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Vol.59 世界のドローン機体メーカーの状況と野波先生[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

Vol.59 世界のドローン機体メーカーの状況と野波先生[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

9月1日〜2日に内閣官房小型無人機等対策推進室と兵庫県が主催する第1回ドローンサミットが兵庫県神戸市で開催された。内閣官房小型無人機等対策推進室の主催ということもあり、TVや新聞といったマスコミも入り、それほど広いスペースではなかったものの、大型ドローンや大手企業の展示もあり、なかなかの賑わいであった。

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筆者自身も展示も興味深かったが、初日の基調講演で千葉大学名誉教授の野波健蔵先生が「世界と日本のドローン産業動向」といった内容で行った講演が興味深かったので、その内容とともに感想やその後、野波先生と直接会話した内容などを記したい。

世界のドローン機体メーカー

野波先生は現在一般財団法人 先端ロボティクス財団の理事長であるが、その先端ロボティクス財団が監修で「日本ドローン年鑑2021」という書籍を出している。

この年鑑のアップデートおよび世界にその調査対象を拡大させており、その調査の内容を踏まえて、今回セミナーでの講演となった。調査の方法は主に企業および製品Webを通してということだ。世界で調査したドローン機体メーカーの社数は500社を超え、その中でもより詳細に調査した会社数は250社を超える。(これはプロトタイプではないとか、製品情報がきちんとUpdateされているというのを基準にしているそうだ)

まず、世界のメーカー数だが、上位3カ国は、アメリカ156社(43社)、中国51社(30社)、インド37社(26社)()はより詳細に調査した会社数。(講演では上位20カ国を挙げていた)(軍事目的のものは含んでいないということだが、ドローンに関しては民生と軍事の堺が低いプロダクトではあるので、この辺はもう少し入念に考察する必要がある)日本は27社(16社)でイギリス、イスラエルと並んで5位となっている。

しかし、この後の調査にも連動するが、競争力の高い機体メーカーといった点での順位ではかなり下位に位置するというのが野波先生の見解だ。(その競争力の高い機体メーカーの順位では会社数9位の韓国19社(12社)にも劣っているということだ)この順位の中で個人的に思うのは、中国が多いのは認識していたが、アメリカの機体メーカー数の多さと停滞もしくは入り口(プロトタイプレベル)の会社数のギャップに関してはもう少し掘り下げてみたいところだ。

次には機体のタイプ別の割合(いわゆる空飛ぶクルマを除く)VTOL21%、固定翼24%、マルチコプター47%、ヘリコプター6%となっている。45%が固定翼で、55%が回転翼となっており、ほぼイーブン。これも日本での状況と大きく異なる。日本においては、回転翼が92%で固定翼が8%と世界の比率とは大きく異なる。ここも非常に興味深い。この比率はプロダクト数ということで、出荷数や出荷高の比率ではないということは把握しておく必要はあるが、日本ではドローンというと回転翼(マルチコプター)の印象が強いが、世界全体ではそういった状況ではないということだ。

次は動力源別の割合(空飛ぶクルマを除く)電動70%、ハイブリット10%、エンジン18%、ソーラー発電2%。電動系=電動+ソーラー発電+ハイブリットで82%ということで、日本は電動系84%ということなので、ここは世界と一致している。 機体タイプごとの電力源の割合も示している。

  • VTOL:電動69%、ハイブリッド25%、エンジン6%、ソーラー0%
  • 固定翼(大):電動0%、ハイブリッド12%、エンジン81%、ソーラー6%
  • 固定翼(小):電動90%、ハイブリッド0%、エンジン5%、ソーラー5%
  • ヘリコプター:電動34%、ハイブリッド0%、エンジン66%、ソーラー0%
  • マルチコプター:電動93%、ハイブリッド6%、エンジン0%、ソーラー1%

