エバーブルーテクノロジーズCEO 野間恒毅氏
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ドローン・ロボティクス業界にいち早く参入して活躍するプレイヤーの方々のキャリアに焦点を当て、その人となりや価値観などを紹介する連載コラム[空150mまでのキャリア~ロボティクスの先人達に訊く]第11回は、再生可能エネルギーを使った自動帆船ドローンを開発する、エバーブルーテクノロジーズCEOの野間恒毅氏にインタビューした。
同社が見据えるのは、日本が脱炭素社会を実現するため、風力、波力、潮力などの再生可能な海洋エネルギーが必須となる未来。5年、10年、さらに先かもしれない。それでも、「海から陸へ、エネルギーを運ぶ船も、クリーンに」を掲げて、風を動力源として自律航行できる産業用の帆船ドローンの開発と実用化を着実に進めている。
地球温暖化は"この10年がタイムリミット"ともいわれている。いま同社には、SDGs世代である10代、20代からのプロボノ参加志願も増えてきたという。また、社員を雇わずプロジェクトベースで契約を結び、最終ゴールが程遠いにも関わらず、チームが自律的に機能するという働き方もユニークだ。本コラムでは、エバーブルーテクノロジーズの事業の背景や目的、ビジネス戦略とともに、新しい働き方にも焦点を当てた。
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小中高のメーカー魂が、20数年経て生きる
「小中高でやってきたことが、全部いまに生きている。」野間氏は、ラジコン、電子工作、プログラミングに没頭した学生時代を振り返り、こう語る。
野間氏:中高は物理研究部で、ハンダ付けをやったり、電気的な基礎知識を勉強しながら、電池でモーターを動かして歩くロボットを作ったりしていましたね。中2でパソコンに出会ってからは、プログラミングにもはまりました。
今と違ってネットやSNSから情報が降ってくることもないし、教えてくれる人もいないから、雑誌を買って隅から隅まで全ページ読んで、プログラムを書いて、動かして、動かなくて、デバッグして何とか動かす、ということを大学までずっと繰り返していました。
ゼロベースで設計し、部品を集めるところから、自前でロボットを作り上げる。独学での探究と試行錯誤を繰り返す当時の体験が、20数年を経て、風で動く自動帆船ドローンや空も飛べる船などの独自の機体開発に生かされている。キャリアとは「轍」であり、歩んだ道そのものを指す。野間氏のキャリアもまさにその体現だ。
社会人生活の大半はインターネット畑で過ごした。大学時代にインターネットと出会い、ソニーに入社。ネット関連のソフトウェア開発、サービス構築をメインキャリアに、2011年アルファブロガー受賞などインフルエンサーとしても活動してきた。そんな野間氏が、どういう経緯でドローンの世界に踏み入ったのだろうか。
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孫泰蔵さん率いるMistletoeとの出会い
野間氏:5年前、孫正義さんの弟である孫泰蔵さんが創業したMistletoe(ミスルトウ)という会社にジョインしました。会社といってもMistletoeは、若い起業家たちの創業や成長を支援する共同体みたいなコミュニティ型の組織で、事業としては投資、アクセラレーション、ハンズオンとあらゆることを手がけながらも、労使関係ではない雇用形態を模索しており、現在は従業員を雇っていません。私も契約という形で、コンサルティングやいろんな企画のブレストなどを手伝っていました。
当時のMistletoeでの担当分野が、モビリティ、教育、サステナビリティの3つ。EVのパーソナルモビリティ、空飛ぶドローンやエアモビリティなどの事業検討にあたり、詳細にリサーチも進めた。すでに先行プレイヤーがいる、かつ日本は法規制が厳しい。モビリティ領域へのハードルを感じるなか、サステナビリティ領域は「誰も興味を持っていなくて、誰もリードをとっていなくて、何も進んでいない」ことが印象的だったという。
転機になったのは2017年、「泰蔵さんと一緒に、日産さんのあるイベントに行ったこと」だった。EV車日産リーフを電源にして、慶應義塾大学環境情報学部教授である脇田玲さんのインスタレーションが展示されていた。しかし、「これからはEVの時代」という当時の風潮に、野間氏は違和感を感じたという。
話は逸れるが2020年12月17日、トヨタの豊田章男社長がオンライン記者会見を開いたことは記憶に新しい。2030年ガソリン車ゼロやEV化の報道が加熱する現状に対し、「カーボンニュートラル2050を実現するためには、国家のエネルギー政策の大転換なしには難しい」と苦言を呈した。
また会見では、「例えば乗用車400万台をEV化すると、真夏の電力使用ピーク時には電力が不足し、発電能力を10~15%伸ばす必要がある。これは原発なら10基、火力なら20基に相当する」との試算も公表した。
野間氏:豊田社長が指摘されている通りで、日本ではEV車に必要な発電量をどこで手当てするのかという議論が、当時もほとんどされていませんでした。オール電化で目の前から排気ガスが見えなくなれば、確かにその場ではゼロエミッションかもしれませんが、実際には地球温暖化ガスは出続けているという状態です。
かといって、国土面積の約7割が森林で平地が少ない日本では、太陽光発電で全てを賄うのは難しいでしょう。日本を取り巻く海の、潮力、波力、風力、地熱などの海洋エネルギーを活用するのが妥当だと考えました。
