれまで、目視点検の知見、過去の経験値に重きを置いてサイクロンの保全周期を決めるTBM（時間基準保全）で保全を行っていた。しかし、IBISの点検により、高精度の点検データの取得・蓄積が可能となったため、設備の劣化や正確な部品の寿命など、設備の状態を正確に把握することができる環境が整った。今後は点検データを蓄積しながら、設備の管理をTBMからCBM（状態基準保全）に移行し、より計画的な保全が可能だとしている。

株式会社トクヤマ セメント製造部 設備保全課 松田弦也氏コメント

産業用小型ドローン「IBIS」について

Liberawareが開発した国産ドローン。機体は直径20cm、重量185gと小型であるため、一般的なドローンでは困難な屋内・狭小空間でも飛行できることができる。