これも興味深い数字だが、固定翼(大)、ヘリコプターは有人機、特に小型有人機をベースに自律化をしているものと思われ、これまでの安定性があるフレームワークを使っているという点で非常に現実性が高いアプローチだ。これは今後、空飛ぶクルマなど大型化していく流れの中で非常に示唆に富んだ数値であろう。

ここから先は飛行性能の順位となる。(野波先生は上位10モデルを挙げたが、ここでは上位3モデルだけを挙げたい)

最高速度

  • 第1位:ヘリ、エンジン:COMCOPTER S-100(オーストリア)240km/h
  • 第2位:固定、エンジン:ASIS(イスラエル)235km/h
  • 第3位:固定、ハイブリッド:TALISMAN HD(イタリア)230km/h

飛行時間

  • 第1位:VTOL、エンジン:FLEXROTOR(アメリカ)33時間
  • 第2位:固定、エンジン:Raybird3(ウクライナ)28時間
  • 第3位:固定、エンジン:CRYX(スペイン)26時間

最大ペイロード

  • 第1位:固定、エンジン:BLACK SWAN(ブルガリア)350kg
  • 第2位:固定、エンジン:The NASC Teros(アメリカ)272kg
  • 第3位:VTOL、ハイブリッド:Chapparral(アメリカ)250kg

この各項目の上位10モデルに日本製の機体は一つも入っていない。第1位のみ、Youtube映像を参考につけたが、確実に今までの既存有人機体の自律化と思われ、そういった意味ではこれまでの固定翼開発に依存しているともいえよう。

現状のドローン状況の把握のため、野波先生はバッテリ電動に固定した機体タイプごとの飛行性能上位も示した。

最高速度

  • VTOL:Wingcopter 198(ドイツ)144km/h
  • 固定翼:Albatross(アメリカ)129km/h
  • ヘリコプター:SARAH 4.0(ベルギー)140km/h
  • マルチコプター:FALCON(アメリカ)105km/h

飛行時間

  • VTOL:Stalker VXE30(アメリカ)※燃料電池8時間
  • VTOL:V330Pro(中国)3.6時間
  • 固定翼:Orbiter3(イスラエル)7時間
  • ヘリコプター:Velos V3(アメリカ)1.6時間
  • マルチコプター:Goc Drones(フィンランド)1.2時間

現状の開発済のバッテリ電動のドローン機体の飛行性能は何らかのバッテリの進化がない中ではこの辺が限界値ということを示しているということだろう。

その他、機体のタイプ別のユースケースもまとめている。(上位5項目を挙げたが、ここでは3項目とする)

  • VTOL:1位災害対応(広域)、2位広域監視・警備、3位物資輸送
  • 固定翼(大):1位広域監視・警備、2位災害対応(広域)、3位インフラ監視
  • 固定翼(小):1位測量・マッピング、2位監視、偵察、3位警備
  • ヘリコプター:1位災害対応(広域)、2位物資輸送、3位監視・偵察
  • マルチコプター:1位警備、2位測量・マッピング、災害対応(限定地域)

これも実際稼働しているユースケースの比較というより、各モデルにおける対応ユースケースということなので、実際の活用ケースとは異なると思うが、海外においては、広域の災害対応や監視・警備といったユースケースも立ち上がってきていることが見てとれる。その他にも空飛ぶクルマの機体タイプや駆動環境の現在での開発状況にも触れていたが、少し視点が異なるので、また別の機会に考察したい。

この講演の後に、質疑応答となり、筆者自身はこういった長距離における通信環境に関して質問をした。

A:長距離通信の場合は主にホッピング通信を使っているケースが多いようだ。その他、衛星通信を使用しているケースもある。

その他、野波先生の講演において、日本は他国に比べて、ドローン開発が遅れているとあったが、その要因はどこにあると考えるかという質問もあった。

A:大きな要因は2つ。1つは人材の問題。海外では20~40歳ぐらいの優秀な若い人材が年収数十万ドルの給与で2~3年ごとに機体メーカーで得意分野の開発を行い、転職をするといったサイクルになっている。そういった人材はそれまでの教育環境の課題もあり、日本では少ない。少ない日本人の人材も、日本の機体メーカーではそういった給与も出すことができないため、海外で働いている。また、同様な理由で、海外の優秀な人材も日本の機体メーカーには入ってこない。

