DRONE

Vol.49 季節の変化を認識するドローン[小林啓倫のドローン最前線]

Vol.49 季節の変化を認識するドローン[小林啓倫のドローン最前線]

研究が進む地形相対航法

私たちが生活する上で、GPSはすっかり欠かせない存在になった。 車で移動する際のカーナビゲーションシステムはもとより、2000年代に入ると携帯電話にもGPSが搭載され、自分の居場所を簡単に知れるようになった。

しかしGPSといえども万能ではなく、GPS衛星の電波が届かず使えなくなるような場所もある。 もしGPSを使ったナビゲーションシステムが無かったら、どうやって居場所を把握しようとするだろうか?

答えのひとつは、「地図を使う」というものだ。 地図が手元にあれば、それと周囲の地形を見比べて、自分のおおよその位置を掴むことができる。 昔ながらのアナログな方法だが、手っ取り早く、GPS衛星という大掛かりな仕組みも必要ない。 これと同じことを機械に行わせる手法として、地形相対航法(Terrain Relative Navigation)という航法技術の研究が進んでいる。

原理的には人間が読む場合と一緒で、地図(地形)情報をあらかじめデータとして機械に与えておき、光学カメラやLIDARのようなセンサーを使って読み取った周囲の地形データと照らし合わせ、位置を算出するという行為が繰り返される。

研究は1960年代から始まっているが、最近の技術の発展によって、より信頼できる航法として確立されつつある。 たとえば月や火星といった地球以外の天体(そこには最初からGPS衛星など存在していない)を探査する際の航法技術として活用されており、NASAの火星探査ミッションである「マーズ2020」でもこの技術によるナビゲーションが行われている。

このミッションでは、探査機「パーサビアランス」を火星の地表に着陸させる際に、地形相対航法に基づく技術が活用された。 これまでの火星探査ミッションで収集された、着陸予定地域の地形データをパーサビアランスに搭載しておき、カメラで撮影したデータと比較して、現在地や障害物を把握したのである。 パーサビアランスはそれに基づき、安全に着陸可能な場所を割り出し、無事に地表へとたどり着いた。 (ちなみにその後、このミッションでは、Vol.46で紹介した「火星の大気圏でドローンを飛ばす」という任務も成功させている。)

このように、既に活用が進んでいる地形相対航法だが、ひとつ課題を抱えている。 それは地形の変化にどう対応するかという点だ。 特に光学カメラを使用して周囲の環境を把握する場合、紅葉や落葉、冠雪といった季節による見た目の変化を考慮に入れなければならない。 月や火星といった天体であればそうした心配は無用だが、地球、特に日本のように四季がはっきりしている地域でこの航法を利用する際には、大きな問題となり得る。

季節の変化を自動で認識

この課題に取り組んでいる研究機関のひとつが、カリフォルニア工科大学だ。 彼らは機械学習を活用し、季節的な地形の変化を自動で補正し、地形相対航法の精度を上げるAIを開発している。

人間の場合、ある山が緑に覆われている写真を見ても、一面の銀世界になっている写真を見ても、それが同じ山を撮影したものだと認識できる。 それは過去の経験を通じて、同じ地形でも新緑によって緑色になったり、紅葉によって赤茶色になったりすることがある、と学習しているからだ。 機械学習も同様で、画像データを与えて学習させることで、季節による変化を認識できるようになる。

特に今回の研究では、「自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)」という、近年注目されている機械学習の手法が活用されている。 これまでAIに与える学習用のデータを準備する際には、人間がそのデータをひとつひとつ確認して、「これは何の画像か」というラベル(注釈)を付けておく必要があった。 当然ながら、この作業は非常に手間がかかり、AIを開発する上で大きな負担となっていた。 しかし自己教師あり学習の場合、特殊な手法を用いて、このラベル自体も機械が生成してくれる。 そのため人間にとって小さい負荷で、大きな効果を得ることができる。

カリフォルニア工科大学の研究者らは、ロッキー山脈とコネチカット州の一部を撮影した画像データを用いて自己教師あり学習を実施。 実際にAIをドローンに搭載し、2年前に撮影された画像に基づいて、コネチカット州北西部の一帯を飛行させるというテストを行った。 テスト飛行が行われた地域は険しい地形で、落葉樹林が途切れることなく広がっていたという。 私たちにはお馴染みだが、落葉樹林は季節によって違う表情を見せるため、特に時間の経過による変化が激しい。 また急峻な地形も、ドローンの高度や角度、動きによって見え方が大きく変わるため、AIにとって大きな問題となる。

実験の結果、ドローンは2年前の画像データと実際の環境の間に生じた差異を排除して、視覚的ナビゲーションを成功させることができた。 この成功を受けて、今後は霧や雨、雪などの天候の変化にも対応できるように技術を拡張する予定だという。

日本は四季の変化だけでなく、こうした天候の変化も激しい地域だ。 地形相対航法の発展は、私たちにとってさらなるドローンの可能性を開くことになるだろう。

Writer : 小林啓倫

経営コンサルタント。SEとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業等を経て、2005年から現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』、訳書に『データ・アナリティクス3.0』など多数。

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