NEDOの「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」の一環として実施された。
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本実証では、ドローンが自律飛行して通信鉄塔を撮影し、映像データからAIエッジモジュールがリアルタイムにさびの検知を行えることと、4G LTEや5G通信を用いて外部記憶装置やPCを経由することなくワンストップでクラウドへ検知データを自動アップロードできることを確認した。
背景
ドローンは、バッテリー駆動のエッジ機器であり、電力量や計算リソースに制限があるため、高い精度を得るための大規模な人工知能(AI)モデルの実装が困難だったという。AIモデル搭載のドローンを使用した屋外でのさび点検では、AIモデルを学習したデータの取得環境と実際に点検を行う現場環境とでの環境変動が大きいと、精度劣化が発生しやすくなる点が課題となっていた。また、ドローンでの点検撮影では、撮影データが高画質で枚数も多くデータ量が膨大となってしまうため、通信帯域が限られるモバイルデータ通信でのデータ連携にも課題があった。
このような課題を解決するため、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」に取り組んでいる。その一環として、2018年からKDDIとアラヤは共同で、「AIエッジ統合制御システム(映像伝送+AI)」の開発に取り組んできた。(図1)
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実証実験概要
KDDIとアラヤは、端末(エッジ)で動作する軽量なAIエッジモジュールを搭載したドローンで、KDDIの通信鉄塔のさびを点検する実証を行い、AIによるさび検知と、4G LTE・5G通信を用いたエッジ・クラウド間での映像伝送をリアルタイムで行うことに成功した。(図2)
本実証の成果
軽量なAIモデルを開発し、AIエッジモジュールに実装
今回、ドローンの撮影データから、さびの有無を画素単位で検知するAIモデルを軽量化するため、高精度な低ビット量子化技術を開発。また、環境変動による精度劣化の影響を軽減するため、既知の環境で学習したモデルを少量の新規データ(従来データ量の10分の1未満)を使って環境適応させることが可能なFewShotドメイン適応技術も開発した。
次に、カメラ撮影動画をリアルタイムにAI処理可能な推論パイプラインを構築し、今回開発したAIモデルをAIチップとFPGAタイプの二種類のAIエッジモジュールに組み込んだ。
低ビット量子化技術とFewShotドメイン適応技術を用いてAIモデルを最適化した結果、4ビット量子化によりAIモデルのパラメータサイズを86%軽量化することに成功。また、精度劣化も、目標である従来モデル比10%未満の3.6%に抑えることに成功し、実用的な精度でさびを検知できることを確認した。
AIエッジモジュール搭載ドローンのフライト実証に成功
2022年12月19日から12月21日までの間、千葉県館山市のKDDI所有の通信鉄塔にてAIエッジモジュールを搭載したドローンのフライト実証を行い、リアルタイムに鉄塔のさびが検知できることを確認した。
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エッジ側のAI処理モジュールとしてFPGAタイプを用いた場合は15fpsでのAI画像処理を行うことが可能で、飛行中であっても十分になめらかな映像をリアルタイムに処理することができる。またAIチップタイプを用いた場合には、最大60fps程度でリアルタイム処理ができることを確認。AIエッジモジュールを用いることで、エッジ段階で大量の撮影データの中からさびが検知されたデータのみを抽出することができ、通信量を大幅に抑えることが可能となる見込みだとしている。
5G通信によるエッジ・クラウド間の接続実証に成功
5G通信を上空で利用するための本格的な制度運用開始に向けて、今回のフライト実証では、ドローンに搭載したAIエッジモジュールから4G LTE通信モジュールを用いて、撮影したさびの映像をクラウドへリアルタイムに伝送する検証を行い成功した。また地上にて5G通信での映像伝送が行えることについても確認できたという。
従来、点検分野での撮影データは容量が膨大であることから、外部記憶装置やPCを経由してクラウドへ手動アップロードしていたが、今回開発したシステムを用いることで、4G LTE・5G通信を介しワンストップでエッジ・クラウド間のリアルタイム映像伝送を行うことが可能であることを実証した。
今後の展開
今回開発した技術は、さび検知以外にさまざまなAIモデルに応用可能だとしている。具体的には、構造物のひび割れやボルトの緩みなど経年劣化によるさまざまな異常を発見する点検領域や、ドローンがリアルタイムに障害物を検知・回避しながら自律飛行する空撮や警備の分野などが挙げられる。これらの実現に向けて、両社は5G時代のドローン自律飛行におけるAIエッジコンピューティング技術の確立とエッジ・クラウド間でのデータ連携の社会実装を目指す。
またKDDIでは、今回の成果を用いて、2023年度中のサービスリリースを目標に、ドローンで撮影したインフラ設備の画像をクラウドへ集約させ、さまざまな異常をAIで検知・点検可能なシステムの開発を行っているという。