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Vol.46 NASAの「火星ドローン」ついに離陸[小林啓倫のドローン最前線]

Vol.46 NASAの「火星ドローン」ついに離陸[小林啓倫のドローン最前線]

史上初、地球以外の惑星の空を飛んだドローン

3年前の2018年2月、この連載の中で、米NASAが惑星探査におけるドローン活用を模索しているという話題に触れた。探査機にドローンを搭載して惑星に着地させ、そこで飛行させることで、探査をより効率的に行おうというわけだ。

そして2021年4月19日。NASAは人類史上初となる、地球以外の惑星でのドローン飛行に成功した。探査機パーサヴィアランス(Perseverance、忍耐力)に格納されて火星に到着した、インジェニュイティ(Ingenuity、創造力)がそのドローンである。以下はNASAが公開した、インジェニュイティの初飛行の様子だ。

パーサヴィアランスは今年2月、火星の赤道付近にあるクレーター「ジェゼロ」に到着した。同機を使ってさまざまなミッションが実施される予定で、たとえば火星における微生物(が存在した痕跡)の探索、火星の大気からの酸素生成、さらには火星からのサンプルリターン(天体から採取した物質を地球に持ち帰ること)などが計画されている。

そうしたミッションのひとつが、火星におけるドローンの飛行だ。インジェニュイティは大きさおよそ50センチメートル(ブレード除く)、ブレード長1.2メートル、重量1.8キログラムという小型の機体で、太陽電池が搭載されており、これを使って動力を得る。

また白黒とカラーの2台のカメラが搭載されており、撮影したデータをパーサヴィアランスに送信することもできる。まずは火星の環境下でも十分に飛行できることを確認した上で、周囲の地形を確認し、パーサヴィアランスの走行ルートを決定することに役立てるとされている。

4月26日の時点で、すでにインジェニュイティは3回の飛行を行っている。先ほどの初回飛行、および2回目で行われたのは垂直移動とホバリングのみだったが、3回目では高度5メートルに上昇した上で、水平方向に50メートル(往復で100メートル分)移動することに成功している。以下はその3回目の映像だ。

火星の赤茶けた大地をバックに、スムーズに水平移動していることがわかる。NASAの関係者もこの成功を絶賛しており、惑星探査におけるドローン活用の可能性を大きく広げたと言えるだろう。ただ「この程度」の飛行であれば、すでに地球上のドローンが当たり前のように行っている。なぜ今回の成功が重要なのだろうか?

火星でのドローン飛行の難しさ

当然ながら、地球と火星ではその環境が大きく異なる。その中にはドローンの飛行にとってプラスになるものもあれば、マイナスになるものもあるわけだが、地球の空を飛行するために開発されたドローンにとっては、マイナス面の方が圧倒的に多い。

火星の重力は地球のおよそ3分の1というという弱さで、重いものを持ち上げるために必要な力も小さくなる。しかし重力が弱い分、大気の密度も低く、気圧は地球上の平均と比べて1パーセント以下しかない。その分、ドローンのブレードを回転させることで発生する揚力も弱くなる。

単純計算すると、これは地球上の地表からおよそ30キロメートルもの高度を飛行させるのに相当するとのことで、それだけでもいかにインジェニュイティが困難な課題に直面しているかが分かるだろう(ちなみにインジェニュイティはこの問題に対し、ブレードを毎分2500回転以上の超高速で回転させるという対策を行っている)。

問題はそれだけではない。大気が薄いため、地表面の寒暖差が激しくなり、日中の150℃から夜間はマイナス90℃にまで達する。当然ながらこの気温差は機械類にダメージを与える可能性があり、また気温の変化によって、気圧にも大きな変化が生じる。そうした過酷な条件の中で安定して飛行できなければ、惑星探査においては使い物にならないわけだ。

さらに地球と火星は途方もない距離で隔てられているため、何かアクシデントがあっても咄嗟に回避行動を指示したり、離着陸の命令をキャンセルしたりすることができない(光の速さで通信しても、指示が火星に届くまでに約3分間もかかってしまう)。

そのため飛行は自律的に行われる必要があり、さらに太陽光発電パネルを使った充電や、夜間の寒さの回避(インジェニュイティの内部にはヒーターが搭載されていて、これをオンにすることで機体の温度を保つことができる)など、機体を飛べる状態に保つことも自ら行わなければならない。それらを可能な仕組みを、小さな機体の中で実現しているわけだ。

NASAは今後、2027年までに土星の衛星タイタンに探査機を送り込むことを計画しており、このプロジェクトでは自動車ほどのサイズがあるドローン「ドラゴンフライ(Dragonfly)」が使用される予定だ。インジェニュイティの火星での運用から得られるデータは、ドラゴンフライの成功に大きく貢献するだろう。

また他の惑星という極端な条件下で飛行可能なドローンは、地球上の極地でも使えることを意味する。エベレスト級の高山を安定して飛行し、遭難者を発見するドローンや、火山噴火を近くから観察可能なドローンなど、今後のドローンの用途を大きく広げることが期待される。

Writer : 小林啓倫

経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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