2019年、アメリカが主導する「アルテミス計画」がスタートした。この国際協力プロジェクトには40カ国以上が参加し、有人月面探査や宇宙開発の新時代を目指している。この計画と連動し、日本でも「スターダストプログラム」が進められ、このプロジェクトのもとに各省庁事業が行われている。
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その一つである「宇宙建設革新プロジェクト」(国交省主担当、文科省連携)の目的は、月に長期滞在可能な基地を建設するための、無人建設技術を研究開発することである。そのプロジェクトの中で、コマツは月面建機の研究開発を担っている。
コマツは現在、2030年代前半を目標に、月面建機の開発に向けた研究と実験を重ねている。
月面環境に適応する建機設計
月面は、重力は地球の約6分の1、気温差は-170℃から110℃と地球とはまったく異なる環境だ。さらにはクレーターや急斜面、細かな砂「レゴリス」で覆われた地形が待ち受けている。この過酷な環境に対応するため、コマツは「デジタルツイン技術」を活用し、仮想空間でのシミュレーションを重ねている。
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デジタルツイン技術により、月面環境を精密に再現し、掘削や建設シナリオを検証。これにより技術的課題が浮き彫りになり、改良への道筋が明確化されたという。
課題
低重力への挑戦
地上では建機の重量を利用して地面を掘るが、月面では重力が地球の約6分の1しかない。そのため、建機自体の重量も同様に軽くなり、地面に十分な力を加えることが難しく、安定した作業ができなくなる。
掘削性能を向上させるための一つの案として、車体と地面の接地長さを延長する方法がある。
シミュレーションで確認した結果、接地の長さを伸ばすことで、重量を増やさずに掘削力を大幅に高められ、月面でも地上と同等の性能を確保できる見通しが立った。
過酷な環境への対応
空気のない月面では、エンジンで建機を動かすことは難しく、太陽光で発電した「電力」での稼働が想定される。
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一方、月面は-170℃から110℃という極限の温度変化にさらされる環境である。コマツはこれまでに培った熱制御を含めたさまざまな電動化技術を活用し、この環境に耐える電動建機の開発を進めている。
クレーターと斜面の攻略
建機の走行が可能になったとして、次の大きな課題は月面特有の厳しい地形である。隕石の衝突で形成されたクレーターや「レゴリス」と呼ばれる細かな砂で覆われた丘が存在し、20〜30°の急斜面などが建機の安定した動作を妨げる要因となる。これに対応するため、マルチクローラーを例とする新しい足回り構造の検討を進めている。