もう1つは、この人材の確保にも通じるが、機体メーカーへの資本投下のレベルが低い。(要は投資金額が少ないということ)そのため、海外の開発スピードについていくことが出来ない。この件に関しては、そのあと、展示ブースで野波先生とじっくり話をしたが、投資金額の件もそうだが、人材教育の件は根が深く、また、時間がかかる問題だ。(海外では2015年ぐらいから、各国ともに大学にドローン学部がいくつも出来たが、日本においては、大学において一つもドローン学部が設立されていないのは、かなりの遅れとなっているといえるだろう)

今回の野波先生の講演は非常に興味深い内容であったし、また示唆されるものも多く、ドローンの機体メーカーはこういった状況を踏まえ、戦略を練り直す必要があると思うが、ドローン産業全体(サービスなども含む)から見ると、もう少し考察する必要がある。

それはドローンの機体タイプがその用途にとって、二極化しているということである。それは中長距離の航行を目的とするドローンと短距離(3km程度)までの航行を目的とするドローンだ。今回、野波先生が主に提示したものは前者の中長距離のものであり、実際に既に実運用されているドローンは後者の短距離ドローンである。代表的なものはDJIのMavicだ。圧倒的に台数も後者のほうが多く、また、その機体に伴うサービスやソリューションも後者のほうが多い。

それは米国でのhe Defense Innovation Unit(DIU/防衛イノベーションユニット)とthe Army’s Maneuver Center(陸軍機動センター)といった国防機関が連携して、SRR(Short Range Reconnaissance/短距離偵察)Programから発し、DJI Mavic対抗として、Blue sUASといったプロジェクトにより導入が進んでいったことから、先に実用化した形となっている。(野波先生にリクエストしたのは、機体性能のランクとして、機体の小ささや機体重量比における飛行時間などや加えてほしいとお願いした)

いずれにせよ、この短距離ドローンの分野においても、日本の機体メーカーはほとんどキャッチアップ出来ていない。唯一、ACSLのSOTENだけがサイズとしては対抗しているが、DJI MAVICや米国のBlue sUASの機体群と比較した場合にはまだまだ様々な部分で難しい部分が残っているのは事実だろう。

野波先生と話をしたこと

野波先生は日本でのドローン研究者の第一人者であり、お会いするといつも色々と話をさせていただくが、その話はとても興味深いものだ。

千葉大から助教授昇任の話があり帰国。NASA滞在中に知った有人ヘリコプターの姿勢制御支援システムがきっかけで小型無人ヘリの完全自律制御化の構想を練り、1998年からラジコンヘリメーカーのヒロボー社と共同研究を開始。

当初はマイコンで姿勢制御や位置制御をして人が操縦する必要がなくなるということが何度説明しても理解してもらえなかったという。研究成果が出ず苦戦を強いられ大学院生たちにも「この研究を止めようと思うがどうか」と話すまでになっていたが、一人の大学院生が「データに1か所実験値と理論値が異なる個所がある」と指摘し、プログラムを修正したところ実飛行データとシミュレーション段階で一致し、2001年に日本初の自律飛行に成功。(Wikipediaより)

2013年に株式会社自律制御システム研究所(現ACSL)を創業。上場後、ACSLは退社し、現在は、一般財団法人先端ロボティクス財団の理事長として、今なおVTOLカイトプレーンの開発を行っている。

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このVTOLカイトプレーンで東京湾を渡り、神奈川と千葉を結ぶ物資搬送の実用化にチャレンジしている。(今回の講演内容もこういった開発機の世界でのポジショニングを探るということもあるのだろう。そういった意味でも、いつでも世界との競争を意識しているという点で素晴らしい)

