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Vol.61 ウクライナ戦争以降のドローン環境の変化[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

Vol.61 ウクライナ戦争以降のドローン環境の変化[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

ウクライナ戦争以降、多くの人から現状のドローンへの影響を質問される機会が増えた。今年2月のロシア軍のウクライナ侵攻以降、その戦況が伝わる中でその戦争において数々のシーンでドローンが効果的に使われてきた。

ウクライナ戦争でのドローンのポジショニング

私自身は軍事専門家ではないし、また、報道で目にする情報をベースにしているので詳しい状況に関しての正誤は明らかでない部分もあるが、ドローンをどんなシーンで使ってきているかに関しては、ドローンの専門家として記したい。

今回のロシア軍のウクライナ侵攻に関しての苦戦の要因の一つは、ロシア軍が圧倒的に元々の差が生じていた空軍勢力による制空権が確保できなかったことだという。

これは様々な理由が言われているが、ロシアが「戦争」ではなく、侵攻当初だけでなく今もロシア側の主張は「ロシア、そして国民を守るにはほかに方法がなかった」。ロシアのプーチン大統領は2月の攻撃開始を宣言する演説でそう述べ、親ロシア派の組織が占拠しているウクライナ東部で、ロシア系の住民をウクライナ軍の攻撃から守り、ロシアに対する欧米の脅威に対抗するという「正当防衛」ということであったため、空からの攻撃という手段を取りにくかったことにも、大きな理由があるだろう。

それにより、陸軍(戦車部隊を中心に)で首都キーウに迫る形となった。そのため、その進軍のスピードは戦車の平均的なスピードである時速40~50kmとなった。

この進軍の動きは、有人偵察機は撃墜のリスクもあるので衛星を中心に捉えられるようになった。ただし、衛星の情報に関しての即時性に関しては、米国やNATOとの連携具合によって異なるが、即時性に劣ることも想像される。

ドローンの最初の活用としては、まず民間のドローン(DJI機が多いという報道もあった)を使って、進軍状況の把握に使用されたと思われる。当初はこの機体情報がロシアに流れているのではないかと懸念されているという報道もあった。

いずれにせよ、キーウへの進撃の詳しい状況が分かるにつれ、その進軍の先頭集団を的確に攻撃を加えることで進軍のスピードは落ち、キーウから離れた地点で立ち往生することとなった。

そして、その戦車の被害状況を「空撮」し、インターネット等でオープンすることによって、ロシア軍が苦戦しているという情報が、実態の状況以上に効果的に多くの人の目に留まることになった。これも士気には多いに影響があったことであろう。

緒戦において、進軍を遅らせ、またその進軍の配置が明らかになったところで使われたのはトルコ製の武装ドローン「TB2」であった。TB2は、地上の管制車両から操縦して最大27時間も飛行でき、武装は4発の対地ミサイルや精密誘導爆弾を持つ機体だ。長さは6.5m、翼幅12mとドローンの中では中型に属する。

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ウクライナ軍は2019年に12機に試験導入し、当初は偵察機として使用していた。その後、導入の数を増やし、ウクライナ侵攻時には18機保有し、その後20機以上が納品されたということで、その後、何機か撃墜されたというニュースもあるが、現状、40機近いTB2を保有しているものと思われる。

このTB2は一機当たり5~6億円で、当初、安めの巡航ミサイル(スティンガーやジャベリンなどは400万円程度)と比べた場合、もし、撃墜された場合にはコストパフォーマンスが悪く実戦向きではないといった分析もあったが、再出撃可能な偵察攻撃ドローンとしては小振りな機体で、かつ、値段はかなり安く、実際、今回の戦争でもほとんど撃墜されていない。

3月末時点において、軍事情報サイトOryxが、公開されていた動画から集計した数字によると、装甲戦闘車両4両、火砲5門、多連装ロケット砲1両、地対空ミサイルシステム10基、指揮所2カ所、通信施設1カ所、ヘリコプター9機、燃料輸送列車2両、トラックやタンクローリーなど車両24両、という戦果の分析が行われている。専門家によっては6億ドル以上の損害を与えたという分析を行っているケースもあり、結果的に当初懸念されたコストパフォーマンスの問題は生ぜず、TB2のコスト優位性は高くなる結果となった。(ちなみに、その外の巡航ミサイルの一発の値段は、サイドワインダー約2000万円、ハープーン約1億2千万円、トマホーク約2億円ということである)

ウクライナ戦争で変わるドローンの軍事上のポジション

最も初期のドローンの一つは、1931年頃から運用されている英国のタイガー・モス練習機の派生型である無線操縦が可能なクイーンビー(Queen Bee)であった。これはターゲットドローンとして使用され、通常は対空要員の訓練に使用されていた。当時、爆撃用の無人機なども研究されたが、操縦精度や難度、コストの問題から実用化されることは少なかった。

軍事用ドローンが大きく変わったといわれているのは、2001年のアメリカの同時多発テロ以降、地域といった面を攻撃する形から個人のような移動する点を攻撃する形に戦争形態が変化し、20世紀末からは画像電子機器や通信機器、コンピュータの発達により、衛星通信により遠隔地でもリアルタイムで操縦と映像の取得、気象条件が良ければ完全自動操縦などを可能にする技術の向上もあいまって、RQ-1プレデターに代表される偵察機型から攻撃機型への展開が行われたときだ。

