世界のドローンの調査機関の中で、継続的であり、かつ、ワールドワイドでドローン企業に直接的な調査を行っているのは、やはりDRONE INDUSTRY INSIGHTSだろう。
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筆者自身も毎年インプレスから発刊されている「ドローンビジネス調査報告書」で2016年からずっと調査・執筆・市場予測などを行っており、特に日本のドローン企業には直接インタビューをしたり、調査書を送って分析などをしたりしているが、これを世界規模で継続的に行うのは大変なことだし、また、その継続によるドローン業界の変化に対してのインサイトは深いものとなっている。
筆者もそういった意味ではいつもそのレポートを、日本での市場調査の参考にしている。
(有償のレポートも多いので、そのすべてに目を通しているわけではないけれど)
Drone Industry Barometer 2021 Whitepaper
この9月に2021年のドローン産業のバロメーターに関するホワイトペーパーが出た。
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(これは無償でダウンロード可能なホワイトペーパーなので興味のある方にはお勧めする)
このホワイトペーパーは、64カ国から678社のインタビューを基にしており(ちなみに日本の企業はこのインタビューに対してのレスポンスは米国・中国に続く3位となっている)、3つのドローン業界セグメント(ハードウェア、ソフトウェア、サービス)と会社の規模、企業がドローンを採用する主な理由と、2017〜2021年のドローン業界のバロメーターからのドローン企業の期待と現実の比較、COVID-19パンデミックの影響と長期的な影響の予測、ドローン企業が優先するものと、最も重要と考える市場牽引力といった内容で構成されている。
詳しくはそのペーパーを読んでほしいが、以下が簡単な概要となる。
- ドローンの活用の目的は、点検・調査/地図作成・写真/映像撮影の順
- ドローン導入の成果として期待することは、品質の向上、時間の短縮、安全性の向上、コスト削減の順(2020年までは、コスト削減がその上位にあったが、より導入が進んだ成果として、コスト削減以外の要素が高くなってきたのは、興味深く、この辺はROI<導入効果>をよりコストだけではなく、それ以外の要素に分解し、顧客に説明する必要が出てきていることを示すものだ)
- 過去のバロメーターに加え、サービスエリアにおいてが、この1年間でより進捗があったと考えている割合が多く、これから1年以内での進捗を見込むところはソフトウェアのエリアとなっている。
- COVID-19における影響は多少見受けられるが、中長期で見るとより機会が拡がっていると見ている。
この内容そのものは、筆者自身の調査や見解とも一致しており、そのトレンドにおいて、世界は動き始めているということだろう。
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Drone Service Providers Ranking 2021
その今年の9月にDrone Service Providers Ranking 2021も出された。
こちらは有償(1499ユーロ)のものとなっている。
一部、無償で公表されている部分もあり、そちらを見ながら、ドローンのサービスプロバイダーの姿というものを考察していきたい。
まず、サービスプロバイダーの分類を行っている。
リモートセンシングドローンサービスプロバイダーと配達ドローンサービスと大きく2つに分類している。
この辺の分類は筆者が日頃説明している分類と同様だ。
- リモートセンシングドローンサービスプロバイダーは、ドローンを使用して、対象と物理的に接触することなく、その対象または現象に関する情報を取得するサービスを実施している企業を示す。典型的な例は、航空写真、オルソ画像合成、点群処理、ライブビュー、熱画像、またはハイパースペクトル画像などの情報取得となっている。
- 配達ドローンサービスは、ドローンを使用して「もの」を発送する企業となる。現在、商用ドローンでの配達は主に、食品、医療品、小売商品、工業材料の配達がメインとなっている。
現在、実用化しているサービスの大半が、リモートセンシングサービスとなっている。
その対象も多くの分野に拡がっている。