野波先生と会話したことをいくつか紹介したい。

物資搬送の技術的なこと

ビジネスモデルの問題で解決しなければならない点は多いが、そのビジネスモデルに関するハードルを下げるためにも、ドローンにとって適正な方式を選択する必要がある。世界でもZiplineがその成功例となっているが、日本でも唯一実用化にむけて最適なものは、五島列島でのZiplineのケースだろう。

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現在、VTOLカイトプレーンがそれに続くべく、実験を繰り返しており、だいぶいいところまで来た。(首都圏ということもあり、色々苦労が多いが)少し気になるのは、LEVEL3(人口集中地区以外の目視外飛行)の機体認証が施行される件。(これはZiplineの機体も含め、超えなければいけない課題も多いだろう)

日本でドローン搬送を本格化するのであれば、海外のトレンドと同様で、固定翼やVTOLの活用が必須だろう。明らかに飛行スピードやペイロード、飛行時間に優位性がある。海外もそうだが、日本でも人口集中地区でのドローン搬送はリスクとコストの兼ね合いが合わないので、まずは人口集中地区以外での実用化を目指すべきだ。そして、まずは拠点間搬送になるので、廃校の校庭などに固定翼機のドローン発着場といったインフラを作るのがよい。直径25mぐらいの円で十分だ。

そのドローン発着場のインフラに関して、技術上のルールを共通化して、また、着陸のガイドや自動管制システムなどを設置して、ドローンが使いやすいインフラ構築を国はどんどん推し進めるべきだ。これは今後、空飛ぶクルマに進んだときのインフラにも成りうる。

オートパイロットにおける誘導について

野波先生を初めとして、鈴木先生、王先生、三輪先生が執筆する、主にオープンソースのPixhawkとArduPilotを使って、ドローン製作を行うことが出来る教則本「ドローンのつくり方・飛ばし方―構造、原理から製作・カスタマイズまで―」が8月に出版された。

とてもわかりやすく、ドローンの技術を知りたい人にとって最適な本となっているのでぜひ興味のある人は読んでほしいのだが、その中で野波先生が執筆した部分に関してわからない部分があったので伺ってみた。それは以下の部分だ。

現在のドローンでは、この航法(Navigation)と制御(Control)のことをフライトコントローラー(FC)と呼んでいます。また、広くオートパイロットとも呼ばれていますが、現状のオートパイロットはAP=NS(航法)+FC(制御)のことです。本当のオートパイロット(AP)とは、ガイダンスという誘導があってはじめてAPとなります(ドローンのつくり方・飛ばし方より、P6(1部加筆・省略)

現状のAPには誘導(ガイダンス)がないということですが、それはどういうことですか?

現状のフライトコントローラー内のArdupilotやPX4といったフライトコードに誘導といった部分が存在していない。あくまで、自己位置と目的地点との関係(主に緯度・経度・高度)において、航法と制御を組み合わせて、航行をしている。 現状の仕組みでは、誘導といった部分を行うために、代表的なものはコンパニオンコンピューター上で実行されるSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)といった技術により実行されている。(野波先生はドローンでのSLAM研究の第1人者でもある)

現在、この誘導を組み込んだフライトコントローラーの開発を行っている。これは特に航行スピードが上がっていった場合に、コンパニオンコンピューターでの実行では追いつかない可能性があり、フライトコントローラーのサイクルの中で誘導も組み込んだものにしたい。

これだけ深いところまでドローンに精通しているのは話を伺っていて、興味深い点が本当に多い。また、今もなお、その研究心が盛んで様々なことにチャレンジしているのも頭が下がる思いだ。

その他、ドローンサミットの会場で戸澤さんに聞いた通信の話とか、色んな人に興味深い話を聞いたけれど、それはまたそのうちに機会があれば。

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