その後、そういった軍事技術が民生へ「スピンオフ」され、民間でのドローンの活用拡大につながった。

軍事用ドローンに関しては、アメリカやイスラエルなどで研究は引き続きされていたものの、欧州などでは懐疑的な見方も多く、どちらかというとその技術発展は民間がリードする時代が続いた。そういった流れの中で技術向上とともに、大幅にコストが下がった(例えば、ドローンの主要部品であるフライトコントローラーは10年前には100万円以上していたが、現在ではほぼ同機能のものが、数万円で手に入れることができる)。

そこで起こったのは、サウジアラビアの石油施設への攻撃に示されたような「貧者の兵器」としてのドローンの存在だ。この辺の状況に関しては、以前以下のコラムでも書いたのでそれを参照してほしい。

このときに各国が受けた衝撃は「この攻撃に対する被害金額の非対称性だ。おそらく今回の攻撃にかかったコストは数千万円から1億円程度と推測されるが、被害額は3.3兆円以上と試算されている。3億倍という比率になる」だった。

また、このドローンの攻撃を防ぐための対空ミサイルに関しても、先に示した巡航ミサイルの値段でわかる通り、金額の非対称性が著しかった。

この時点において、多くの国の軍や警察も、一斉に技術開発を進め始めたのは、アンチドローン・カウンタードローン(攻撃ドローンに対抗するシステム)の領域であった。この地点においては、ドローンは「貧者の兵器」であり、その攻撃に対する防御態勢の構築を主流に進められてきており、「正規の兵器」としてはまだ懸念があったということだろう。

今回のウクライナ侵攻以前、ロシア軍も全軍に対して2018年よりドローン攻撃に対する防御の訓練を開始するよう命じ、米軍を超えるドローン野戦防空網を持つとされてきた。そんな意味において、今回のウクライナ戦争は、ドローンの使用を前提とした(相互にドローンを実装し、その攻撃に対する対策を進めてきた)軍同士が激突した初めての戦争となっており、その結果、現状においては、防御よりも攻撃が上回る形になっている。

なぜドローンの攻撃が防御に比べて、優勢を発する形になっているか?ドローン対策は捕捉・識別・撃破というプロセスが基本であるが、そのいずれも困難な要素がある。ドローンは低速かつ小型であるため、在来兵器を対象とするレーダーでは捕捉しにくい。しかも低空で飛行するためにレーダーとドローンの間に建物や障害物があれば捕捉できない。そのため、プロセスの最初の段階である捕捉がまだまだ困難であるということだ。

しかも仮に捕捉ができたとしても、それがどこのどんなドローンかを識別することも難しい。さらには、識別できたとしてもそれを受けて、撃破することはなお難しい。

また、ウクライナ軍が使用したTB2を捕捉し撃墜することも可能だとの前評判だった最新の高価な地対空ミサイルがあまり効果を発していない。これは従来型の地対空ミサイルは目立つため、偵察ドローンなどを使用して捕捉され、陣地転換中などで稼働していないところを狙い撃ちにされており、撃墜する前に役立たずな状態に陥っている。

ドローンのような遠隔操作を主体にしたものに対しては、アンチドローンのシステムでもその遠隔操作を電子システムで妨害をしているものが主流になっているが、アンチドローンの技術が進んでいく中で、すでにそのアンチドローンへの対抗技術が確立してきている。いわばいたちごっことなっているのだが、アンチドローンの対抗技術の方がどんな形で対抗しているかが明らかになりやすいため、そのアルゴリズムをAIなどの活用でいつも崩されてきてしまうという背景がある。

ウクライナ戦争を通じて、ドローンが現代の戦争において、その戦略として組みこむことの効果性への評価が確実的な形で高まることとなった。

ウクライナ戦争以降のドローン開発の動き

今回のウクライナ戦争の状況を受けて、各国、軍事費へのドローンの割当が新たにされたり、その比率が高まったりという動きが多くみられる。日本においても、詳しい内容は避けるが、自衛隊は今まであまり予算を割り当てていなかったドローン向け予算を今年度は割り当ててきている。

ここ数年間、ドローンは民間において、その技術が高まってきており、今後もその動きは継続すると思われるが、それを超える内容で、軍事関連での技術開発も進んでいくだろう。特にドローン個別の開発というよりも、よりシステム面での開発が進んでいくだろう。

また、民間の技術開発との大きな違いは、先ほども示したように、軍事用ドローンはよりシステム化し、アンチドローンやカウンタードローンの開発の動きを見据えながら進めていくことが重要となっており、それはそういった対抗技術に対する情報戦も背後で追いながら、素早い対応が迫られていることになっていく。

民間利用においても、軍民両用(デュアルユース)技術であるドローンの軍事関連技術の、特にアンチドローンやカウンタードローンの技術は、通常業務の妨害などに悪転用することが可能になってきているため、今後もウォッチしていくことが重要だろう。

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