このレポートでは以下の対象について検討がされている。
- 農業(通常の生育管理以外にも、鳥獣被害、漁場管理、森林調査なども含む)
- 建設(建設管理や建設現場進捗など)
- 配送/倉庫(倉庫管理など)
- エネルギー(石油・ガスプラント管理、電力施設管理、ダム管理など)
- 災害調査・遭難救助
- メディア/映像(映画、ドラマ、ドキュメンタリー、バラエティなどの撮影)
- 保険
- 鉱業と採石(鉱山管理、地下資源管理など)
- 公共緊急サービス(警察、消防、公共警備など)
- 行政(環境調査、都市計画、立法およびその他の政府の支援)
- 不動産や工業プラント
- 警備、監視
- 通信
- 交通インフラ(鉄道、道路、橋梁、トンネルなど)
- 廃棄物管理
先日もCOP26が採択されたが各国におけるSDGsの取り組みは、ビジネスとしても大きな拡がりを
見せており、その自然環境を初めとする現状の把握やその対策および進捗確認というポイントにおいて、ドローンによるリモートセンシングサービスはよりそのポジションを高めていっており、今後、そういった視点からのサービスの方向性も注目する必要がある。
一方、配達サービスに関しては、ドローンでの配達が一般的になるために克服すべき技術的、社会的受容および立法上のハードルがそれぞれの国や地域の中で現存しており、なかなか本格的な実用に進めていくことが難しい点があるが、一部においては、既に実運用されているサービスもある。
リモートセンシングドローンサービスプロバイダーのTOP3
この「Drone Service Providers Ranking 2021」ではリモートセンシングサービスに関して17か国から40社のランキングが掲載されているが、無償版で見ることができるのはそのTOP3となっている。
このランキングは、企業規模、開発力、市場認知といった観点から選ばれている。
TOP1はAerodyne Group(インドネシア)、TOP2はTerraDrone Group(日本)、TOP3がCyberhawk(スコットランド)となっている。
そのTOP3に関して、考察を加えてみたい。
■Aerodyne Group
Aerodyne Groupは、2014年に創業されDT 3(Drone Tech、Data Tech、およびDigital Transformation)といったドローンベースのエンタープライズソリューションプロバイダーであり、AIを活用して、大規模なデータ解析、分析、およびプロセス最適化を可能にするパイオニアの企業だ。
全世界35の国で、600人を超えるドローンの専門家を雇用しており、ドローンサービス企業としては他にないほどの規模となっている。飛行回数は45万回を超え、56万を超えるインフラストラクチャ資産を管理し、世界35か国の38万kmもの電力ラインを点検・調査、その他風力発電所は7300か所、太陽光発電所7000か所の点検の実績を有している。
また、M&AやJVも15を超える企業に及んでいる。
Aerodyne Groupは日本にもReginal Officeがあり、エアロダインジャパンとして、知名度が高く、A.L.I. TechnologiesやACSLなどとも連携や資本提携を行っている。
点検、特にインフラ点検における飛行運用管理や点検データの解析に関して、非常に強く、各国で実績を重ねていることで、その知見やノウハウも蓄積してきており、それが企業の強みに結び付いている。
これは当初点検に特化して、そのデータを集め、解析や分析をしていったことが功を奏している。インフラのようなものの点検に関しては、各国共通なものも多く、そのデータを多く集め、AI等を使って解析を実施していくことは、その解析・分析精度も高くなっており、その解析・分析能力に関して、後発の企業や単なるドローンでの点検を行っていた企業が追いつくことは難しくなっている。
また、飛行の運用管理といった点でも、各国の法制度や業界や各現場特有の条件が異なっており、そういったノウハウも積み重なって、より生産性を高める形になっていることも、このAerodyne Groupの強みとなっている。
現在は35か国ということだが、ますますワールドワイドでの展開が見込まれる。
Aerodyne Groupからの学びは、ドローンそのもののハードウェアに関しては柔軟性を高めて特に絞り込まず、点検という市場において、特化型でデータ分析・解析を行い、使いやすい運用管理ソリューションを開発したことにあるという点だ。
