2016年以来、「ドローンビジネス調査報告書」(インプレス)を毎年調査執筆しているが、今までそこで聞かれることが多かったことの一つは、日本におけるドローンの出荷台数であった。それはドローン関連のビジネスを行う企業にとって、出荷台数はビジネスプランを立てるための基数になるからだ。
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これまでは各社のインタビューの中から推計して台数を内部的に推計し、その台数と機体価格などを加味して、市場規模として「機体」関連の金額を算出し、発表していた。
これまでその推計した台数と機体価格などの数字は外部公表をしてこなかった。
しかし、制度として機体登録が開始されたこともあり、出荷台数がオープンな形で明らかになってきた。
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機体登録
まずは、ドローンの機体登録をおさらいしてみよう。
ドローン(100g以上)に関して、機体登録およびリモートIDが2022年6月20日から義務化された。(2021年12月20日から受付開始、2022年6月20日までは事前登録を行えばリモートIDは不要)
(登録有効期間は3年)
国土交通省発表の登録機体数
国土交通省は登録が開始されてから、国土交通省の講演などにおいて、この登録数の開示をしている。
機体登録制度が始まって、その年度の終了間際での登録状況がこのスライドにある331,202機ということになる。
これは制度が始まって最初の登録であったため、今まで所有しているドローンが一斉に登録され、過去数年分の購入を含む稼働台数の累計ということになる。
(この時点でのドローン稼働台数は331,202台となる。 ※しかし、100g未満や屋内など登録の必要ないドローンは含んでいない)
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国土交通省は、機体登録制度が始まって、その年度の終了間際での登録状況において、メーカー別の登録割合も開示している。
(このスライドが1月末時点ということで上のスライドと比べて、5000台程度の全体数の差がある。令和5年1月の1カ月間で、5000台程度の出荷があったということだ。)
国土交通省は令和6年(2024年)の1月末の講演でも上のようなスライドを示した。
このスライドの主眼は登録機体数というより、機体認証・操縦ライセンス関係の運用状況であっただろう。
国土交通省から示されたデータから分かること
図1の令和5年(2023年)1月31日時点の機体登録数は326,473機となっているが、この台数はこの時点の累計稼働数であり、2017年ぐらいからドローンが本格的に普及してきたことを考えると、6年間程度の累計となっている。これを単純に6で割ると、54,412機となるが、稼働ということを考えると、3~4年ぐらいが妥当であろう。その場合、4で割ると81,618機、3で割ると108,824機となる。
しかし、2023年の状況から考えると、リモートIDが必要なく登録料のみ(オンライン登録で900円)だったこともあり、所有している機体は一応皆登録といった流れもあり、必ずしも稼働台数になっていなかったようにも思う。
図3の令和6年1月31日時点での登録機体数は380,194機となっている。
このことから、令和5年(2023年)2月1日から令和6年(2024年)1月31日までの1年間の登録増加数は53,721機となり、これが1年間に増加した登録機体数となる。
これを図2のメーカー別の登録割合で単純に割り当てると以下になる。
ラジコンクラブ機の2023年時のシェアが高いが、2022年6月までの事前登録まではリモートIDを必要とせずに、登録番号を取得しシール添付でよかったので、そういった措置をした過去資産が多かった。
また、その他の実験研究用の機体などで同様の傾向が強い。
そういった点で考えると、ラジコンクラブ機に関しては、通常運用のリモートID搭載義務の登録数は年間1万台とは推察しづらいので、4千台弱と推察し、50,000台が機体出荷と推計し、ラジコンクラブ機を除いた比率で割り当てると以下になる。
制度開始時以前(令和4年<2022年>)の販売状況とここに挙げた令和5年(2023年)の販売状況は、機体によって異なる(特にDJI以外の海外機体は令和5年に関して、もっと出荷していると推測される)し、また、その他の自作(個人や研究機関、大学などでの自作機)に関しても、ラジコンクラブ機同様、通常運用のリモートID搭載義務の登録数はさほど多くないとも考えられるが、傾向値としては参考になる。
以下が令和5年(2023年)各メーカー別の出荷台数の推計。
DJI
- DJIがDJIおよびDJI/クボタ(農薬散布機)となっており、全体の70%程度(年間35,000機程度)
DJI以外の海外ドローン
- ParrotはAnafi中心で年間300~400機程度
- SkydioはSkydio2+中心で年間300~400機程度
- オーテルロボティクスはEVOシリーズ中心で年間200~300機程度
国産ドローン
