前回、Parrot社のAnafi aiが示す可能性に関するコラムを書いた。4月にそのコラムを書いて、その翌月の5月には、Parrot ANAFI AiのキーパートナーであるSkywardの事業撤退のニュースが流れてきた。その背景を探りたい。
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Skywardの変遷とそのサービス
Skywardは、2012年にFleetmaticsやTelogisなどと並んで、Verizonのテレマティクス部門の一部として発足した。その後、2014年、エンジニアのDana Maher、コンサルタントのEric T. Ringer、ヘリコプター関連の専門家のJonathan Evansによって、独立会社と設立した。設立時にはRising Tide Innovations, Inc.から15万ドルの資金調達を得ている。また、設立してすぐに、14万ドルの転換社債を発行した。
Verizonからの事業独立ということもあり、資金調達も順調で、その2014年6月にはDraper Associates、Techstars、Tim Draper、Toivo Annus、VoyagerCapital より150万ドルのシードラウンドを成功させ、2015年4月には2度目のシードラウンドとして、Draper Associates、Founders’Co-op、Moment Ventures、Norwest Venture Partners、Verizon Ventures、VoyagerCapital より410万ドルの資金調達に成功した。
2016年6月にはベンチャーラウンドとして、VCからの協調投資として240万ドルの資金調達に成功している。しかし、その後、2017年2月古巣であったVerizonが買収をし、Verizonの子会社となった。その時の取引条件に関しては、開示されていない。
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Skywardはその設立当初より、ドローンの飛行管理を中心にサービスプロダクトを開発してきた。いわゆるUTM(Unmanned Aerial System Traffic Management:無人航空機の管制システム)である。その大きな成果は、米国連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)が規定し運営するLAANC(Low Altitude Authorization and Notification Capability/機体や航行の登録および管理システム)のサービスサプライヤーとしての正式承認であろう。これは、日本でも一部実行されているが、有人機と無人機、および無人機と無人機の衝突を回避するためのシステムとなっている。
このUTMに関しては、ドローンの飛行管理上、必要なシステムではあるものの、ドローンの活用の中心が、物流や広域監視などの広域への航行というより、北米においては工事進捗、日本においては点検といった分野を中心として実用化の立ち上がってきている中で、そのリスクとしては非常に小さいものとなっており、必ずしもUTMがないとリスクが高過ぎるという状況になってはいない。(多くの実用化がされてきているが、故意などのケースを除けば、有人機と無人機、無人機同士の衝突といった事案が、世界中でも上がってきているケースが少ないため、活用企業においてはそのリスクに対する投資の優先順位が高くない)
そんな背景もあり、今までUTMをサービス化しようとしてきた企業は苦戦をしている。そのため、各社はそのサービスの中心を飛行域における機体管理の目線でなく、企業内におけるプロジェクト単位や複数機体でのドローンの機体やフリートと呼ばれるようなパイロット管理にシフトしてきた。
しかし、このモデルにおいては、機体情報をどうやって取得するか、パイロット管理と関わりが深いフライトアプリケーションとどうやって連動するかといったことが重要であり、それは使用している機体に依存するので、世界中でDJIのシェアが高い中にあっては、DJIの機体にいかに対応するのかがビジネス的には重要であった。(DJIはFlight Hubのような使いやすいソリューションも準備している)
そんな環境下の中、機体管理やフリート管理もビジネス的に成功することが難しく、この分野のビジネスは非常に厳しかった。その流れを大きく変える可能性があったのは、ドローンのIoT化の流れ、ドローンがインタネットオンライン化するという動きだった。
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Verizonは2016年10月に以下のようなリリースを出している。
この頃から盛んに、VerizonはSkywardと一緒に、4G LTEの検証を行ってきている。こういった流れもあり、2017年VerizonはSkywardを買収し、その動きを加速化させようとしたものと思われる。
LTEなどのドローンにおける上空利用に関しては、2018年6月に3GPP Release 15の中で、「携帯電話の上空利用時の送信電力制御機能(パワーコントロール)に関する国際標準」で、1.ドローン端末の特定、2.干渉可能性の検出、3.上り信号のパワー制御という項目に関しての標準化が決定し、各キャリアはその対応端末やシステムの開発に取り掛かった。その成果として、2021年8月に、前回のコラムで紹介した米国で最初の4GLTE搭載ドローンであるAnafi AIがParrot、Verizon、Skywardの連携により実現した。
これにより、Verizonの通信ネットワークや機体管理などのSkywardソフトウェアと統合されて、ほぼリアルタイムでの飛行データ転送、遠隔操作や目視外飛行が可能になっている。日本でも2021年7月にNTT DocomoがLTE上空利用プランの提供を開始している。
そのAnafi AIの発売開始から10か月後に、Skywardの事業撤退となった。それはなぜかということを探る前に、Anafi AIの現在のサポート状況を記したい。
Skyward撤退におけるAnafi aiへの影響
Parrotにとって、今回のAnafi aiは、非常に重要なプロダクトである。それは以下のようなParrotの創設者兼CEOであるHenri Seydouxの発言からも伺える。
Advanced artificial intelligence, autonomous flights, best-in-class imaging, photogrammetry accuracy, and reliable 4G LTE connectivity on the Verizon network will put powerful new tools in the hands of professionals like never before and we truly believe it is a gamechanger for the professional drone industry.