■TerraDrone Group
TerraDrone Corporationは2016年に創業された。社長の徳重さんは、その創業前より存じ上げているが、非常にバイタリティが豊富で、また、新しい情報に関して非常に貪欲な人物だ。
TerraDrone Corporationは、創業当初、まずは測量にフォーカスをし、既存にあったドローン測量の会社を買収したところからスタートしている。
(筆者がCEOを務めるドローン・ジャパンの最初の業務は、ドローン測量のセミナーであったけれど、そのセミナーに徳重社長は参加していた)
測量という分野で先駆的に市場を拡げていくなかで、通常の会社では社内リソースの充実に注力し、技術開発や販売促進のための人材採用を強化するが、実際そういった採用も実施したが、彼の戦略は独特であった。
それは企業拡張のスピードを資本参加という形で行うという手法だった。
当時、徳重社長から聞いた話ですごいなあと思ったのは、このレポートの発行元であるDRONIIにカスタマイズのレポートを作成させたということで、
その内容はワールドワイドで、実売上が既に100万ドル(約1億円程度)立っている企業にリストアップし、そのリストを基に、かたっぱしから連絡をし、アポをとり、徳重社長が会いにいくということであった。
その活動により、グローバルでのフットプリントを急速に拡大し、世界の産業用ドローンソリューションのリーディングプロバイダーとなった。
既に、グローバルな支店はアジア太平洋、ヨーロッパ、アフリカ、南アメリカの20か国以上に広がっており、多くのM&Aにより、Terra Droneは、過去数年間で従業員数を急速に増やすこととなった。
そういった意味ではドローンカンパニーというより、投資会社のようではあるけれど、彼の経営者魂は、個々の経営者を尊重し、その人物ときちんと関係を築くことで、その各会社の経営にはあまり口出しをしないというやり口は、明らかに投資会社のものとは異なり、一方で経営責任に関して、共有するというものはTerraDroneのユニークさにもなっている。
これも各国で実用化されたソリューションは似たような環境にある他の国への展開が可能だというある種のドローンソリューションのグローバル性をうまく使っている。
なかなかこの手法そのものを真似することは難しいが、こういった各国で特化して実用化されたソリューションはグローバルに展開可能であるという点は学ぶべきポイントも多いだろう。
■Cyberhawk
Cyberhawkは2008年に設立された。ドローンを使っての検査データとそのソフトウェアソリューションであるiHawkをシームレスに組み合わせた点検画像管理で進んでいる企業だ。スコットランドに本社を置き、ヒューストン、アブダビ、クアラルンプールにオフィスを構え、世界35か国以上で事業を展開しています。
業界のパイオニアとして、特にエネルギーセクター(石油プラント、風力発電、太陽光発電など)の熟練者、世界クラスのパイロット、検査エンジニア、および高度なスキルを持つ社内ソフトウェア開発者の高度なスキルを持つチームで構成され、エネルギーセクターに関する真のエンドツーエンドの画像データ収集、検査、および管理ソリューションを提供している。
このソリューションにより、現況やその予測に基づいて、より良い意思決定を支援しており、すべての資産と施設における組織での可視性を生み出し、ビジネスをより速く、よりスマートに、より安全に行うことを可能にしている。
このCyberhawkに関しては、2017年にある企業の調査依頼に応じて、調査したことがある。その当時、ドローンでの産業の中で早い立ち上がりを示していたのは、エネルギーセクターといわれる、特に石油プラント、その中でも海上の石油プラントの点検においてであり、それは石油メジャーがドローンの活用を模索していたからだ。
数時間の操業停止が数億円という被害が出る中で、そのプラント検査に関して、重要性が非常に高いという背景がある。
Cyberhawk以外にもSky Futuresが同様なソリューションを行っており、この2社の攻防が激しかったころだ。(現在も同様であるかもしれないが、こういったプラント点検の場合、営々と継続するものなので、一度導入し動き出すとそのシフトは難しい。また、プラントには様々な工夫や企業秘密が隠されており、あまりそれを多くの企業に開示をしたがらないという傾向もある。そのため、一つのメジャーを手掛けると他方のメジャーの案件を取りにくくなるといったこともある)
