DRONE

Vol.57 「ホタル型ドローン」の可能性[小林啓倫のドローン最前線]

Vol.57 「ホタル型ドローン」の可能性[小林啓倫のドローン最前線]

生物に学ぶドローン開発

バイオミメティクス(Biomimetics)という言葉がある。簡単に言えば、何らかの技術を開発する際に、生物の体の構造や機能を参考にするという考え方だ。空を飛ぶ機械なら鳥を、水中を進む機械なら魚を参考にして設計するといった具合である。

とはいえ現実の生物を機械ですっかり模倣する、つまり「ロボット鳥」のようなものを作るのがバイオミメティクスの目的ではない。あくまで機械を開発している本来の目的(より速く水中を移動できるロボットを実現するなど)を達成するために、生物がすでに具現化している「答え」を見せてもらうというのがその発想だ。

たとえば2000年のシドニー五輪では、「ファーストスキン(Fastskin)」なる新素材を利用した水着が流行した。日本大学の北岡哲子博士の解説によれば、この素材はサメの皮膚構造をヒントに作られていて、水中を進む際に発生する乱流を抑えることができる(つまり選手はより速く泳げる)という。実際にシドニー五輪の水泳メダル獲得者のうち、男子で67パーセント、女子で66パーセントがこの素材を使った水着を着用していたそうだ。

こうしたバイオミメティクスは、もちろんドローン開発にも導入されている。たとえばスタンフォード大学の研究者であるMark Cutkoskyは、2021年12月に、鳥のような脚と爪を持つドローンを開発している。

ごく一般的なクアッドコプターに、機械で出来た脚が生えているような奇妙な姿をしているが、これにはもちろん理由がある。上に掲載した動画で示されているように、このドローンは木の枝のような場所に、ごく簡単かつ瞬時に止まることができる。それにより、着地する際のホバリングに必要な滞空時間が短縮され、消費エネルギーを抑えることが可能になるのだ。

この脚にあたる機構には「SNAG(stereotyped nature-inspired aerial grasper、ありふれた自然に着想を得た空中つかみ装置)」という名前が付けられているのだが、それを開発する際には、研究者らがハヤブサが木の枝に止まる瞬間をハイスピードカメラで撮影し、その際の脚と爪の動きを参考にしたそうである。

さて、ドローンという飛行機械が参考にできる「ありふれた自然」は、もちろん鳥のほかにも存在している。そのひとつが、昆虫の世界だ。

ホタル型ドローンの利点

MITの研究者であるKevin Chenらが発表したのは、ホタルにヒントを得た超小型のドローンである。人工筋肉を使って極小の羽をはばたかせることで飛行し、さらに人工筋肉に埋め込まれた発光する粒子によって、まさしくホタルのように光を放つことができる。

ドローンの小型化はこれまでも取り組まれてきたが、なぜホタルを参考にしたのか?その答えは、ホタルのコミュニケーション方法にある。

ホタルが光るのにはいくつかの理由が指摘されているが、その中のひとつが、繁殖期におけるコミュニケーションを成立させるためというものだ。変態する昆虫では珍しくない話だが、ホタルも成虫になるまでには長い時間がかかるものの、成虫になってからは1~2週間程度しか生きられない。この間、成虫は交尾して卵を産み、子孫を残すことに専念するのだが、広い世界でむやみに飛び回っては貴重な時間を浪費してしまう。

そこで光によるコミュニケーションを行うことで、自らの存在をアピールしたり、パートナーの存在を感知したりしているのである。MITの研究者がこの極小のドローンに発光能力を与えたのも、ドローン間でのコミュニケーションや、大量のドローンの位置把握を効率的に行うためだ。複数のドローンの間、またドローンとその管理システムの間でコミュニケーションを行う場合、通常であれば無線通信の機能を与えてしまうのが手っ取り早い。しかしそのためには、当然ながら通信用の機器を追加で搭載する必要がある。しかし今回のような極小ドローンの場合、わずかな重量の増加が稼働可能時間や航続距離に大きく影響する。

そこで考え出されたのが、光を使った方式というわけだ。ちなみに人工筋肉に発光する能力を与えるという今回の仕組みでは、重量の増加をわずか2.4%に留めることができ、飛行性能への影響は出なかったそうである。開発はまだ初期段階にあるが、研究者らは実験を行い、このホタル型ドローンが発する光と3台のスマートフォンのカメラを使って、複数のドローンの位置を正確に追跡することに成功したそうである。将来的にはこの発光能力を活用し、リアルタイムでドローンの追跡およびコミュニケーションを可能にすることが計画されている。その有効性が実証されれば、極小ドローンだけでなく、より幅広いドローンで光によるコミュニケーションが採用されるようになるかもしれない。

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