ドローン・ロボティクス業界にいち早く参入して活躍するプレイヤーの方々のキャリアに焦点を当て、その人となりや価値観などを紹介する連載コラム[空150mまでのキャリア~ロボティクスの先人達に訊く]第16回は、JP楽天ロジスティクスの土方愛玲奈氏を訪ねた。
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土方氏の職種は、「ドローン配送オペレーター」。2018年に楽天入社後は一貫して、ドローン配送の現場実動部隊である運用チームで活動してきた。現在は、運用チームのリーダーを担う、ドローン配送オペレーターのトップランナーである。
新規配送先の調査やルート開拓、配送オペレーション構築と実施、使用機体のメンテナンスから、地域密着オペレーターの育成など、幅広く奮闘中の土方氏に、ドローン配送サービス立ち上げへの想いや、日々の行動指針などについて聞いた。
とことん向き合い、キャリアの軸が明確に
土方氏がドローンを手にしたのは2015年。たまたま前職で、ドローンの新規事業が立ち上がり、ドローンを手渡されたのがきっかけだったという。仕事で地方に行くと、おじいちゃんおばあちゃんが空撮映像を見て、大喜びしてくれた。
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土方氏:自分がドローンを飛ばすことで喜びを与えられたことが、すごーく嬉しくて、そこからドローンが好きになりました。
20代半ばで前職を辞めフリーの道を選んだのは、「次のキャリアを決める前に、とことんドローンと向き合いたかったから」。独立して約1年間、ドローンオペレーターとして各地で飛行を担当するほか、ドローンレースの司会や、子供向け体験会の企画運営など、ドローンにまつわる多様な仕事を経験したという。
土方氏:ドローンの世界に1人でどっぷり浸かってみると、もともと人の役に立つ仕事がしたいという夢があったなと、"ドローン×社会課題の解決"というキャリアの軸が明確になったのです。同時に、このまま1人でフライトオペレーションをこなしているよりも、チームでより多くの人の助けになりたいと考えるようになりました。
この気づきがあったからこそ、楽天との"ご縁"に迷わず乗れた。以来、2つのことを大事にしながら、ドローン配送という新たなサービスの立ち上げに挑んでいるという。1つは「誰かが本当に助かる、喜ぶサービスにする」。もう1つは「地域に根ざしたサービスにする」だ。
ようやく、スタートラインに立てた
その手応えを感じたのは、入社してから3年目以降、2000年~2021年に経験した、2つの現場。三重県志摩市の間崎島での離島ドローン配送と、長野県白馬村での白馬岳頂上の山小屋へ向けたドローン配送だ。
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三重県志摩市の間崎島は、英虞湾に浮かぶ人口66名の島(令和4年1月31日現在)。高齢化率も高い。島民説明会では、「島民の方々がスマホを持っていない」ことが発覚。アプリ注文前提のサービスは、急きょ見直しが迫られた。間崎島の直前に担当したのが神奈川県横須賀市猿島でのバーベキュー場へのドローン配送だったこともあり、「それまでとの違いに衝撃を受けた」と明かす。
まずはドローン配送を使ってもらうことが肝要だ。ドローン配送業務の傍ら、紙のカタログを作成。注文用紙による半自動注文受付の仕組みを整えた。電話注文も受けられるよう、チームで電話応対の練習も行った。本当にドローン配送を使ってもらえるのか、本当に喜んでもらえるのか、不安を抱えながらの準備だったという。
土方氏:でも、実際にスタートしてみると、本当に手応えと温かい声援をいただきました。毎朝食べるバナナを毎日注文してくれたり、夕飯用に食材やお惣菜を買い足すのに利用していただいたり、毎日のお散歩コースにドローン配送の見学を入れて「今日は飛ぶ?」と話しかけに来てくださったり。間崎島では、ドローン配送に対する社会需要性の高まりを肌で実感できました。
長野県白馬村では、標高1600mもの高度差があり、山と山の間をぬって飛行する、チャレンジングな配送を行った。機材設置など準備のために7時間かけて白馬岳を登ったときには、「これがドローンなら15分で届けられる。絶対に便利だ。なんとか実現したい」と強く思ったものの、山特有の変わりやすい天気、強風に悩まされ、山小屋付近のLTE電波状況にも苦労して、何度も挫けそうになったという。支えになったのは、地元関係者の方々からの激励や協力だ。
土方氏:「ヘリコプターによる物資輸送の価格が高騰していて、山小屋はものすごく苦戦しているから、諦めないで、また来週も白馬に来てください」って励ましてくださって。何がなんでもやってみよう、と決意し直すことができました。2021年夏には、地元事業者の方と一緒にオペレーションを構築して、成功もすごく喜んでもらえて、ようやく私が目指してきた「地域に根ざしたサービス」のスタートラインに立てたと思えたのです。