- ヤマハ発動機は農薬散布無人ヘリFAZER Rを中心に年間500機程度
- マゼックスは農薬散布ドローンを中心に年間400~500機
- ROBOTIX Japanは農薬散布ドローンを中心に年間200~300機
- ACSLは台数的にはSOTEN(小型ドローン)が中心で、決算書によると、SOTENの機体台数は、2022年は645台に対し、2023年は101台となっている。
- NTT e-Drone technologyは農薬散布ドローン中心で年間200~300機
- そのほかの国産ドローンは農薬散布ドローン、中型機を中心として、年間数千機
国産ドローン産業の戦略の行方
DJI、DJI以外の海外機、国産ドローン、ラジコンの年間の出荷数をまとめると以下の図になる。
ラジコンを除くと全体の出荷数は50,000機程度で、その内DJIが35,000機程度、DJI以外の海外機は2,000機程度なので、国産機との比率は以下になる。
海外機:国産機=37,000:13,000
DJIに関しては、米中の衝突も含めた日本政府の方針もあり、排除の方向性も強く、少しずつシェアを落としてきているが、その分、小型機を中心にDJI以外の海外機のシェアが上がってきている。また、産業用途や部品調達、円安などの影響もあり、機体単価は上がってきている。
機体メーカー・部品メーカーの戦略の行方
DJI機体を敬遠する傾向が国内の公共や企業を中心として存在しているが、それが国産ドローンにシフトしない一番の傾向は、ACSLを除いて、国産機体メーカーがMavic対抗の小型機を提供していないことにある(屋内機のリベラウェア機体もここでは除く)。これは、今まで国産機体メーカーはMavicに対して価格もスペックも敵わないという判断もあっただろう。
そのため、ほとんどの国産機体メーカーが産業中型機以上、または、農薬散布機にフォーカスしてきた。
米国でも同様な傾向があったが、2019年のBlue UASのSRR(Short Range Reconnaissance/短距離偵察)プログラム以降、その傾向は変わってきたのはこれまでのコラムでも示した通りだ。
日本の機体メーカーは、どこのメーカーも黒字化せず、苦しい状況が続いている。
それは、中型機や農薬散布機と数量的には数千機の市場規模に対して、機体メーカーの多くが、同じ戦略で挑んでいるからだろう。いわば、1社1社の戦略は必ずしも間違いではないが合成の誤謬といったようなものだろう。
これは、どこかPCやServer、スマートフォンの状況によく似てきている。当初、PCやServer、スマートフォンも、日本のメーカーも多く、一定のシェアを握っていたが、技術進化が緩やかになっていく過程の中で、シェアを落とし撤退をしてきている。
おそらく、数年後には、最低でも売上100億くらいの規模がないと、機体メーカーとして、海外市場と戦うことは難しいだろう。これは具体的な規模でいくと、単価100万円の機体を10,000機程度、販売するような体制にする必要がある。
また、ウクライナ戦争以降、各国でドローンに対する軍事予算が多くついており、このままいくと、北米や欧州だけでなく、インド、台湾、韓国や東南アジア、東欧、南米、中東、アフリカといった国々でも急速にドローン機体メーカーが勃興してきており、明らかに日本よりもスピード感を持って動いてきている。
そういった意味では、日本の機体メーカーは上記の13,000機のシェア争いをしている場合ではなく、37,000機の部分のシェアをいかに食っていくかということになろう。恐らく、この国内の競争に勝つことができなければ、海外でシェアを握ることなどできないだろう。
数年後に売上100億円の国産機体メーカーが、日本でもいくつかでも出てくれば、ドローンの機体産業が日本に残っていくのではないか。ドローン関連の部品メーカーも、いきなり海外市場に攻めていくことは難しい部分もあるだろうから、戦略をもった日本の機体メーカーと積極的に連携し、その中で差別化を図っていくことが重要になっていくはずだ。そこで競争力がつけば、円安トレンドは追い風になるだろう。
ドローンサービス事業者の戦略の行方
これまでは北米も含めて、DJIの機体に対応したアプリケーションやクラウドサービスをDJI SDKを使って開発をして、サービスを行うケースが多かったが、米中対立をはじめとする地政学上の状況により、DJIの状況はあまりよくない。先に挙げたインド、台湾、韓国や東南アジアといったドローン新興国において、DJI排除の動きが起きてきている。
ドローン新興国に関して、これから開発製造をしていくということもあり、短期間で現状に追いつくため、オープンソースのフライトコード(PX4やArdupilot)を使って、機体開発を始めている。しかも、急速なスピードで。
ドローンサービス事業者は、その領域や業界に合わせたサービスアプリケーションやクラウドをオープンソース系のフライトコードに対応させていくべきだ。そうしていくことで、各国で開発製造されている機体に対応していくことができるだろう。
そのとき、可能であれば、ペイロード(カメラ、ライダーや搬送装置など)と連携し、そういったハードと一緒に展開していくと強みを発揮しやすいであろう。