ターゲットは自動帆船ドローンの産業化
野間氏は、「泰蔵さんとインスタレーションを見ながら、エバーブルーのプロジェクトのアイデアまで、話は一気に進んだ」と振り返る。そこには、17世紀大航海時代の帆船の軌跡が描かれていたのだという。
EW SYNERGETICS- NISSAN LEAF X AKIRA WAKITA
野間氏:産業革命以前、人類は地球上のありとあらゆる場所に、帆船で行き来していました。世界中に人や物資を、風の力だけで運んでいたんです。21世紀の技術力があれば、同じようなことが、しかも無人でできるはずです。
2人の議論はこのとき、新規事業のビジネスモデルにまで発展した。着眼点はこうだ。陸上よりも海上のほうが、ゼロエミッションは遅れている。かつ、リチウムイオン電池を動力源とする限り、船のEV化も自動車と同じく、クリーンな発電源の確保という課題を包含する。
野間氏:せっかく海洋エネルギーを利用して電力を発電しても、それを陸へ運ぶための船からCO2が大量に排出されていては本末転倒です。海洋エネルギーは、やはり再生可能エネルギーを使って運搬しなければなりません。帆船というクリーンな乗り物を復活させ、自律制御などの現代の技術を掛け合わせる、"自動帆船ドローン"の産業化は、世界を大きく変えるイノベーションになると考えています。
それから約1年間のリサーチやフィジビリを経て、小型帆船なら法規制上も動力船とは異なる扱いになり参入障壁が高くないことが分かった。しかし、「このビジネスモデルの実現には、5年、10年はかかる」と判断。最初は漁業や海洋調査、次に人の輸送、最終的には海洋エネルギーを運搬するサプライチェーンの構築、と段階的なロードマップを描き、2018年にMistletoeから出資を受けてエバーブルーテクノロジーズを創業した。
プロ集団のユニークな組織体制
野間氏はエバーブルーテクノロジーズのCEOだが、役員報酬はゼロ、開発者のひとりとして参加している。メンバーも同様だ。ヨットデザイナー、ドローンのスペシャリスト、3Dモデリングのプロなど、専門性を持つ"フェロー"たちと個別契約を結んでチームを作っているのだ。さらに本業とは別にプライベートのサイドワークとして活動する、プロボノメンバーも集まっている。
個人的には、ArduPilot世界屈指のコア開発者で日本でドローンエンジニア養成塾の塾長も務めるランディ・マッケィ氏がいつの間にかメンバーに加わっていたことは嬉しい驚きだったのだが、「部活に近い感じ」だという野間氏に、モチベーション維持やプロジェクト管理が難しくないのか尋ねてみた。
野間氏:地図屋さんでいうと、地図がない状態で、いま地図を作っているみたいな。その地図は世界の何パーセントできたんだ、進捗管理しろ、と言われても、全貌が見えないから答えようがないじゃないですか。大切なのは、海洋エネルギーをクリーンに運ぶという大目標からブレないことです。
例えば船の船体を作るとか、ドローンのコンポーネントを使ってソフトウェアをどう作り込むかなど、やるべきことは多岐に渡りますが、最終ゴールから逆算して、いま取り組んでいることがその中のどの要素なのか、ロードマップの中で現在はどこにいるのか、それは常に共有しているのでお互いに助け合って進んで行けるのだと思います。もともとの"やりたい"気持ちを失わせないことも大事ですね。
ユニークな組織体制は、出資元であるMistletoeの「労働者を搾取しない」という思想から影響を受けたというが、野間氏が会社員時代に体感した「管理すればするほど、イノベーションが失われる」というヒエラルキーの弊害にNOを突きつけた結果でもある。
エバーブルーは、同志が集い「未来へ漕ぎ出す船」
0から1を創るイノベーション人材と、1から10、10から100へと事業を成長させる人材の要件は違う。イノベーションと、それをよりよくするアップデートも異なる。社会を前向きに変えていくにはいずれも必要なのだろう、と野間氏の話を聞きながら思った。しかし野間氏は、こう指摘する。
野間氏:アップデートとは、いわゆる課題解決の手法としては正しいのですが、結果として「解決できる課題ばかりを探す」ことにもつながります。そうすると、解決できない問題は見ないフリ、解決できないから最初からなかったことにする。それだと世界は全然良くなりません。おじさんたちが尻込みするような課題に、真っ向から取り組もうとしているのが10代や20代のいわゆるSDGs世代です。
エバーブルーが挑むゼロエミッションはその代表格だが、5年、10年では終わらないエバーブルーという"船"の航海に、いま10代や20代からのプロボノ参加志願が乗組員としてデビューしているそうだ。
空飛ぶ帆船型ドローン「Type-P」
漁業や海底地形図作成などの別産業で技術を磨き、事業資金獲得を図るというシードステージにありつつ、野間氏が"船長"として次世代の教育にも気を配る姿は印象的だった。
野間氏:人生100年時代、これまでのように学生は勉強、社会人は仕事、老後は悠々自適といった3ステージの人生は立ち行かなくなると思います。世界を変えていくんだ、自分たちの力でイノベーションを起こすんだ、っていう実感を学生のうちに持って欲しいなと思っています。
どうせこんな日本の片隅でごちゃごちゃやっても、世界は何も変わらないよって言っているのではなく、「これをやっていたら本当に世界が変わりそうな気がするね」みたいな実感が湧くと自信にもなっていくし、たとえ失敗したとしても次はこうしようと転換していくと思います。エバーブルーでの体験が、彼らのその後の人生における信念や1つのよりどころになると嬉しいですね。