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Vol.55 DJI、ロシアとウクライナでの事業を停止[小林啓倫のドローン最前線]

Vol.55 DJI、ロシアとウクライナでの事業を停止[小林啓倫のドローン最前線]

ウクライナ第一副首相の抗議

本連載のVol.53において、ロシアからの侵攻を受けたウクライナが、その対抗として民間のドローンを活用しているというニュースを紹介した。たとえばフィンランドの団体がウクライナ政府に対し、DJI製のMavic Miniを140機提供。ウクライナはこれらのドローンをロシア軍に対する情報収集に利用している。一方でロシア側も、DJIドローンを戦闘に活用しているとの情報が流れている。

こうした動きに対して、気になる続報が入ってきた。DJIが自社のドローンを戦争で使用されないようにするために、今回の一件の当事国である、ロシアとウクライナにおける事業を停止するというのである。

これはDJIが4月26日にプレスリリースで発表したもので、ごく短く、次のように説明している。

DJIはさまざまな地域におけるコンプライアンス要件を社内で再評価しています。この見直しが完了するまでの間、DJIはロシアおよびウクライナにおけるすべての事業活動を一時的に停止します。対象となる地域での事業活動の一時停止について、お客様やパートナー、その他のステークホルダーと連携しています。

「コンプライアンス要件」が何を指すのかは詳しく説明されていないが、各種メディアや専門家の間では、「DJI製ドローンが民間人の殺害に利用されている」という批判を同社が避けるための措置だろうとの観測が流れている。

実はDJIのプレスリリースに先立つ3月16日、ウクライナのミハイロ・フェドロフ第一副首相が、ツイッター上でこんな投稿をしている。

"戦争が始まってから21日間で、ロシア軍は既に100人のウクライナの子供を殺している。彼らはミサイルをナビゲートするためにDJI製品を使っているのだ。@DJIGlobal よ、本当にこの殺人のパートナーになりたいのか?ロシアがウクライナ人を殺すのを助けるような製品はブロックしてくれ!"

そしてこのツイートには、ウクライナ政府からDJIのフランク・ワンCEOに宛てた公式文書の画像も添付されている。その中でウクライナ政府は、DJIに対してロシアでの事業を停止するとともに、次のような要求も行っている。

  • DJIの「AeroScope(エアロスコープ)」システムを、ウクライナ人ユーザー向けにはオンにする
  • ウクライナ国外で購入・アクティベートされたDJI製ドローンが、ウクライナ国内で機能するのをブロックする
  • ロシア、シリア、レバノンで購入・アクティベートされたDJI製ドローンの機能をブロックする

かなり強い要求だが、ウクライナ政府がここまでの主張をするに至った理由は、この要求でも登場する「AeroScope」システムにある。

AeroScopeに対する疑惑

DJIは2017年以降に出荷された、自社製の全ドローンに対し、飛行中に機体情報や機体の位置情報、さらにはパイロットの位置情報といった各種データを自動送信する機能を搭載している。AeroScopeは、この信号を利用したドローン検知システムで、DJIのホームページでは次のように解説されている。

AeroScopeは包括的なドローン検知プラットフォームで、UAV通信リンクを素早く特定し、飛行状況/経路/機体モデル名などの情報をリアルタイムで収集します。 UAVをリモート検知・識別することにより、ドローンが重要施設にもたらす潜在リスクを回避することができます。
DJIによるAeroScope機能の紹介動画

このシステムは従来から問題視されてきた、ドローンの増加による空中での衝突事故や、重要インフラへの墜落といった好ましくない出来事を回避するために開発されたものだ。しかしこれを利用すれば、ドローンやパイロットの位置を瞬時に特定可能になる。まさにそれこそロシアが行っていることであり、ロシアはAerospaceを悪用して、市民に対するミサイル攻撃を行っているというのがウクライナ政府の主張である。

彼らの主張がどこまで正しいのか、現時点では判明していない。しかしウクライナ政府がDJIに対して提示している事項の中に、「ウクライナにはAeroScopeを使わせろ」という要求が含まれているところを見ると、戦闘行為に役立てられる可能性があることは事実だろう。

DJIはAeroScopeをオフにせよという要求に対し、一時は「技術的にオフにすることができない」と回答していた。またドローンが発信する信号についても、暗号化されているため問題はないとの見解を示している。ところがその後、実際には暗号化されていないのではないかとの疑惑まで持ち上がり、DJIは最終的にニュースサイトThe Vergeの取材に対して、暗号化されていないことを認めるに至っている。

こうした紆余曲折を経て、4月26日の事業停止発表に至ったわけである。一連の騒動は、戦争という特殊な状況に対して、DJIというドローン大手ですらきちんと対応を検討していなかったことを示していると言えるだろう。戦争は確かに異常事態だが、既に「民間のドローンが戦闘に用いられる」というパンドラの箱は開いてしまった。平時だけでなく戦時を見据えて、ドローンの管理をどう進めていくべきかが問われている。

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