この実証実験は、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所の協力の下、第65次南極地域観測隊による観測事業の一般研究観測課題「マルチスケールのペンギン行動・環境観測で探る南極沿岸の海洋生態系動態」の一環で実施されたものだ。
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この実証実験の成功により、日本の技術者や研究者などが南極まで出向くことなく、遠隔で海中を調査できるシステムが将来的に構築可能であることが証明された。今後、このシステムが実用化すれば、南極や北極といった極域における資源調査・学術調査の進展に寄与できるとしている。
ソフトバンクは今後、自律型水中ドローンと組み合わせて活動範囲を拡張した、より実用的な遠隔制御システムによるサンプル回収・分析などの研究を進めている。また、この技術を応用した、日本近海における水中での測位や水中無線コミュニケーションが可能な水中ドローンおよび産業ダイバー向けソリューションを開発し、2026年度の商用化を目指すという。
背景
近年、地球温暖化などによる自然環境の変化が進む中で、極域における環境や生態系の学術調査、資源利用や航路開発調査の重要性が増している。
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一般的に、南極における海中の調査においては、技術者や研究者自身が現地に赴き、有線接続した水中ドローンを海中に投入・操作して、海中の映像のモニタリングやデータ計測・サンプル回収などを行っているが、これには多大な時間とコストがかかる他、過酷な環境である沿岸の調査ポイントに長期滞在しなければならず、効率性や持続可能性に課題がある。
そこでソフトバンクは、日本の技術者や研究者などが南極まで出向くことなく、日本にいながら遠隔地から海中を調査できるシステムの構築の可能性を検証するため、2023年3月に発表した、光の明滅を信号に変換する技術であるOCC(Optical Camera Communication)とNTN(Non-Terrestrial Network、非地上系ネットワーク)を組み合わせた水中ドローンの遠隔リアルタイム制御システムを改良して、南極で実証実験を実施した。
実証実験の手法と成果
ソフトバンクは、OCCとNTNを活用して2台の水中ドローン間で水中光無線通信を行うシステムを開発した。このシステムでは、LEDの光の明滅をカメラで撮影し、画像処理を用いたトラッキング技術で光を検出・追従することで、光の輝度変化をデジタル信号に変換し、リアルタイムな通信を実現。これにより、水中ドローンが互いに協調動作を行うための指示やデータを迅速かつ確実に送受信できる。
さらに、このシステムは親機となる水中ドローンとNTNで接続することで、遠隔地からコマンドを送る機能があるため、離れた場所にいるオペレーターが海洋で動作している水中ドローンに対して指示を出すことができる。
また、水中ドローンは搭載された各種センサーから得た情報を収集し、そのデータや水中ドローンの動作状況を遠隔地のオペレーターに送信することも可能だ。
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例えば、水温や水圧などのセンサー情報を取得し、そのデータを衛星通信などのNTNを通して即座に共有できるため、オペレーターはリアルタイムで海洋環境の状況を把握し、迅速な意思決定を行うことができる。
この技術を活用した実証実験により、南極の海中を移動する水中ドローンを約1万4,000km離れた日本からリアルタイムで遠隔制御し、水中ドローンに搭載した水温や水圧などのセンサー情報をモニタリングすることに世界で初めて成功した。
また、水温が約-2℃まで低下し、海氷に閉ざされていて音響通信の活用が難しい南極の海氷下においても、水中ドローンや機器をリアルタイムで遠隔制御するとともに、水中ドローンからのデータの収集や観測などを遠隔で実行できることを確認した。
今後の展望
ソフトバンクは今後、自律型水上ドローンと組み合わせて活動範囲や水中ドローンの同時制御可能台数を拡張した、より実用的な遠隔制御システムを開発し、遠隔でのサンプル回収・分析などの研究を進めていく。
また、この技術を応用した、日本近海における水中測位や水中無線コミュニケーションが可能な水中ドローンおよびダイバー向けソリューションの開発も推進し、2026年度の商用化を目指すという。
このソリューションは、将来的に海底資源の探査や海洋インフラの監視、災害時の救難活動など、さまざまな分野での応用が期待される。
今後もソフトバンクは、Beyond 5Gによる海の産業革命の実現に向けて、より高度な水中光無線技術の研究開発を進めるとしている。