つながる、力。
地域に根ざした、本当に喜ばれるドローン配送サービスを実現するために、土方氏が大事にしている行動指針を聞くと、実に細やかだ。いつから、どんなドローン配送に取り組むのか、どういう意志があって頑張りたいのか、地域の関係する人できるだけすべてに丁寧に説明するという。
土方氏:自分たちのやることを理解してもらう。これは、かなり大事にしています。また、実際にオペレーションをお手伝いいただく地元の業者の方には、ビジョンを共有して仲間としてお迎えしていく、その姿勢を示し続けることも大切です。仲間なので、困ったことも共有します。すると、地元のプロの方々の話を聞く機会を得られたりして、それをオペレーションに生かしていくということも、結構していますね。
事業と地域社会をつなぐ"橋渡し"の役割を、土方氏がしっかりと果たしていることが窺える。聞くと、社内外のオペレーターが混在する運用チームでも、自分たちのドローン配送のありたい姿はどのようなものか、価値観やビジョンを共有して、「目指す世界のために、力を貸してほしい」と明確に伝えることで、各オペレーターの知見を吸い上げ、オペレーション構築や次の戦略に生かすという、よいサイクルを確立していた。
土方氏:気軽に意見を言い合えるように、「どんな些細なことでも尊重する」と、いつも伝えています。また、仕事は楽しいことばかりではないけれど、「明日も頑張ろうね」「こういうところが良かったよ」と毎日のように声をかけて、楽しい雰囲気でモチベーション高く業務遂行できるよう意識しています。
また現場だと、課題や改善点が見つかってもすぐに次のフライトの準備になるのですが、それが流れてしまわないよう、気づいたことは常にコミュニケーションツールに投稿してもらうようにしました。そして1案件終わったら、どうやったら実現できるかを、みんなで一緒に考えていくのです。
「数値やロジックなどの合理的なアプローチだけでは、人は快く動いてはくれない」と土方氏。ドローンに限らず、ロボティクス関連の業界は、男性や理系の活躍が目立つが、新たなテクノロジーをビジネスや人々の生活に溶け込ませるには、「思いやりを持って、相手の立場に立って物事を考える力」が必要不可欠。土方氏はドローン配送の現場で、これを体現してきたのだ。これはすごいポータブルスキル(業界や職種をまたいで、持ち運びできるスキル)だと感じた。
「好き」で「楽しい」を原点に
2022年内のレベル4解禁に向けて、実証実験も含めてドローン配送実施エリアがさらに増えていくいま、土方氏がドローン配送オペレーターとして最重要視していることは何だろうか。
土方氏:ベテランの知見を手順書やマニュアルに落とし込んで、オペレーターの育成とスキルの均質化を図っていくことが重要です。しかし一方で、将来的な無人化、自動化をも見据えて、配送オペレーションを一般化、簡易化していく必要もあるため、そのバランスは非常に難しいとも感じています。
このようななか、ご覧のとおり女性のなかでも小柄な土方氏は、彼女ならではの視点も活かして、オペレーションの構築に挑んでいるという。
土方氏:ドローンの運用業務は非常に出張が多くて、外作業がメインで重たい機材を扱うため、ドローンオペレーターって、圧倒的に男性のほうが多いのです。しかし、男性だけで組み上げられたオペレーションは、女性には難しいこともあるんですよね。
細かいことですが、男性なら1往復3分で運べるものも、私には2往復6分必要だったり。自分自身の体験から改善点を見出して、誰でもできる汎用的なオペレーション構築につなげられたらいいなと思っています。
こうした発信が、現場でのオペレーションはもちろん、戦略立案においてもしっかりと生かされるのは、土方氏が自身の目指すゴールや世界観を、リーダーとして明言しているからではないだろうか。
4つの目標があるという。1つめは、安全にドローンが行き交う世界を実現させて、多くの買い物困難な人々の助けになること。いずれドローン配送が地域の利便性向上につながり、若者の移住や地方活性化にまでつなげられたら"本望"だという。
2つめは、ドローンオペレーターを、憧れのかっこいい職業にすること。子供達や学生にドローンを教えたときの感動がいまも心にある。3つめは、女性のオペレーターたちに向けても、さまざまなライフイベントと両立できる職業として、当事者として道を切り開いていくことだ。
土方氏:4つめは、これは一番伝えたいことなのですが、ぜひドローンを好きになって楽しんでくれる人と、仲間になって仕事を続けていきたいです。ドローンは、扱いを間違えると危険ですが、正しく使ってあげれば、人間の発想として何を載せるか次第で、私たちの目や手の代わりとなって大活躍してくれる、頼れる相棒になります。「好き」で「楽しい」という気持ちをベースに、日進月歩の変化も楽しみながら、今後もチームビルディングを追求していきたいです。