DRONE

Vol.53 ウクライナ侵攻とDJI製ドローン[小林啓倫のドローン最前線]

Vol.53 ウクライナ侵攻とDJI製ドローン[小林啓倫のドローン最前線]

戦争と民間ドローン

ロシアがウクライナに侵攻した。ウクライナ軍は善戦しているとも報じられているが、ロシアとの戦力差は圧倒的であり、本稿を執筆している時点では侵攻を阻止できるかどうか微妙な状況だ。何よりも早期に争いが終結し、犠牲者がひとりでも少なくなることを祈っている。

そして今回の件に関して、さまざまな形で「ドローン」が関与していることが報じられている。戦争とドローンと言えば、もちろん攻撃力を備えた大型の固定翼UAVが思い浮かぶが、民間の小型クァッドコプターも活用されている。

これはウクライナの首都キエフ(最近はよりウクライナ語の読みに近い「キーフ」や「キーウ」という表記がなされることも増えている)の近郊にあるBorodyankaという町の被害状況を撮影したものだ。集合住宅と思われる大きな建物や、周囲にある一軒家、そして車両などが破壊されたり、燃えて黒焦げになったりしている様子が映し出されている。

この空撮映像は英国の報道機関であるSky Newsが撮影したものだが、同様にドローンを活用して、報道や調査、あるいはロシア軍の動向を把握するために、多くの民間ドローンが活用されていると報じられている。もちろんドローンによる空撮がいかに有益なものであるかは、平時である私たちも十分に理解しているが、いつ新たな攻撃にさらされるか分からない状況下において、ドローンを使った調査が大きな効果を発揮している。

そうした状況から、ウクライナ国防相は2月24日、ソーシャルメディアのFacebookを使って「ドローンを持っている方は、(軍の)経験豊富なパイロットたちにご提供ください!」という呼びかけを行っている

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ウクライナ国防省がFacebook上で行った呼びかけ。ドローンの提供とともに、機体の種類やバッテリーの所有数、ドローンに関する経験の程度なども尋ねている。

軍が民間ドローンの提供を一般市民に、しかもSNSを通じて呼びかけるというのは、まさに現代を象徴するような出来事と言えるだろう。そしてこの求めに対して、フィンランドのボランティア団体がクラウドファンディングを呼びかけ、その結果ウクライナ軍に140台のドローンを提供するという出来事も起きている。ドローンにはフル充電したバッテリーに加え、予備のバッテリーも同梱され、既にウクライナ軍の手に届けられたそうだ。

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DJI製ドローン140機の提供に関するツイート

有事に一定の役割を果たす民間ドローン

フィンランドの団体がウクライナ軍に提供したのは、DJI製のMavic Miniだったそうだ。小型で軽量、しかも折りたたんで持ち運ぶことができ、あまりしたくない表現だが、戦場という非常時の中でも使いやすい機種と言えるだろう。4K動画の撮影はできないものの、2.7Kまでの撮影が可能であり、これも情報の迅速な収集が目的であれば事足りる。この団体はさらに追加のドローンをウクライナに送ることを示唆しており、また他にも提供が行われているとの報道もあることから、既に無数の民間ドローンが軍関係者によって戦場で利用されているようだ。

一方で、DJI製のドローンを軍事目的のために使用することについては、中国がロシア寄りの姿勢を示していることから、一定のリスクをはらむものではないかとの指摘も行われている。たとえばウクライナ国内のドローンの位置情報や飛行情報が収集され、中国、さらにはロシアの政府関係者に提供されるのではという恐れだ。

2019年5月、米国土安全保障省は、米国内で使用されている中国製ドローンについて、それが収集した飛行情報等のデータを中国側に送信している恐れがあるとして注意を呼び掛けた。この注意喚起は特定のメーカーを名指しするものではなかったが、米国内の民間ドローン市場ではDJIが大きなシェアを占めており、当然ながらDJIを念頭に置いたものとして受け取られた。

DJIは疑惑を即座に否定しており、また実際に各種データが勝手に中国側に漏れたとの証拠も見つかっていない。ただこうした疑念は根強く、今回ロシア対ウクライナという文脈の中でDJI製ドローンが活用されるにあたって、再燃した格好だ。

DJIは新たな批判の声に対して、今回の戦争に対してどう反応しているか、詳細を明かすことを拒否したと報じられている。同社としては、どうコメントしてもいずれかの国の関係者から反発されることは必至であり、何も言わないという選択肢を取るしかなかったのだろう。とはいえノーコメントでは、たとえ根拠のないうわさであっても、疑惑を払拭することは難しい。

今回のウクライナ侵攻で、民間ドローンが活躍すればするほど、戦後あるいは他の国々において「有事に一定の役割を果たす民間ドローンを、他国の製品に独占させておいて良いのか」という議論が巻き起こるだろう。それが論理的に正解かどうかは別にして、各国においてDJI製ドローンから一定の距離を置こうとする動きが生まれるかもしれない。

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