(産業用ドローン産業にとって、高度な人工知能、自律飛行、クラス最高のイメージング、写真測量の精度、およびVerizonネットワーク上の信頼性の高い4G LTE接続により、これまでにない強力な新しいツールが専門家の手に渡り、ゲームチェンジャーであると確信しています。)
Skyward撤退により、Anafi aiに標準的な機体管理アプリケーションとして連動していたSkywardのクラウドアプリケーションの使用は出来なくなった。北米においては、Skywardの契約とともに付随していたVerizonのLTE通信の無償アクセスのサービスに関しては影響があるが、Anafi aiはVerizon以外の通信アクセスは可能であり(日本ではそもそもNTTドコモの通信網へのアクセスであった)、Anafi aiそのもののLTEアクセスにおけるメリットがなくなるわけではない。
また、Skywardが担っていた機体管理やフリート管理といったアプリケーションも、ParrotがSDK(Software Development Kit/開発者向けキット)を提供していたこともあり、Skywardの撤退のアナウンスをしてすぐに、AirDataといった同様な機能を持ったソリューションがSkywardからの移行スクリプトの提供をしている。(VerizonやSkywardと協力しているのではないかという噂が流れているがその真相は不明だ)
いずれにせよ、大きな流れの中で、Skyward撤退におけるAnafi aiへの影響は軽微であるといえよう。
なぜSkywardは撤退したのか
Parrotの戦略的な製品であるAnafi aiやその他Skydioとの連動が可能であったSkywardはLTEへの接続が進んでいく環境の中で、比較的よいポジショニングであったといえるが、また逆にその環境としては、より実運用の中での機能性や使いやすさといったことへの比較やユーザー自身が多くのメーカーの機体を運用しはじめたということもあり、ユーザーの視線はより厳しくなってきているともいえよう。
特に北米市場において、Skywardが提供してきた機体管理やフリート管理のクラウドでのスイート製品は、そのプラットフォームの中心が、PX4に急速にシフトしてきている中において(この辺の背景はVol.53 ドローンのプラットフォームとその戦略)、その中心を担っているAuterion Suiteのポジションが上がってきている。
Skyward&Verizonはそういったプラットフォーム競争のただ中にあって、その戦略の変更を余儀なくされたということではなかろうか。VerizonはSkyward撤退のなかで、
the company remains focused on its investment in ground robotic management, connectivity services, and solution development
(地上ロボット管理、接続サービス、ソリューション開発への投資に引き続き注力していく)
と述べている。そういった意味では、より産業やIoTとの連動が深く、Auterionが手掛けていない陸上自律走行車などにその中心を変えて、再構築していくこということだろう。
Skyward撤退の教訓
日本においては完全に対岸の火事という印象をもっている人が多いが、ドローンのインターネット接続化や実運用が始まる中で、ドローン活用ユーザーはこういったリスク(使用している機体やサービスの撤退)を考慮にいれた中期的なドローン運用設計が求められてくるだろう。
ドローンはその活用において、すでにクラウドを含めた中でのソリューション製品であり、また、まだまだ市場が安定していない中で変化が多い市場でもある。そのためには、ソリューションを構成する技術ブロック(機体、通信、アプリケーション、クラウドなど)において、1社依存を避け、いつでも代替可能なものに置き換えることが出来る柔軟なソリューション構築が必要であり、また、それに伴うサポート体制の構築といったものも大きなテーマになってくるだろう。