そういった安定的な業務に加えて、ヨーロッパではSDGsの動きに合わせて、海上風力発電の建設ラッシュが起きており、この海上風力発電の点検に関して、今までの海上石油プラントでの知見や経験が生かされる中で、その点検業務が拡大している。
日本においても、点検分野はドローンの活用の中でも一番市場も大きいエリアだ。今まで太陽光パネル点検、屋根点検といった平面での点検分野を中心に実用化が進んできたが、いよいよ今年度から来年度にかけて、橋梁などの構造物、また、より複雑なプラント点検においても、そこでのガイドラインが策定される動きを経て、少しずつ実用化に進み始めている。今後、日本においても、海上風力発電などはより建設も進むことも予想され、そういったエリアにおいても、ドローン点検の可能性はより大きくなっていくこともあり、先行するCyberhawkやSky Futuresの動きには注目する必要がある。
配達ドローンサービスプロバイダーのTOP3
この「Drone Service Providers Ranking 2021」では配達サービスに関して20社のランキングが掲載されているが、無償版で見ることができるのはそのTOP3となっている。
このランキングは、リモートセンシングサービスと同様で、企業規模、開発力、市場認知といった観点から選ばれている。
TOP1はZipline(米国)、TOP2はWing(米国)、TOP3がMatternet(米国)となっているが、ビジネスとして回っているのはZiplineのみだ。
■Zipline
Ziplineはドローンによる配達サービスの中では唯一成功している企業だ。すでに1500万マイル以上飛行し、約160万の医療用品を配達している。
Ziplineはその使命として、「地球上のすべての人間に重要な医薬品への即時アクセスを提供すること」を掲げている。開発拠点は米国カリフォルニア州ハーフムーンベイとなっており、そこで技術設計・開発およびテストしている。また、カリフォルニア州デイビスで広範な飛行試験を実施している。
2016年にルワンダでドローン配達サービスを開始して以来、5万を超える商用配達を行ってきた。同社は現在、ルワンダとガーナで事業を行っている。
ドローンの配達サービスで唯一実用化しているZiplineは、ルワンダにおいて、東西二つの拠点から、現在も日常的に血液や医薬品を病院にむけて1日30回程度搬送している。
Ziplineが使う機体は固定翼で機体の重さは約20kg、血液や医薬品を2kgまで乗せることが可能で、最高時速130キロで依頼主の病院もとへ飛んでいき、1度のフライトで約80キロ(往復約160キロ)、最大90分ほど飛ぶことができる。病院の上空で搬送物を切り離して、パラシュートを使って落下させる方式のため、運用も非常に楽になっている。
これにより、それまで2時間~3時間かかっていた搬送が、20分程度での配達が可能になった。
ドローンの配達サービスにとって、搬送物が軽量であること、そして、その搬送物の価値が高いものといった観点が、やはり重要だ。
そして、もう一つは交通インフラ、特に道路インフラとの兼ね合いになる。道路の建設費はどこの国であっても、1mあたり50万円程度と言われており、その建設費といかに見合うかというのがこのモデルの鍵になっている。
ルワンダにおいても、このZiplineの事業は各病院から料金をもらうモデルでなく(病院の利用料は無料)公共事業という形で政府がそのコストを払っている。
そして、ルワンダであっても、キガリといった都市地域でなく、地方で展開しており、その道路網の状態やリスクの軽減に配慮したものになっている。
世界中で当初よりドローンでの配達サービスは注目されてきていたが、Amazonなどの商用でのサービス開発はスローダウンしてきている。そういった点ではコストとリスクのバランスをどうみるかといった点がなお重要であり、WingもMatternetも医薬品搬送といったところに集中して、サービス開発を行っている。
日本においても、新型コロナ以降、遠隔医療との連携で、ドローンでの医薬品搬送が注目されており、その可能性はあるが、現在の技術やリスクに合わせて丁寧なサービス設計が重要であるし、また、日本はこれだけ道路が整備されていることを考えれば、空を飛ぶドローンだけでなく、小型の自律陸走車との連動を図った設計が重要で、そのコンビネーションは、先進国においてはいいソリューションになっていくことだろう。